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僕達の日常  作者: さきち
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形見分け

叔父の形見分けのためその友人達に集まってもらった。と言っても皆んな忙しいので、今日は同じマンションに住んでいる二人だけだ。その他は個別に対応している。遺言ほど拘束力はないが、叔父の希望を書き記した手紙があるので、その通りに分配するだけなのだが、友人が多かったので結構大変だ。

僕や姉も昔から叔父の友人達の輪に加わって、可愛がってもらった。


叔父の遺言の作成にも立ち会った桃井さんは弁護士だ。ロマンスグレーの髪を後ろに撫で付けて、かっちりとしたスーツを着ている。生真面目だが、気さくな性格なので話しやすい。彼には叔父の腕時計を渡す。彼は感慨深げに受け取った。

もう一人は黄瀬さんだ。少しお腹が出ていてどっしりとした体格をしている。とても人脈が広い上に噂好きと言う性格で、とにかく情報が速い。この人に知られた事はすぐに広まってしまうという厄介さだ。この人は不動産屋なのだが、僕も学生時代に賃貸アパートを紹介してもらっている。この人にソファーを譲る様に書かれていた。


「本当に良いのかい?このソファー結構高いよ?」

黄瀬さんは革張りのソファーを撫でながら、念を押す様に聞いてきた。

「叔父の希望ですから。」

僕は彼が叔父の家に来る度に、このソファー良いなぁって言っていたのを知っている。出来れば気に入ってる人に譲りたいだろう。


「美穂さんはどんな物を貰ったの?」

黄瀬さんが聞いてきた。

美穂さんと言うのは叔父のパートナーだった女性だ。二人は結婚はしなかったが、周囲からは公認の仲だった。

「長く身に付けていた物が良いと言って、眼鏡と帽子を持っていかれました。」

「そうか。美穂さんはまだまだ辛いだろうな。」

しんみりと黄瀬さんが言った。僕もそう思う。僕達だって叔父の死はまだまだ辛いのだ。美穂さんはもっと辛い事だろう。


「明美ちゃんは元気?」

桃井さんが聞いてきた。

「元気ですよ。瑠璃も元気です。実家に帰ってからは、前程無茶してませんし。」

「そうか。相手の名前さえ教えてもらえたら、慰謝料と養育費ぐらいふんだくってやるのに。」

だから言わないんじゃないですかね?僕は心の中で思う。

「家族にも言いませんから。」

「いつでも相談に乗るからって言ってるんだけどなぁ。」

桃井さんは不服そうだ。

「お前に言ったら、相手の尻の毛までむしり取りそう。」

そう言ったのは黄瀬さんだ。

「失礼な。適正価格をむしり取るだけだよ。」

どっちにしろ、むしり取るんだね。

「金銭面では叔父が姉に残した遺産もありますし、本人も仕事してますから大丈夫でしょうけど。」

「明美ちゃんが良いなら、こっちが口出す事じゃないけど、気分的にさぁ。」

桃井さんの気持ちはよくわかる。姉を孕ませた癖になんの責任も取らない相手に憤っているのだ。逆に相手の奥さんから慰謝料を請求される場合もあるんじゃないかと僕は思ったが、そんな事は百も承知で言ってくれているのだ。それ程親身になってくれている彼を有り難く思う。


「そうそう、今年は花見やらないか?」

黄瀬さんが言う。毎年叔父の友人達で花見をするのが恒例行事だったのだ。

「良いね。去年はそれどころじゃ無かったしね。」

桃井さんも同意する。去年は叔父が病気で亡くなってしまったのでそんな話すら出なかった。

「誠司は毎年、重箱にお弁当作ってくれてたんだよなぁ。また食べたいよ。」

料理が趣味の叔父は毎年、重箱におかずを詰めて花見の席に持って行っていた。

「ああ。だし巻きが恋しい。」

「重箱自体はありますから、作るならお貸ししますけど。」

僕は提案するが、奥さんに頼むのは気が引けるらしい。あれだけの量を作るのは結構大変なのだ。

「司君の彼女にでも頼んでくれない?」

桃井さんは言う。

「そんなものは居ません。」

「結構優良物件だと思うけど。なんでかなぁ?」

黄瀬さんが不思議そうに言う。そんなの、こっちが聞きたいわ。

「世の女性は見る目が無いのか?」

桃井さんまで僕をジロジロ見ながら言う。

「司君、高嶺の花狙いなんじゃないの?」

高嶺の花と聞いて、彼女の顔が頭に浮かんだ。

「そうかも知れません。」

僕は呟く。

二人はおお〜と声を合わせてニヤニヤ僕を見た。

「もう!さっさとソファー運びますよ!」

僕は照れ隠しで二人を急かす。二人の追及は結構執念かった。

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