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僕達の日常  作者: さきち
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未定の予定

司さんとのデートで、連休の予定を決めたのだけれど、二人で過ごすという事以外は、予定は未定だ。どこに行っても混んでいるだろうし、わざわざ混んでる場所に足を運ぶのもなぁと思ってしまう。行きたい場所を考えておいてと言われたけれど、特に行きたい場所もない。買い物なんかは、仕事終わりや週末で十分だし。


「と言う事で、予定を立てずに過ごす事を提案します!」

私を迎えに来た司さんに、車の中で宣言した。

「何がという事でなのか、分からないけど、結衣のしたい様にすれば良いよ?」

「取り敢えず、司さんの家に行ってダラダラしませんか?」

「ダラダラ?」

「そうです。好きな事したり、昼寝したり、散歩したり…。」

「それはダラダラするという、予定を立てている事になるのでは?」

「揚げ足取りはイイです!細かい事は気にしないでください。」

「その時の気分で、どうするか決めるって感じかな?」

「そうです!行き当たりばったりでいきましょう!」

「行き当たりばったりか。」

「なんか、楽しくなって来ませんか?」

「そうだね。」


私達はダラダラ過ごす為に、スーパーに寄って適当に昼食の材料を買い込んだ。


司さんのマンションに戻って、ラジオを聴いて過ごす。彼は休日や寝る前に、FMを聴くのが好きらしい。彼はコンタクトを外してくると言って、洗面所に向かった。

実は、司さんの眼鏡姿が好きだったりする。出会った時に眼鏡をかけていたからかも知れない。なんか、眼鏡男子って萌えるよね。


昼食のパスタを作りながら、ラジオって良いなと思った。こうやって手を動かしていても、音楽や話し声が聞こえるし、情報も得られる。私は普段ラジオを聴かないので、新しい発見だった。彼は気になった曲をスマホに聞かせて調べて、購入するヒントにしているんだとか。

ラジオでは丁度、明日やるイベントの宣伝をしていて、聞き耳をたてる。


「このイベント楽しそうですね。」

私は隣でお皿の用意をしたり、カトラリーをセットしている彼に話し掛けた。丁度出来上がったところだ。

「音楽ライブもあるし、行ってみる?」

「食べ物も充実してるみたいだし、行きたいです。」

「じゃあ、決まり!後で調べとく。」

「楽しみですね。食べましょうか?」

「うん。美味しそう。」

食事をしてから、明日の予定の計画を立てていった。行き当たりばったりも悪くないなと思う。空白があるという事は、その時間を自由に使えるって事だから。


司さんは、昼食の後片付けをした後、溜まっている本を読むとソファーに腰掛ける。それなのに、少し疲れていたんだろうか。それとも、お腹いっぱいだったからかな?本を胸に抱いたまま寝てしまった。

眼鏡をかけたまま寝入ってしまった、彼の眼鏡をそっと外した。寝顔をじっくり見たのは初めてかもしれない。いつも私が先に寝てしまって、起きるのも後だから。無防備な姿に顔がにやけるのが分かった。自分に気を許してくれていると感じて、嬉しくなる。

彼に毛布を掛けて、しばらくずっと眺めていたのだけれど、私も眠くなってきて、あくびが出てしまう。いつのまにか、ソファーに頭を乗せて寝入ってしまった。



眼が覚めると、彼に掛けていたはずの毛布が、私に掛かっていてソファーに横たえられていた。結構長い時間、寝てしまったんだろうかと焦る。時計を見ると、一時間程経っていた。彼の姿が見えなくて、不安に感じる。

