画策
結衣の様子がいつもと違う事には気付いてた。でも君は何も話してくれない。何を悩んでいるんだろう?僕に言えない事なのだろうか。
僕と居る時は楽しそうに見える。嬉しそうに笑ってくれる。でも時々ぼぉっとしている君を見ていると、心配になるんだ。悩んでるって言うよりは、物思いに耽っている感じだろうか。その表情が、切なげでなかったら、僕は気にしなかったかも知れないけれど…。そんな様子の時、君は大抵溜息をつくんだ。
君が僕を好きでいてくれてる事に疑いを持った事はないけれど、気を許してくれていると思っているけれど、だけど悩みを打ち明けてはくれないんだな…。仕方ないけど寂しくて、心配で居ても立っても居られなくなるんだ。
金曜日の晩は大抵一緒に食事に行くのに、結衣は用事があると言う。その表情を見て、あれ?と思った。…何か引っかかる感じがしたんだ。
だから僕はある行動に出た。と言っても人頼みなんだけど、赤城さんに聞く事。ネットで評判の良かったチーズ煎餅を買っていつもの様に持って行く、黒胡椒がかかっていてお摘みに良いらしい。彼女好みの味だと思うんだけれど。
なのに、赤城さんは結衣が喋っていないなら、私から言う事は出来ないと言う。納得はするんだけど、諦めきれなくて。頼みの綱は、彼女だけなのに…。
一旦引き下がって、作戦を立て直すことにした。
こうなったら、緑川先輩に協力を求めるしかない。僕は先輩のデスクに行って、早速頼み込んだ。
「先輩、赤城さんの好きなものを教えてください!」
「どうした?いつになく真剣な顔だな。」
面食らった様に先輩は僕を見上げた。
「結衣の悩みを知りたいのに、赤城さんは教えてくれないんです!」
「…教えないって事は、お前に知られたくないんじゃないか?」
首を傾げながら、そんなことを言う先輩を見て、この作戦も失敗だろうかと悔しくなる。
「…だからって、知らない振りを続けるのは嫌なんですよ。」
「…別に教えても良いけど、莉子が喋ってくれるかどうかは俺にも分からないぞ?」
「それでも良いですから!お願いします!」
「じゃあ…。」
仕方ないなと言う様に苦笑いして、緑川先輩は教えてくれた。
会社帰りに、専門店を目指す。青木も好物だと言うので、一緒に店に来たんだ。仕入れた情報を頼りに商品を選ぶ。
「先輩、それ誰にあげるんです?通常のより、高いやつですよね?」
僕の手元を見て、青木は驚いた顔をした。
「赤城さん。」
「何故赤城さんに?」
「僕の精神安定の為。どうしても仕入れたい情報があるんだよ。結衣関連で。」
青木は僕をジッと見詰めて、ふっと笑う。
「…先輩って、白石さんの事になると、見境なくなりますよね。」
「当たり前だろ?」
だって、結衣の事なんだから。
ついでにビール好きの彼女に、地ビールも買っていこう。
僕は仕事が終わった後、教えて貰ったモノを持って、赤城さんの所へ行った。結衣が帰ったのを見計らいながら、赤城さんに近付く。赤城さんは帰る準備をしていた。彼女のデスクの周りには、他の人も帰って居なかったので、丁度良い。
「金曜日は、結衣と一緒ですか?」
「違いますけど。もしかして、…結衣を疑ってるんですか?」
彼女は眉間に皺を寄せる。
「まさか!ただ心配なだけで。赤城さんは知ってるんでしょ?結衣の悩みを。」
「この前言った通りです。結衣が知られたくないなら言えません。」
「どうしても?」
「……。」
赤城さんは困った顔をしていたけれど、僕は諦めるつもりは無いんだ。しばらく沈黙が続く。僕の想いが、彼女に通じたのだろうか。赤城さんは渋々重い口を開いた。
「…金曜日の6時半頃に駅と反対方向のカフェに行ったら、結衣に会えるかも知れません。」
コレが精一杯だという様に、彼女は溜息をついた。
そのヒントを貰って、心の中でガッツポーズをする。自然と顔が綻んだ。要らないと断られたけど、強引に置いて行く。情報の対価としては、こんなモノは安いモノだ。
「ありがとう!食べてね。」
去り際にそう言って、僕は赤城さんの席を後にする。
結衣に僕が画策した事が、バレないと良いけど。バレたらバレたで構わないんだけど、ちょっと恥ずかしい。君は呆れるかな?それとも怒る?
…怒られたら謝ろう。