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僕達の日常  作者: さきち
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ジューンブライドと憂鬱

6月になると増えるもの、それは結婚式だ。年齢的にも段々と出席する機会が増えてきた。

「莉子って服のサイズ9号だったよね?」

「うん。何で?」

「結婚式に着ていくドレス、貸してくれない?」

「良いよ。私も貸して欲しいと思ってたんだ。」

「良かったー。前の会社の同期が結婚する事になって。でも先月も前の会社の先輩の二次会に出席してて。毎回、同じドレスじゃなって思ってさ。でも買うのも、勿体ないでしょ?御祝儀だってあるし、出費がかさむから。何着かはあるけど、使い回すのにも限界がある。」

「この時期はねぇ、仕方ないよ。」

「そうだよね。」

私達も、結婚する年齢になったんだなぁなんて、友達の結婚式に呼ばれる度に実感してしまうんだ。まだしていない子も多いけれど、早い子は早い。

「前の会社の同期だったら、来るんじゃないの?元彼の達也君だっけ?」

「あー、大丈夫。その辺は気を使ってくれたみたいでさ。式に出席するのは私だけ。二次会には来るらしいから、パスするつもり。」

「そっか、会わずに済むのなら、その方が良いもんね。」

「うん。」

達也って名前を聞くのも久し振りだな…。ずんと、心が重くなった気がした。私がぼーっとしていたからだろうか、莉子は心配そうに、私の顔を覗き込む。

「結衣、…ごめん。余計な事言った…。大丈夫?」

「うん、大丈夫。」

私は、莉子に笑い掛ける。新しい恋もしているし、もう平気。


…なのに、そう思うのに、一度考え出すと止まらない。前の記憶が蘇っては、私の心を引っ掻いていく。ほら、ここにも、ここにも、まだ傷はある。平気な訳ないな…。どれだけ傷付いたと思ってる。

いけない!仕事に集中しなきゃ…。ふと、莉子の席を見ると、心配そうな目で、私を見ていた。思っている事が、すぐに顔に出てしまうのは、私の欠点だと思う。


昼休みに、司さんからメッセージが来た。今日ラーメン食べに行かないかという内容で、ふっと笑みが漏れる。嬉しくて、午後からの仕事が頑張れそうな気がした。


今日は仕事が終わってからデートだから、沈んだ顔では会えない。私はトイレの鏡に映った自分を見つめる。大丈夫、そう自分に言い聞かせた。



二人でラーメン屋に行って、その帰り道。駅までの道を二人で歩いている。憂鬱だった気分は、彼と会うと嘘みたいに消え失せた。本当に不思議だなぁなんて思う。

司さんが、次の週末の予定を聞いてきた。土曜日は結婚式だと言うと、彼はそんな時期だなぁなんて言う。土曜日は大安だからな。

「午前中の式だから、三時くらいからは大丈夫ですよ?」

「二次会は行かないの?」

「はい。」

「無理しなくて良いよ?楽しんできたら?」

「…ちょっと、会いたくない人が二次会に来るんですよ。元々、行かない予定だったので。」

「会いたくない人…?」

彼は眉根を寄せて、私を見た。

「…気にしないでください。」

言いたくないから、聞かないで…。また、ずんと心が鉛を飲み込んだ様に重くなる。

「あ、ゴメン。」

司さんは口をつぐむ。心配そうな視線を寄こすので、私は顔に笑顔を貼り付けた。いけない、また思った事が顔に出ている。

何処か行きたい所とか、食べたい物はありますか?なんて話をして、いつも通りに振る舞った。彼と笑いながら、たわいない会話をする。


いつもの様に、電車に乗り込む。私は無表情な自分が映る、地下鉄の真っ暗な窓をただ、見詰めていた。


浮気された元彼の事なんて、司さんには話せない。出会いの話の時も、嫌な事があって自棄酒を呑んだとしか言ってないし…。

浮気をされる様な女だって、思われるのも嫌だしな…。

元彼に浮気をされた事は、少なからず私自身の傷になっていて、思い出すと、自分が情けなくなって、消えてしまいたくなる。価値の無い人間だと、言われてる様な気分になって、立ってさえいられなくなりそうだ。氷を飲み込んだ様に、一瞬で心が冷える。

自分にも何か原因があったんじゃないか、なんて思ってしまうんだ。素直な性格じゃないし、可愛げもないし…。だから、愛されないのだと。


司さんはこんな私でも良いんだろうか…。チラリと彼を見る。そのうち、もう要らないなんて、思われてしまうんじゃないだろうか…。

ふわふわと、ネガティブな思考ばかりが、浮かんでは、心の底に溜まっていった。…重い、心が重くて、このまま沈み込んでしまいそうだ。


降りる駅が近付いて、扉の側に移動する。扉が開いて降りようとしたのに、司さんの手が私の腕を掴んで、離さない。

プシューっと、目の前で扉が閉まった。

「え…、何で?」

こんな事をされたのは初めてで、理解が追いつかない。電車は走り出す。

「…ごめん。」

彼は、自分自身の行動に、戸惑っている様に見えた。私を見て、バツの悪そうな顔をする。

「…上手く言えないんだけど、確かに結衣は、僕の隣にいるのに、何処か遠くにいる様な気がして…。ごめん、やっぱり上手く言えない…。」

彼は左手で額を覆いながら、言葉をポツリとポツリと放つ。

「あ…。」

そうだ、私の隣には司さんがいてくれていたのに…。

「どうしても帰りたければ、次の駅で引き返してもいいから…。だから、今だけは何処にも行かないで…。」

彼の目が、懇願する様に私を見詰めた。心配させてしまった事を、後悔する。あなたの気持ちを、疑ってしまった事も。沈み込んでしまいそうな心を、彼が引き上げてくれた様な気分だった。

こんな、司さんの我儘を聞くのは初めてだ。

「何処にも行きません。」

私の腕を掴んだままの彼の手に、自分の手を重ねた。私は、彼から必要とされている。

冷えてしまった心が、温まっていく。氷が溶けて流れ出す様に、目尻に涙が溢れた。


ねぇ、あなたは、こんな私でもいい?

私は、あなたがいい。他の誰よりも、あなたが大好きだから…。

いつもお読み頂きありがとうございます。

今年のお正月から小説を書き始めて、もうすぐ一年が経ちます。はじめは自分が楽しんで、自分を癒す為に書いていたお話も、書いていくうちに誰かに読んでもらいたくなり、このサイトに投稿しました。リアルで私を知る人には、一切読ませていないので、あなたが読んでくれている事に感謝です。読んでいただける事を励みに、来年もまた書きたいと思います。

私は、前半にはストレスから円形脱毛になったりもしたけれど、トータルで見たら良い一年でした。

あなたも一年お疲れ様でした。

ではまた☆来年があなたにとって良い年であります様に♪

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