「司さん?」

名前を呼んでも返事はない。その上、気配もない。

何処にいるんだろう?スマホにもメッセージは無い。壁掛け時計の秒針の音だけが、部屋に響いている。

ガチャリと玄関の鍵を開ける音が聞こえて、急いで向かう。彼の顔を見て、ほっとした。


「…何て顔してるの。」

顔?どんな顔をしていたんだろう。彼の言葉を聞いて自分の頬に手を当てる。

「…ごめん。起きた時に居なかったら、不安になるよね?」

そんなに不安そうな顔をしていたんだろうか。彼は私の顔を大丈夫?と言って覗き込む。彼の服の裾を掴んで、ほっとしている自分に気付く。

「近所に、美味しい和菓子の店があって、おやつに買いに行ってたんだ。」

そう言って私に紙袋を渡す。中身を見ると、いちご大福が入っていた。

「もうすぐ、いちごの季節も終わるから、結衣に食べさせたくて。」

「白餡だと、いちごの綺麗な色が映えますね。」

白い求肥から、ほんのりいちごの赤い色が透けて見える。

「そう、見た目も可愛いし、味も美味しいんだよ。」

「コーヒーよりは緑茶でしょうか?」

「そうだね。そうしよう。」

私は彼に微笑む。私に食べさせたくて買って来てくれるなんて、単純に嬉しい。

「…やっと笑った。」

彼はほっと息をつく。

「…私、どんな顔してましたか?」

「迷子の子供みたいな顔。凄く不安そうな。今にも泣きそうな…。」

「…確かに、迷子みたいな気分でした。」

置いて行かれたのが寂しくて、時計を見詰めながら不安になっていた。

「今度は、ちゃんと連絡してから出掛ける事にする。本当は寝てる間に買って来て、驚かせようと思ってたんだ。…そんなに不安そうな顔されるとは、思わなかったから。」

そうだったのか。

「反省してるから、許して?」

許すも何もない。とは思うものの、確かに寂しかったなとは思う。彼の表情は申し訳なさそうで、逆に申し訳なく思う。

「大丈夫ですよ?帰って来てくれましたし。」

「…ちゃんと帰って来るよ?結衣が居るんだから。」

「じゃあ、ギュってしてくれたら。許します。」

彼は私を包み込むように、抱き締めてくれた。私も彼の背中に手をまわす。彼の匂いが、温もりが、私を安心させてくれる。

この空間が、ほっとする感じがするのは、司さんがいるからなんだなぁと改めて思う。二人で過ごすからなんだなぁって。


二人でおやつに、いちご大福を食べた。いちごの酸味と白餡の甘さが絶妙で、凄く美味しい。そんな私を見て、彼は目を細める。司さんはいつも、私が美味しそうに食べていると、嬉しそうな顔をする。だから、買って来てくれたんだなぁ。

少し休んだら、散歩に行こうかと彼が言った。そうだな、少しは動かないと太ってしまう。このまま彼に食べ物を与えられ続けられると、油断して太ってしまいそうな気がした。




新緑の街路樹が、蒼い空に映えている。だんだん日差しがキツくなってきたと、肌に感じるヒリヒリとした感覚で実感する。日焼け止めは塗っているものの、帽子がなければうっかり日焼けをしてしまいそうだ。

そう言えば、司さんと出会ってから、もうすぐ一年経つんだなぁ。付き合ってからは、まだまだだけれど。


手を繋いで散歩していると、時間がゆっくり流れている様な気分になる。近所のお店を覗きながら、二人で晩御飯は何食べようかなんて話している時間が、愛しく思える。お泊まりセットを持って来たので、帰らなくても良いし。明日も明後日も一緒に過ごせるなんて、本当に幸せだ。


「実家はどうだったんですか?昨日帰ったんですよね?」

「いつも通りって感じ。ちょくちょく顔出してるから、特に感慨もないよ?」

「ああ、近いんでしたね。」

「結衣は?」

「弟が帰って来てました。今、転勤で関西に居るんですけど、今朝、もう帰ったんです。彼女でも出来たのかなって、親と話してたんですよ。おそらく間違いありません。」

「結衣はもう少しゆっくりしなくて、大丈夫だったの?」

「私も帰ろうと思えば、それ程の距離じゃないので。弟と同じ理由で、私もトンボ帰りして来ました。」

「ありがとう。」

「でも、一つ問題が…。」

「問題?」

「愛想の無い弟と私に、母が言い渡したんです。彼氏や彼女を家に連れて来いって。」

「そっか。二人共さっさと帰っちゃったら、お母さんは寂しいかもね。」

「寂しいっていうより、好奇心が勝ってる様な…。弟はしらを切り通してましたけど、私は白状させられてしまいました。」

母の追及が執念かったんだ。しらばっくれても、じゃあずっと家にいればいいって言って。約束があるって言ったら、誰と約束してるんだって。誰でもいいじゃないって言ったら、親に言えない相手なのかって。そんな訳ないでしょって言ったら、じゃあ誰なんだって事になって。堂々巡りの末、根負けしてしまった。

弟って、どうしてあんなに要領がいいんだろう?のらりくらりと母の追求を免れて、結局言わないまま帰ってしまった。

「僕はいいよ。結衣のご両親に会ってみたいし。」

「本当ですか?良かった。」

司さんの言葉にほっと息をついた。良いよって言ってくれるとは思っていても、心配だったんだ。

「…実は僕の方も言われたんだよねぇ。お盆休みには家に連れて来て欲しいって。」

「私の事話してたんですか?」

「姉から母に伝わってたんだ。もちろん、結衣がいいって言ったらねって言っておいたから。」

「私は良いですよ。」

「そっか、良かった。」

司さんもほっとした顔をしている。同じ様な気持ちだったのかな?

二人で、親の扱いって難しいですよねぇと、顔を見合わせて笑ってしまった。


ゆっくり過ごす、こんな日も悪くない。私達は五月晴れの空を見上げた。

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