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僕達の日常  作者: さきち
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僕の我儘

昼休みに入ってすぐに、赤城さんからメッセージが届いた。自分が余計な事を言った所為で、結衣が落ち込んでいるという内容で。赤城さんは、僕に結衣と一緒に居て欲しいと頼んできた。彼女が僕に頼むぐらいだから、相当落ち込んでいるのだろうか…。


心配していたのに、会ってみると、彼女はいつも通り明るくて。拍子抜けしてしまった。でも、前の事もあるし、油断してはいけない。あの時は、余計な事を言ってしまって、傷付けてしまったから…。

二人でラーメンを食べて、いつもの様に会社での事なんかを話す。


駅に向かう道で週末の予定を聞いた。結婚式の二次会の話をしてから、君の様子がいつもと違う。気にしないでくださいと言った君の目は、僕から聞かれる事を拒んでる様に見えた。

赤城さんが落ち込んでると言っていた意味が、今やっと分かる。さっきと笑顔が違う。君は無理して笑っている様に見えた。


君は地下鉄の真っ暗な窓の外をぼんやりと見ている。何を考えているんだろう?

隣にいるのに、近くにいるのに、どうして遠く感じてしまうんだろう。君の心は何処にある?

僕はそんなに頼りないだろうかと、情けなさと、寂しさが込み上げてくる。このまま、君が何処かへ行ってしまいそうな気がして、不安が胸を支配した。僕は咄嗟に彼女の腕を掴んで、引き止める。自分で自分の行動に戸惑いを覚えたけれど、その時は必死だったんだ。

ただ、何処にも行かないで欲しかった。ここに居てとすがる様な気持ちで、結衣を見詰める。


彼女は驚いた顔をして、そして今にも泣き出しそうな瞳で僕を見た。

ちゃんと結衣はここに居る。戻ってきた、僕の所へ。そう思うと、ホッとした。彼女の手が僕の手に重ねられて、その温もりが僕に安心感を与えてくれる。



僕達は僕のマンションに手を繋いで向かった。車で結衣の家に着替えを取りに行こうと話す。

「やっぱり、僕の家に着替え置いておいたら?」

「…そうですね。あ…でも…。」

「でも?」

彼女の顔に迷いが見て取れた。

「…何でも、ありません。」

結衣は伏し目がちに、俯く。

きっと、話したくないこともある。仕方ないとは思いつつ、寂しさを感じて落ち込んでしまう。君はここに居る。それだけで良い。そう自分に言い聞かせる。

君と繋いだ手を強く握った。僕はこんなに君が好きなのに…。どんな言葉でだったら、君に伝わるんだろう?どんな行動で示せば、君は信じてくれる?


マンションのエントランスに着いて、エレベーターのボタンを押した。

「…部屋に車のキーを取りに行ってくる。結衣はここで待ってる?」

「…一緒に行きます。」

エレベーターの中で、結衣は僕をチラチラ見る。何か言いたそうなのに、結局言わないまま部屋に着いてしまった。

玄関のすぐ側に車のキーは置いてある。靴を脱ぐ必要もなく、ただ、手を伸ばせば届く。だけど…僕は結衣を部屋の中に引き込んだ。鍵を閉めて抱き締める。ありったけの、僕の好きな気持ちが伝わる様に…。

結衣は驚いた顔をしていたけれど、黙って僕の腕の中にいた。甘い香りの花の様な、いつもの彼女匂いがする。君の息遣いが聴こえた。

「…司さん。」

「ん?」

「好きです。」

「僕も好きだよ。多分、結衣が思っている以上に。」

どのくらい好きかって、君のいない生活が考えられないくらい。君の時間を全て僕の為に使って欲しいくらい。無理な事は分かってるんだけど、そんな事を思ってしまうくらいに、僕は君を愛してる。


「…着替えなんですけど。」

「着替え?」

「はい、前に付き合っていた彼の家に、着替えを置いていたんです。」

「うん。」

「その彼に、浮気をされてしまって、その服を捨ててくれって言った記憶が蘇ってきて、不安になったんです。…司さんが信じられない訳じゃありません。」

「そうだったんだ。」

二次会で、会いたくない相手はその男だったのかな?

「…だから、そんな不安そうな顔しないでください。」

結衣は僕の頬に手を伸ばす。僕は不安そうだった?今まで家族や、家族同様に親しい人間以外に、そんな事を言われた記憶がなかった。


「…結衣を一人にしたくないって思ってた筈なのに、僕の方が一人になりたくないみたい…。」

「何処にも行かないって、言ったじゃないですか。」

「…そう言って、みんな何処かに行ってしまうんだよね…。」

思わず苦笑いが漏れる。結衣に愚痴っても仕方ない事なのに、不安が言葉になって出てしまう。今まで、別れを告げられるのは相手からで、僕から告げたことは無いんだ。自分がいい男じゃない事くらい、分かっているけれど、やっぱりその度に落ち込んでしまう。

「私は、あなたがいいんです。何処にも行きません。」

結衣はそう言って、僕を見詰めた。僕は君が、今までの女の子と違うと思ってる。だけど、そう思ってるのは僕だけかも知れないと思っていたんだ。

「…司さんが、不安になったり落ち込んでる時の顔って、分かりにくいんですよね。笑う時は普通に笑うのに…。私は何となく、分かる様になってきましたけど。だからじゃないでしょうか?他の人が何処かに行ってしまったのは…。弱みを見せてくれないって思われて、寂しく感じてしまうのかも。」

そうなんだろうか…。僕がいつも余計な事を言って、離れて行ってしまうと思ってたんだけど。


「結衣は、僕の今の気持ちが分かる?」

彼女はジッと僕を見る。

「…私とキスしたい?」

「正解。」

思わず笑ってしまう。僕は腕の中の彼女をもう一度抱き締める。

「…もう、本当は浮気された事とか話したくなかったのに、司さんが泣きそうだから、話しちゃったじゃないですか。」

結衣は溜息と一緒に、そんな事を言う。

「ごめんね。でも、言いにくい事を話してくれて嬉しかった。僕は、今まで浮気したことはないよ?さっきも言った通り、向こうから別れを告げられるんだ。」

「司さんも話してくれたから、おあいこですね。」

僕達は笑い合う。そして唇を重ねた。


君が僕の肩を叩く。やめたくなかったんだけど、仕方なく中断する。

「…司さん、着替え取りに行くの忘れてませんか?このままベッドに行きそうな勢いだったんですけど?」

もちろん、そのつもりだったんだけど…。

「…明日の朝でいいんじゃない?」

「ダメです。」

「…まぁ、少しの我慢だからいっか。」

僕は車のキーを手に取った。君は乱れた服を直している。



次の日の朝、洗面所には結衣の基礎化粧品が置かれて、使われてなかったチェストに、君の着替えが入った。

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。

いつもお読み頂きありがとうございます。

ではまた☆今年があなたにとって、良い年であります様に♪


すみません、ちょっと修正しました。

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