社員食堂
年が明けて、通常通りの日々が戻ってきた。正月気分もとっくに抜けた一月半ば頃。社員食堂で、珍しい人物を見つけた。白石さんと赤城さんは仲良く列に並んでいる。
後ろから声を掛けた。
「お弁当組じゃなかったっけ?珍しいね。」
二人はビクッとして振り返った。
「黒川さん、ビックリするんで、名前呼んでから声掛けてください。」
「妖怪に出会った様な反応は傷付くんですけど。」
「背後から声を掛けられたら、大抵こんな感じだと思います。」
「それは失礼しました。」
「たまにはいいかと思って。社食美味しいって聞いてるんで来てみたんです。」
「赤城さんも?」
「結衣の付き添いです。一人じゃ寂しいらしくて。」
赤城さんは肩を竦めてみせる。
彼女は白石さんと二人で事務の二大美女と呼ばれている。白石さんが百合の花なら、赤城さんは薔薇だろうか。華やかなだけでなく、仕事も優秀なので上司からの信頼も厚い。
「ああ、ラーメンも一人じゃ行けないもんね。」
「まだ誘ってもらってませんけどね。」
彼女がジト目で僕を見た。
「正月太ったから控えてただけなんだけど、白石さんは大丈夫?」
「女性に聞く事じゃないですよ。」
呆れた顔で僕に言う。赤城さんはクスクスと笑っている。
列は進んで行き、もうすぐ僕達の番だ。
「何食べるんですか?」
彼女はメニューを見ながら聞いてきた。
「カレーライスにしようかな。白石さんと赤城さんは何にするの?」
「私は日替わりのA定食にします。今日は、お魚みたいなんで。」
彼女は答えてくれた。魚好きなのか、覚えておこう。
「私はB定食にします。豆腐ハンバーグ好きなんで。」
二人共健康的だなと感心する。お弁当作ってるみたいだから当たり前か。
カレーライスを注文して出てきたところで、彼女が横から覗き込んできた。
「サラダ食べないんですか?」
「生野菜好きじゃないだよね。ポテトサラダなら食べるけど。」
「ポテトサラダはサラダに含めたらダメじゃないですか?炭水化物と油脂ですよ。」
「…きゅうりと人参は入ってる。」
僕は喰い下った。
「野菜の量が少ないです。」
彼女は、眉根を寄せている。なんか、母親に怒られてるみたいな雰囲気だ。
「生野菜が嫌なら、煮浸しとかもありますよ。」
小鉢を指差して勧めてくる。
「じゃあそれで。」
僕は渋々小松菜の煮浸しを手に取って、トレイに乗せた。彼女は満足気に頷いている。
「野菜食べないとか子供じゃないんですから。」
呆れた声が聞こえた。
赤城さんがさっきのやり取りを聞いていたらしく、お腹を抱えて笑っていた。
後日
今日は後輩と社食で昼食中だ。
あれから社食に行く度に、昼食の写真を彼女に送っている。ちゃんと野菜食べてますよアピールなのだが、たまにダメ出しされる。最近やっと及第点がもらえるようになってきた。
後輩が取ってきたポテトサラダを指差し忠告する。
「青木、ポテトサラダは野菜に分類されないみたいだぞ。」
「なんすか。ソレ。サラダでしょう?」
不思議そうな顔で僕を見る後輩に、笑って言った。
「お前見てると安心するよ。」
今日もスマホで昼食の写真を撮ると、彼女にメッセージを送る。さて、今日は何て言われるやら。