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僕達の日常  作者: さきち
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青木家2

窓ガラスに付いた水滴が太陽の光を反射してキラキラ光っている。窓の向こうには晴れた青空と白い雲が見えた。樹々が雨粒に濡れて、いつもより色濃く眼に映る。

雨上がりの道を、車は快調に進む。八月も終わり、九月に入ったけれど、まだまだ暑い。車内はクーラーが効いているから涼しいが、一歩外に出るとモワッと暑苦しいに違いない。


実家暮らしの彼の家に行くのは緊張する。隣の後部座席でジュニアシートに座っている、ご機嫌な瑠璃の相手をしながら、私は緊張が顔に出ないように気を付けた。

今日は弟さんもいるらしく、爽君と言う名前だと聞いている。聞いた話では、仲が良いらしい。

今までは、私と瑠璃とだけで会っていたのに、最近は彼の友達に紹介されたりする。彼が私を友達に紹介してくれたのは、正直言って嬉しかったのだけれど。彼はいつもオープンで、家族にも会って欲しいと言われ、今ここに居るのだけれど…。


彼は付き合った当初から、結婚を意識してくれている様だ。嬉しくもあるんだけど、不安でもある。

結婚は綺麗事では済まされないからだ。二人が好き同士なら良いと言うものでもないと思う。古い考え方かも知れないけれど、家と家の繋がりでもあるだからだ。相手の家族に関わらずに生きてなんていけない。私は、彼の家族を受け入れられるだろうか…。そして、私と瑠璃を受け入れてもらえるだろうか…。そんな不安が付き纏う。

司が、結衣ちゃんの家族と仲良くしてると聞いて、羨ましいと思っていた。上手くやったもんだ。この様子なら、本当に結婚も近いかも知れない。

それに比べて私は…。司の様に過去が綺麗な状態じゃないしな…なんて思ってしまう。不安に感じる自分が、情けなくて。歩君を信じたいのに、今朝出掛ける時に、怖さで足が震える程で…。私は心の何処かで、拒絶される事を怖れてる。過去の自分を否定する事はしたく無いけれど、堂々と胸を張れる自信も無いのだ。間違った事をしていたのは事実なのだから…。私自身はどう思われても身から出た錆だから良いけれど、瑠璃に罪は無い。喉が詰まる様な不安を、水と一緒に飲み込む。


何気なくバックミラーを見ると、私たちの様子を確認していた彼と目が合った。彼の家に近付く程に、口数が少なくなる私を心配そうな瞳が見詰めている。不安が顔に出ていたかも知れないと、ハッとして笑顔を顔に貼り付けた。


窓の外を眺めると、風が雲を流して、青空が広がっている。

「もうすぐだよ。」

「瑠璃ちゃん、疲れてない?」

「大丈夫!」

元気一杯に瑠璃は答えて、笑う。私も瑠璃を見習わなければ。


青木家は和やかな雰囲気が漂っていた。意外な程、何事もなく時間が過ぎて行く。近くに公園があるらしく、すっかり懐いた瑠璃を、爽君が遊びに連れて行ってくれている。私は決心して、彼のご両親に話し掛けた。

「あの、彼から私の事は聞いて頂いてますか?」

「はい、聞いてますよ。」

「…瑠璃が不倫の末に、出来た子だって事もでしょうか?」

「…いえ、そこまでは。何か事情があるとは思っていましたが…。」

私は歩君を見詰める。思わず溜息が出た。通りで…、上手くいき過ぎてる気がしたんだ。

「全部話さないのは、フェアじゃないと思う…。」

咎める視線を送るも、彼は動じない。

「明美がどういう人か知ってもらう事の方が、重要だと思っただけだよ?」

何でもないことの様に、彼は言う。

「だから言わなかったの?それは騙してるのと一緒だよ。」

「違う!そんな事は重要じゃない事だろ?」

「どこが?言わない方が良いと思ってたって事でしょう?否定される事を考えて。」

悲しくなってきて、目に涙が溜まってきたけれど、必死に堪える。今は、泣けない。泣いちゃいけない。

「違う!否定される事なんてないと思ってたからだよ。」

そう思ってたなら、なぜ話さないのか。どうしてかと考えると、胸が締め付けられる様に苦しくなる。

「全部話してない事が、その証拠じゃないの!私は、騙すのは嫌なんだよ…。それで私や瑠璃を好きになってもらったとしても、受け入れてもらった事にはならないでしょう?…あなたは、無意識に私達を否定しているんだよ。」

耐え切れなくて、思わず涙が零れた。ああ、もう!ご両親の前で、こんな姿を見せたくはなかったのに…。

「違う!否定なんてしてない!」

必死に私を見詰める彼だけれど、何を言われても言い訳に聞こえて、心に届かない。もう、心がグチャグチャだ。涙も止まらないし、どうしたらいいんだろう。


しばらく私達を心配そうな視線で、黙って見詰めていたお父さんが口を開いた。

「…あの、息子を弁護させてください。この子はそこまで考えていなかっただけだと思います。」

ああ、気を使わせてしまっている。申し訳なくて、ここから消えてしまいたくなった。

「…お見苦しいところをお見せしてしまって、申し訳ありません。」

ハンカチで目元を拭う。

「いえ、歩の所為だと思います。」

お母さんが、呆れた様に彼を見ている。歩君は何故こうなったんだと言わんばかりの、困り顔だ。

「歩は小さい頃から、人との間に壁を作らないんです。だから、貴方達を否定する事はありません。どうか、それだけは信じてやってくれませんか?」

お父さんも私を気遣わしげに見詰めた。

「……はい。」

心は納得していなかったけれど、一応返事をする。ここで意地を張っても仕方ない。

「それにしても、正直な人ですね。何故歩があなたを選んだのか、分かる気がします。」

「…そんな。私は大したことない人間です。」

「ああ、そうだ。昔話をしても良いでしょうか?」

「…昔話ですか?」

「あれは丁度、爽が生まれた日の事です。」

そう言って、懐かしそうにお父さんは話し出した。

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