買収
月曜日に莉子と一緒に昼休みにお弁当を食べながら、取り留めのない話をしていた。そこで、元彼の達也の話題になる。食後にお茶を飲みながら、金曜の事を思い出していた。
「会って良かったよ。」
「そう。スッキリしたみたいだね。」
「うん。背中を押してくれた事、感謝してる。ありがとう。」
私は莉子に達也の近況と、何を話したのかを掻い摘んで説明した。
「そっか。彼、結婚するんだね。」
莉子と達也は、私を介して何度か一緒に食事をした事もある。浮気されて自棄酒に付き合ってくれたりもしていて、一番心配をかけているんだ。だから、ちゃんと報告したかった。
「うん。幸せそうだった。お腹が目立たないうちに、写真だけ先に撮ったんだって。ニヤニヤしながらそれを見せてくるのよ、アイツ。なんか、そういうとこ、変わらないなぁって思っちゃった。」
「そっか。」
莉子は微笑む。
「結婚祝いを贈ろうと思ってるんだけど、何にしようかな?」
「もう一緒に住んでるんだよね?難しいね。」
「そうなんだよね。う〜ん。」
「私のオススメは、バスボムとかのセットかな。お風呂好きの女の子は大抵喜んでくれるよ?使うと無くなるし、二人でも楽しめる。しかも自分で買うには、結構高い。」
「あ、お店でギフト用のセット見たことある!パッケージも可愛いし、良いかも。志保ちゃん好きそう。」
決定!それにしよう。決まって良かった。プレゼント選びって楽しいけど、難しい。私がニコニコしていたからだろうか?莉子はまた微笑んで、私を見詰めた。
「…そんな風になれて、良かったね。」
「うん。…私ね、達也と話して気付いたんだ。私は二人共嫌いたく無かったんだって。」
「そうだよね。嫌い続けるのって、辛いよね…。」
「うん。だからさ、ありがとね。」
面と向かってお礼を言うのは照れ臭いけど、ちゃんと言わないとね。本当に感謝してるんだよ。
「私は何もしてないよ。会うのを、決めたのは結衣だから。」
「でも、少しだけ勇気を出して良かった。じゃなかったらきっとモヤモヤしたままだったと思う。」
「その勇気を出したのも、結衣自身だよ。」
「司さんにも、変に感心されたなぁ…。」
カフェで出会った時の、バツの悪そうな彼の顔が浮かぶ。思わず笑いそうになってしまった。
「あ、そう言えば、司さんに話したでしょう?カフェに居てビックリしたんだから!」
「…あまりにも必死そうだったから、つい。黒川さん、顔には出ないけど、なんだか切迫したものを感じたのよね。」
「確かに、心配してたっぽい…。」
心配そうな目でこっちを見ていることがあって、何度かハッとしたことがある。私は、考えていることが表情に出やすいから、余計に心配になったかも知れない。莉子に賄賂を持って行って、情報収集するぐらいには。
「それに黒川さん、愁に私の好みを聞いて、地ビールと缶つまの詰め合わせ持ってきたんだよ?缶つまは通常のより高い、プレミアムなやつ!もう、賄賂なんてレベルじゃなくて、買収よ買収!彼の本気を感じたわ。」
「うん?もしかして、それにつられて教えたんじゃ…?」
「………まさか。」
何だ?今の間は?莉子の目が泳いでいる。
「…本当に?」
「チーズ煎餅持って来た時は、教えられないって突っぱねたんだけど、めげずに詰め合わせ持ってくるから、可哀想になっちゃって…ちょこっとヒントを…。要らないって断ったんだけど、置いていったのよ?」
「…で?美味しかったの?」
「うん!凄く美味しかったよ!さすがプレミアム!罪悪感と言う名の調味料がプラスされて、格別に美味しく感じられ…あ。」
莉子はしまった!という顔をする。
「…ふぅん。そっか。」
私はジト目で莉子を見る。罪悪感という名の調味料は甘美な味だったらしく、思い出しているその表情はうっとりしていた。そのお茶、ビールなんじゃないのって思う位。それともプレミアムだからなのか?
「結衣を売った訳ではないよ?」
いや、別に良いんだけどさ。口止めしてた訳じゃないし。必死な顔で弁解する莉子の顔が珍しくて、つい笑ってしまう。いつも立場は逆だもんね。
「知ってるよ。」
私は微笑む。誰より私の事を心配してくれてたのも知ってるんだよ。
でもね、一言言わせて欲しい。
司さん!私にも地ビールと缶つまください!プレミアムなやつじゃなくて良いから!
いつもお読み頂きありがとうございます。
私は自分が貰って嬉しかったので、プレゼントに入浴剤を贈ることが多いです。
消耗品なのも良いかなって思いますね。
黒川さんが、何を贈ったのか気になってた方いらっしゃいます?今日その答えが出ました。
お酒を飲む方は、好きな方が多いかなって思って書きました。缶つまは、テレビで人気だって言ってたので書いてみたのですが、色々種類があるみたいですね。その進化に脱帽します!
ではまた☆あなたが楽しんでくれています様に♪