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僕達の日常  作者: さきち
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彼の家

墓参りの後、手土産のスイーツを買って、司さんの実家に向かう。評判の良いパティスリーをリサーチしたので、大丈夫だろう。司さんは気を使わなくて良いと言うけれど、そうはいかない。こういう場合、彼の言葉を鵜呑みにしてはいけないのだ。青木さんにも負けられないしね。


玄関の前に立つと、緊張で自分の顔が強張っているのが分かる。司さんは私のほっぺたをプニッと摘んで、ふっと笑った。もう!と思ったけれど、今は司さんに文句を言う余裕も無い。

インターホンを彼が押すと、ガチャリと鍵を開ける音と共に彼のご両親が出迎えてくれた。お父さんは司さんに似て長身で、笑った顔も彼に似ている。お母さんは明美さんに似ていて、彼にはあまり似ていないけれど、目元は似ているかも。

「初めまして、白石結衣です。」

ペコリと頭を下げて挨拶をする。

「いらっしゃい、父の信司です。」

「母の由美です。さあ、どうぞ。上がってね。」

「あ、これ、お口に合うと良いのですが。ケーキなので冷蔵庫に入れてください。」

スイーツを差し出して、お母さんに渡す。あら、ありがとう!と更に笑顔になってくれたお母さんを見て、ホッとした。

「誠司のお墓に行ってきたんだって?」

お父さんは、私と司さんに話し掛ける。

「うん。」

「はい。」

「ありがとう。きっと喜んでると思う、司の彼女が見られて。司の事は可愛がっていたから。」

「あなた、立ち話も何だし…。」

「ああ、ゴメンゴメン。」

どうぞと促されて、靴を脱ぐ。


お邪魔しますと用意されたスリッパを履いて、室内に入ると青木さんがこんにちはと挨拶してくれた。明美さんと瑠璃ちゃんも、こんにちはと笑顔で挨拶してくれる。私も挨拶をし返しながら、ここが司さんの育った家なのかと感慨に耽ってしまった。

「先輩、お先にお邪魔してます。」

「青木もう、着いてたんだな。」

そう言って、司さんは私にソファーに座る様に促して、自分も隣に腰掛けた。

「バーベキューなんて、凄く久し振りじゃない?」

司さんがお母さんに話し掛けている。お母さんは私達に用意した麦茶を、トレイに乗せて持って来てくれた。カラリと氷がグラスを鳴らす。

「だって、お父さんが、瑠璃と明美の話を聞いて、久し振りにバーベキューしたいって言い出したんだもの。」

ああ、この前の黄瀬さん達とやったから。

「瑠璃が楽しかったって言うもんだから、したくなってね。大勢の方が楽しいから、青木君も誘ったんだよ。」

お父さんは笑って、子供達は大学生になって家を出たから、本当に久し振りだと話す。人数が多い方が、色々な種類のものを焼けるし、楽しいらしい。


司さんの実家はこじんまりとした一軒家だけれど、駐車場と小さなお庭がある。お母さんの趣味がガーデニングらしく、植木鉢やプランターには、色とりどりの花や木が植えられていた。庭の一角にバーベキューコンロがあって、日陰を作るタープが張られている。折りたたみの椅子とテーブルがセットされていて、室内にもすぐ入れる様になのか、窓の外には踏み台が置かれていた。


室内はエアコンが効いているので涼しい。

食材はまだ室内に置かれている。外は暑いからだろうか。野菜やお肉の他に、ビスケットとチョコレートとマシュマロが用意されているのは、アレをするつもりだろうか。楽しみだ。


