青木家
今日は珍しく家族全員揃っての夕飯だったので、丁度いいと思った。弟の爽(二十歳)がバイトやサークルで忙しく、僕自身も残業や飲み会があったりするから、全員揃う事が少ないのだ。成人した男兄弟だから仕方ない。だけど、仲が悪い訳ではない。むしろ良い方だと思う。一緒に買い物に出掛けたり、下らない話をしたりも良くするから。
「父さん母さん、家に彼女連れて来たいんだけど。」
僕は何気なく話してみる。
「もちろん良いさ。連れて来い。」
「珍しいわね。高校生の時以来じゃない?」
「あれ?そうだっけ?」
別に意識してなかったけど。そう言えば、久しぶりかも知れない。
「結婚を考えてる相手だったりするの?」
母さんは鋭いなぁ…。もしかしたら、僕の様子をさり気なく観察していたのかも知れない。出かける時に、今日はデート?なんて聞かれた記憶がある。
「うん。でも向こうが承知してくれないんだ。」
「あら、どうして?」
「彼女、未婚の母だから。」
「…子供がいるの?」
母が驚いた様に目を見開く、そして心配そうに僕を見詰めた。
「うん。4歳の女の子。」
「…そうか。」
父はただ、そう言った。母も心配ではあるだろうけど、何も言わなかった。
「反対しないの?」
大丈夫だと思っているけれど、一応聞いてみる。
「…過去の自分を否定したくないからね。」
「父さんなら、そう言ってくれると思った。」
信じていたけれど、内心ホッとしたのは事実だ。母さんは苦笑いしている。
「お前は間違いなく俺の子供だよ。血は繋がってなくても。」
「ははは、そうだね。」
「写真かなんか無いのか?」
好奇心が疼いたのか、父がそんなことを言う。
「あるよ。見る?」
僕は父さんと母さんに、スマホの写真を見せた。母さんも覗き込む様に見ていたから、興味があった様だ。
「まぁ、綺麗な人ねぇ。この子も可愛いわぁ。」
「…面食いな所も似たみたい。」
父さんが母さんにボソリと呟いている。あら、やだ。あなたったらなんて母さんが照れている。昔から子供の前でもお構いなく、イチャつく両親なので今更驚かない。仲のよろしいことで。
「兄さんの彼女って、子持ちなんだ。」
ずっと黙っていた弟の爽が口を開いた。
「そうだよ。」
「何で今まで、黙ってたのさ?」
少し不満そうに言う弟は、秘密にしていたとでも思っているのだろうか。
「彼女出来たって報告しただろ?ああ、そうなんだで、スルーしたのはお前じゃないか。興味無さそうだったから、言わなかっただけ。」
「でもさぁ、相談ぐらいしてくれてもさぁ…。」
ブツブツ文句を言っている弟の顔は、まだ不満げだ。
「だから、今してるじゃないか。」
「…ああ、そっか。それにしても何でなのかな?なぜその人なの?」
今度は不思議そうな顔で、いくら美人だからって、兄さんモテるのに…なんて言われる。
「何でって言われても…、明美に出会ってしまったんだから、仕方ない。他の人が目に入らないくらい、好きになってしまったんだよ。その家族も含めてさ。大好きな先輩のお姉さんで、美人だし。美人なだけじゃなくて、可愛いし、一緒にいて安心できて楽しいんだよね。そういう人にこれから先に、出会えるかどうかって考えたら、もうないんじゃないかって思ったんだよ。これは運命だってさ。」
きっとこの感覚は、なってみないと分からないんじゃないかと思う。この人ならって、思う感覚はどう言ったら良いんだろう?
「結婚するの?」
「僕はしたいんだけどね。どうしたら、うんって言ってくれるかな?」
「僕に言われても分からないよ。たださ、不安があるから頷いてくれないんだろ?」
「ああ、そうだな。」
「不安を取り除くしかないんじゃないの?」
「やっぱりそうかなぁ…。」
「想像だけど、子供がネックじゃない?」
「そう、だよなぁ…。」
瑠璃ちゃんって名前だから、そう呼んでと僕は家族に話す。
「やっぱり、知ってもらうしかないんじゃないの?僕達の家族をさ。ねぇ、父さんも母さんもそう思うよね?」
「そうだな。」
「そうね。」
僕もそう思って、家族に会わせたいって思ったんだけど。同じ様に感じてくれてて嬉しくなる。
「…爽って、こんなにしっかりしてたっけ?」
「もう大学生だってば。成人してるんだから、いつまでも子供扱いしないでよね。」
そう言って膨れる顔は、まだまだ子供っぽいんだけど。
明美の家族にはもう会ってることを話すと、家族は呆れた顔をした。あれ?何で?と思ったら、兄さんって怖いもの知らずだね…なんて言われる。
「昔から、行動が大胆なところがあるから…歩は…。前しか見てないと言うか…。」
そこが良いところなのかしら?と母さんは苦笑いをする。
「母さんの慎重さは、僕にしか受け継がれなかった様だよ?」
爽が笑って、母さんまで本当ねと笑う。一応慎重に行動してるつもりなんだけど、家族にはそうは映らないようだ。
「向こうのご両親に、失礼は無かったのか?」
父さんは心配そうな顔をした。
「そんな事する訳ないだろ?」
「それなら良いんだ。」
ホッとしたように息を吐いて、僕を見る。
「あ、でも初めて会った時、先輩には興味本位で近付くなって、言われたけど…。」
「…それでめげないお前は、やっぱり俺の子だなぁ…。」
昔、お父さんも、お母さんに散々断られたのだと言う。でも好きだったからアタックし続け、とうとう母さんは折れたのだ。
父さんは僕と仲良くなろうと、沢山遊んでくれてた時の昔の記憶が蘇って来た。はじめは何?この人は?と訝しく思っていたのに、会うと楽しくて、すぐに好きになってしまったんだ。…懐かしい。あの時、父さんが諦めなかったから、今のこの家族の団欒があるんだな…。
僕が黒川家の家族が好きなように、僕の家族とも、明美と瑠璃ちゃんが仲良くなってくれて、不安が取り除けるならどれ程良いだろうか…。
会ってくれれば、絶対気に入ってくれると信じてる。僕の家族も、明美や瑠璃ちゃんを好きになってくれると思うし。
だから、見てよ。僕の自慢の家族をさ。