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僕達の日常  作者: さきち
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賄賂

今日は司さんと一緒に彼の家を出て、一緒の電車に乗った。昨日の事を思い出して、少し恥ずかしく感じてしまう。何処にも行かないでと言ってくれた。隣にいる彼をチラリと見て、凄く好きだなぁって思う。前よりも、どんどん好きになってしまっている自分が、少し怖いくらい。

いつもと同じ様にカフェで別れて、先に会社に向かった。どうして今日は、こんなに足取りが軽いんだろうか。多分、今日の私は誰より頑張れそうな気がする。

心配させてしまった莉子に、大丈夫だと早く伝えたかった。私を心配して、彼女が司さんに連絡してくれたのを、彼から聞いて知ってしまったから。莉子は誰より優しい、一番の親友だ。


出勤したら、いつもは私より後に来る莉子が先に来ていて驚く。いつも私がやっている、簡単な掃除をやってくれている。

「今日は早いね。」

「うん。彼と一緒だったから。」

「そっか。」

「結衣もでしょ?」

「…うん。」

恥ずかしくて、少し顔が赤くなる。そんな私を見て、莉子は微笑んだ。鞄を置いて、莉子を手伝う。

「莉子、ありがとう。心配してくれて。」

「大丈夫、みたいだね。」

普段より肌がツヤツヤしてると言われて、また恥ずかしくなる。それはお互い様だと思うんだけど。

「うん。莉子のお陰だよ。彼に連絡してくれたって聞いた。」

「ちゃんと甘えられた?」

「うん。」


「…黒川さんは、飄々としてるタイプに見えるけど、実は違う?」

結衣は意地っ張りで負けず嫌いなのに、上手くいってるのが不思議だと莉子は言う。

「ふふふ。普段はそうだけど。可愛い所もある。」

「可愛いか。」

「うん、可愛い。緑川さんもでしょ?」

「…そうだね。」

顔を見合わせて、二人でクスクス笑い合う。


出勤して来た司さんを見て、二人で思わず笑ってしまった。


後でメッセージが来て、何を話してたのか凄く気になる!と書かれていて、また笑ってしまった。でもね、女子同士の会話は秘密なのだ。



三時の休憩の時、昼休みに司さんが差し入れに持って来た海老煎餅を、食べようということになった。莉子は今回は私からお願いしたのにと言っていたけれど、いつもお世話になってるからと黒川さんが置いていったものだ。彼は、これからもよろしくと言っていたけど、何をよろしくなのだろう?

他の部署ではどうか分からないけれど、ここでは三時にきっちり休憩を取る。このくらいの時間帯に、ミスが増えるのだそうだ。だから、部長によると、休憩は非効率に思えるけど、効率は良くなるらしい。もちろん、部内の雰囲気も良くなるし一石二鳥との事。

緑茶を淹れて、休憩にする。海老煎餅の香りにつられたのか、呉さんがこっちにやって来た。


「あ、食べます?」

莉子は呉さんに海老煎餅をすすめる。更に周りの何人かにもすすめていた。

「いいの?ありがとう。今日は海老煎餅で、前は海苔おかきだったね。カレー煎餅の時もあったし。黒川がせっせと差入れ持ってくるけど、何で?」

呉さんは不思議そうな顔で、莉子に問う。

「賄賂です。」

…賄賂だったのか。

「賄賂って、アイツも同じ事言ってたけどね。はじめは、赤城さんを気に入ってるのかと思ってたんだけど、そんな様子でもないし。」

そう言って呉さんは、パリパリと海老煎餅を食べた。

「前から不思議に思ってたんだけど、赤城さん、黒川の弱みでも握ってるの?」

「多分、一番の弱みを握っています。」

莉子は私をチラリと見てから、呉さんに向かってにっこり笑う。それってもしかして、私の事?ドキドキしている私に構わず、莉子は涼しい顔をしている。

「え!教えて!」

ゲホッ。あう、お茶が気管に入って苦しい。ゲホゲホと咳き込んでいたら、莉子が背中を撫でてくれる。

「白石さん大丈夫?」

呉さんに大丈夫ですと返事するのがやっとだ。この話題、早く終わらないだろうか。心臓に悪いんだけど。

「教えて欲しいなぁ。」

更に呉さんは、莉子に食い下がる。

「秘密です。喋ったら、賄賂貰えなくなっちゃうじゃないですか。」

「そっかぁ。アイツの動揺する顔が見たかったのに。黒川って、あまり動揺しないからさ。」

…表情に出づらいだけで、司さんは動揺してると思う。それって、損なのか得なのか分からないなぁ。

「まぁ、いっか。こうやって賄賂のご相伴にあずかれるんだし。」

呉さんは諦めたのか、そんなことを言った。私は内心ホッとする。ご馳走様と呉さんが、自分のデスクに戻った。

「…賄賂だったんだね。」

「そうよ。せっせと運んで来るところを見るに、結衣は愛されてるねぇ。」

莉子は小声で耳打ちした。

「…そうかなぁ?」

恥ずかしかったけれど、何でもない風を装う。

「ふふふ。可愛いって言うのが、ちょっと分かったかも。」

「でしょ?」

また二人で笑い合う。次はどんな賄賂を運んで来るんだろうねと、莉子は楽しそうだ。


でも、莉子の好みだから、甘いものが無いんだよね。

司さん、私にも賄賂くれないかな?出来たら甘いもので。

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