サンチュとは別に、サラダが二種類用意されていて、片方は生野菜のシンプルなサラダ、もう片方はブロッコリーとエビとゆで卵のサラダだった。

「もしかして、こっちは司さん用ですか?」

ブロッコリーのサラダを指さして、お母さんに聞いてみる。

「あ、分かる?コレは瑠璃と司用なの。あの子、食べない野菜が多いから大変でしょ?図体は大きいのに、食の好みは瑠璃と一緒で子供だから。」

瑠璃ちゃんも生野菜が苦手なのだとか。4歳児と同列で語られる彼の好みは、昔から変わらないらしい。

「ふふふ、そうですね。緑のピーマンと、ゴーヤはまだ食べてくれません。」

「あら、あの子ったら相変わらずねぇ。」

そんな事を話していたら、お父さんはトングと肉を盛った皿を持って立ち上がる。

「みんな揃ったから、始めようか。」

お父さんが庭に出て行くと、司さんと青木さんが他の材料を持ってその後に続く。コンロは、いつでも焼ける状態にしてあった様だ。

暑いから室内にいたら良いと言ってくれたけれど、やっぱりバーベキューは外でやるから楽しいと思う。結局みんな外に出た。


お父さんは、どんどん肉や野菜を焼いてくれる。ビールを飲みながら司さんや青木さんはそれを私達女性陣に運んできてくれて、座りっぱなしで良いのだろうかと思ったけれど、お母さんや明美さんは、お喋りに夢中だ。男性陣も焼くのを交代しながら、喋りつつ飲みつつ楽しそうなので、まぁいっか。これが黒川家の普通なのだろう。


司さんのお父さんは、ナスを食べた司さんを驚いた様に見る。

「ナス、食べられる様になったのか?」

「社会人になってから、食べられる様になったの!昔よりは進歩してるんだよ?」

「瑠璃はナス好きだよ?」

瑠璃ちゃんは、司さんの腕をツンツンして主張した。

「僕も今は好きだよ。」

負けずに、彼も主張する。何を張り合ってるんだろう。4歳児と28歳の闘いが始まった。

「ピーマンは?」

お父さんの言葉に、彼は一瞬言葉に詰まる。そして、ふっと息を吐いた。

「…世の中には、黄色や赤のピーマンもあるんだから、わざわざ苦い緑のピーマンを食べる必要は無いと思うんだ。」

あ、開き直った。

「瑠璃、緑のピーマン食べられるよ?」

パクリと緑色のピーマンを頬張って、瑠璃ちゃんはピースサインをして勝ち誇る。

「…凄いね。」

司さんは目を見開いて、瑠璃ちゃんを見た。どうやら、4歳児に敗北したことを認めた様だ。

そのやり取りに、お父さん、お母さんと明美さんは苦笑して、青木さんは笑いを堪えている。そりゃ、そうだろう。今日の司さんは、いつもより子供っぽい。ご両親がいるからかな?

私も笑いを堪えていたら、目に涙が滲んだ。ああ、マスカラ取れたらどうしよう。そんなみんなの様子に、司さんは唇を尖らせた。

「ピーマンなんか食べられなくても、困らないから良いじゃないか…。」

「将来、子供に好き嫌いするなって言えなくなるな…。」

お父さんはそう言って、呆れた顔をする。

「…その時になったら、食べるって。…多分。」

彼は目を泳がせた。本当かなぁ?


デザートにマシュマロを炭で炙って、焦げ目が付いたらチョコを乗せてビスケットで挟んだ。一口食べて、瑠璃ちゃんと顔を見合わせる。ああ、最高!明美さんがアイスコーヒーを持って来てくれて、甘さを苦さで中和したら、また一口とエンドレスでいけそうな気がした。お肉一杯食べたのに、甘い物は別腹だな。

お母さんは、イケるでしょう?とドヤ顔で、やっぱりお母さんが用意してたんだと分かる。自分も同じ様にマシュマロを炙って、ビスケットでサンドしたものを美味しそうに食べていた。

ソレ、美味しそうと、司さんや青木さんも真似をしてくる。


そんな感じで楽しい時間は過ぎていく。玄関であれ程緊張してた自分が、今となっては不思議な気分だった。それだけ黒川家のみんなに、受け入れてもらっていると感じたからだろうか。青木さんに、並べたかな?


私の家族とも、司さんがこんな風になってくれたら良いななんて、彼を見詰めながら思ってしまった。

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