彼と野菜
昨日ラジオで仕入れた情報で、ラジオのイベントに参加した。無料のライブやフリマもあって、凄く楽しかったねと彼と話す。飲食スペースも充実していて、大満足だった。司さんはラジオのナビゲーターの人と握手して、凄く嬉しかったらしい。
帰りの電車で、スーパーで買い物して帰ろうと彼に言ったら、そうだねと同意してくれる。
「昨日は結局ラーメンでしたから、今日は野菜を食べないといけないですね。」
「…野菜。」
彼の表情が曇る。最近はちゃんと食べてるって言ってたのに。社食だけかなぁ?
「何か作りますよ。何か食べたい物ありますか?」
「ハンバーグ食べたい。」
「確かに、一人暮らしだと作らないメニューですね。」
莉子だと気にせず、作ってそうだけど。そう言えば、焼くだけのものを買って済ませてしまうかな。私は揚げ物なんかも嫌厭してしまう。油が飛び散ると掃除が大変だから。でも、そうすると、ワンパターンになってしまうんだよね。
自分の為に作るのは億劫に感じるのに、二人分だと作る気力が湧いてくるから、不思議だと思う。やっぱり食べてくれる人がいるのと、いないのとじゃ、違うんだなぁ。
早速スーパーに寄って、野菜売り場にやって来た。
「レタス買うの?」
私がレタスを選んでいると、そう言って、彼は少し困った顔をする。給食で嫌いな物があった時の、小学生みたいだと思う。
「嫌ですか?」
「…レタスって苦いよね。食べられない事は無いけど、他の方が良いなぁ。」
そう言って彼は、私をチラチラ伺う様に見る。苦い野菜が嫌いなのか。お子ちゃまだな。
ちょっと意地悪したくなって、試しに私がピーマンに手を伸ばすと、目を見開いて、この世の終わりかのような顔する。更にゴーヤにも手を伸ばそうとしたら、泣きそうな顔になった。
どうしよう…可愛い。思わず顔がにやけてしまう。弱みを握った事が嬉しくて、しばらくそんな風に、彼がどういう反応をするのかで遊んでしまった。私って性格悪いかも。
「なんか…、遊んでない?」
「…まさか。」
ちょっと調子に乗り過ぎただろうか。
私がブロッコリーを手に取った時、彼はほっとした顔した。これは大丈夫みたいだな。付け合わせの野菜は茹でたものにしよう。生野菜苦手だって言ってたし。
どうせなら、人参のグラッセも作ろうと人参もカゴに入れた。付け合わせの野菜だけだと、野菜少ないよね。角切りにした野菜スープも作ろうかな。私は、自分に彼に野菜を食べさせようという、使命感が湧いてくるのを感じていた。
「料理の最終目標ができましたね。ゴーヤとピーマンを司さんに食べてもらうことに決まりました。」
「そんな大げさな。」
彼はそう言ったけれど、私はニヤリと笑う。
彼はえ?本気?と驚いたような顔する。
「私、頑張りますから。」
「…そんなに頑張らなくても、良いんじゃないかな〜?」
司さんは、控えめに主張する。
「いつか食べてもらえる日が来るのが楽しみですね。」
覚悟しておいてもらおう。
「…ソウデスネ。」
彼は遠い目をした。
「あれ?でもコーヒーは普通に飲んでますよね?苦いのに。」
「コーヒーと野菜は違うじゃないか。」
逆に不思議そうな顔をされてしまう。
「一緒じゃないですか?」
「苦味の種類が全然違うんだ!」
そう彼は力説する。苦さに種類なんてあるんだろうか…。彼は青臭さと苦味について、持論を展開していて、私は一応耳を傾けた。う〜ん、やっぱり分からない。私は野菜は何でも好きだから。
理解は出来なかったけれど、突っ込むのはやめておいた。あまりいじめると可哀想だから。
一通り材料を揃えて、レジに向かう途中、私はお酒コーナーに目線を移した。
「お酒買いましょうか?」
昨日たくさん飲んだので、もうあまり残っていない。ビールとワインと酎ハイと…、頭の中でリストを作る。
「買うのは良いけど、今日は、結衣はあんまり飲んじゃダメ。」
「え!どうしてですか?」
せっかくの休みなのに!
「寝るから。している最中に、うとうとされるとさすがにヘコむ。」
昨夜の記憶が甦る。
「…昨日はちょこっと、飲み過ぎたかも知れません。」
「ちょこっと?」
「…ごめんなさい。結構飲みました。」
う、彼は根に持っていたみたいだ。だって、次の日休みだと思ったらつい…。あ、マズイ。いつのまにか、形成逆転されてしまった。
「結衣は一杯だけね。」
「そんな殺生な!せめて二杯は…。寝ませんから!」
「仕方ないから、二杯は許してあげよう。」
彼はニヤリと笑って、私を見詰める。う〜、さっきの仕返しかなぁ。
「寝ないんだよね?」
「…はい。」
「まぁ、寝かせないけどね。」
にこにこ笑いながら、彼はワインのボトルを手に取る。
「…お手柔らかにお願いします。」
私は彼に、意地悪し過ぎたみたいだ。