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僕達の日常  作者: さきち
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洗濯

昨日は夕方から一緒に過ごして、彼の家に泊まった。日曜日の朝、晴れ上がった青空を眺めて、目を細める。天気が良いと気分まで良くなるのは、何故なんだろう。梅雨の晴れ間は貴重だ。

前の会社の同期の友達の結婚式は、何事もなく終わった。幸せそうに微笑む彼女の姿に、こちらまで幸せな気分になって、出席して心から良かったと思う。


「今日はいい天気だね。」

「本当ですね。」

「洗濯するけど、一緒に洗う?」

「え?」

「ついでだし。あ、嫌なら…。」

彼は私のポカンとした顔を見て、言葉を発した後、しまったみたいな顔をする。

「嫌じゃありません!帰ってから洗うつもりだったんで、嬉しいです!」

嫌だと誤解されるのが嫌で、慌てて答える。そんな私を見て、彼はふっと笑った。

「嫌って言っても、嫌いになったりしないよ?」

「嫌じゃないって言ってるじゃないですか。」

嫌な訳ないじゃないか、好きなのに。干すなら今干した方が良く乾きそうだ。

「そう?良かった。」

微笑んだ彼を見ると、私まで嬉しくなるのは何故なんだろう。



朝食を作って食べてる間に、洗濯機を回しておく。丁度食べ終わってコーヒーを飲んでいる時に、洗濯の完了を知らせる電子音が聞こえた。

司さんは洗濯かごに洗濯物を入れて、ベランダに出た。私も一緒に外に出る。気持ち良い風が吹いていた。ハンガーにシャツなどをかけて吊り下げる。

「それ、僕がやるよ。」

彼は、私が持っていたバスタオルを受け取ると、物干し竿に干して洗濯バサミで留めた。

司さんは背が高いので、洗濯物を干すのも簡単にやってのける。大学生の頃から独り暮らしをしていたと言う彼は、慣れたものだ。私は腕を伸ばしたり、背伸びをして、よいしょって干すのに。


結婚したらこんな感じなんだろうかなんて、想像してしまう自分に呆れてしまう。気が早過ぎるし、彼がそれを望んでいるかさえ分からないのに…。結婚式に参加した後だからそんな風に思ってしまうのだろうか。


「これは僕の仕事になるかもね。」

「え?」

「…あ、何でもない。」

そう言って少し照れた顔の彼をジッと見てしまった。もしかして同じ事を考えてたのかな?もしそうなら、嬉しいんだけど。


ひらひらと風を受けてなびく洗濯物を見詰めながら、これが日常になる風景を思い浮かべる。私の服と、彼の服が隣りあって干されてる。

こんな事で、嬉しくなってる私は、彼の事が凄く好きなんだなぁと思う。


洗濯物を干し終わって、司さんが私に問いかけた。

「今日はどこか行く?家に帰る?」

何処かに出掛けたい訳じゃなくて、ただ、一緒に居たかった。彼はいつも私のしたい事を優先してくれる。それが嬉しくもあるんだけれど、彼はどうしたいんだろうかって考えてしまう。

「司さんは用事は無いんですか?どこか行きたい場所は?」

「特に無いけど、掃除と夕飯の買い物くらいかな…。」

「一緒に居ても良いですか?手伝いますから。」

普通に一日を過ごす事が幸せで、隣に居られる事が嬉しくて。こんな風に洗濯したり、一緒にご飯を食べたり…。音楽を聴いたり、ただ話をしたり、いつも触れられる場所にいて、笑っていられる事が何より愛しい時間だと感じるんだ。

「もちろん良いよ。」

彼は笑う。その笑顔を見る事が、私にとってどれだけ必要な事か、あなたは知っているだろうか。



彼は言った通り、掃除をして、買い物をした。それを一緒にしながら、のんびりと過ごす。三時に一緒にコーヒーを飲んで、お菓子を食べた。


彼が洗濯物を取り込んでくれたので、私は畳むことにした。

私は洗濯物を畳んで、積み重ねていく。自分の服から彼と同じ柔軟剤の匂いがして、ニマニマしてしまう。大した事はしていないのに、幸せなのは何故だろう。洗濯物をチェストに仕舞いながら、そろそろ晩御飯の用意をしようかと思い付く。どうやって司さんに、野菜を食べてもらおうかと考えながら。


ふと思い立って、スマホをチェックしていたら、思わぬ人物からメッセージが届いていた。驚きで一瞬呼吸が止まる。耳の奥でドクドクと血の流れる音がした。どうして、幸せな気分でいるのに、台無しにするんだ…。元彼の達也からだった。一年以上連絡を取っていないのに、何だろうか。今読んだら、冷静でいられる自信がなくて、メッセージを読まずにスマホを伏せる。


白いシャツに広がったシミの様に、心に何とも言えない不安が押し寄せた。この不安も洗濯して綺麗になってしまえば良いのに…。

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