ゴールデンウィーク
連休なので実家に帰って来た。玄関で母が、お帰りと言って出迎えてくれる。
連休のうち、何日かは結衣とデートをする予定だけれど、瑠璃にも会いたいし。なのに、あいにく姉さんと瑠璃は留守だった。可愛い服を買ってきたから、喜ぶ顔が見たかったのに…。残念。また週末にでも顔を出そうか…。近いからね。
なぜ留守かと言うと、青木と会っているかららしい。僕も確認すれば良かったんだけど、先に結衣との予定を決めてしまったから、今日しか帰る日が無かったんだ。
母さんに手土産のケーキを手渡して、ご機嫌を伺う。母の表情から、気に入ってくれたと分かって、ホッとした。母の機嫌は、黒川家では最重要事項なのだ。
ソファーに座っていたら、出掛けていた父が帰ってきた。母に頼まれて、コンビニで牛乳を買って来たらしい。相変わらず、フットワークが軽いと感心してしまう。夫婦円満の秘訣かなぁ?
「最近、週末になると明美が良く瑠璃と一日中一緒に出掛けるんだけど、話は聞いてるか?」
僕の近況より、姉さんの事の方が気になっていたみたいで、お帰りと言った後、すぐにそんな話を切り出す。
「少しだけ。青木と会ってるんだ。」
「ああ、青木って言うのか。瑠璃があゆむ君て呼んでる男と同じ男なんだよな?」
「そうだよ。僕の後輩。」
「…どんな男なんだ?」
「…心配してるの?」
「…心配するだろう?普通は。」
「もう!大丈夫だって言ってるじゃないの!」
母さんが口を挟んできた。ふわりとコーヒーのいい香りが漂って、お盆にケーキとコーヒーを乗せた母さんが、コーヒーテーブルの上にお盆を置く。
「もう、明美はいい大人なんだから、心配いらないわよ。瑠璃も一緒に居るんだから。」
「どんな男なのか話を聞くぐらい、良いじゃないか。」
「ちゃんと付き合う段階になったら、報告してくれますよ。」
「お前は興味がないのか?」
「だって、明美は私には話してくれてるもの。」
「そうなのか?」
「そうよ。」
母さんにはちゃんと話してるんだな。昔から姉さんと母さんは仲が良い。一緒に出掛けたりも良くしているし、お互いの愚痴も話したりしているらしい。
「瑠璃が懐いてるんですよ?だから大丈夫。写真見せてもらったけど、イケメンだったわぁ。」
「イケメンかどうかは問題じゃなくて、本気かどうかが問題だ。」
「青木は真面目な奴だから、大丈夫だと思うよ?」
「何だかんだ言ってるけど、あなたは瑠璃が最近ライダーごっこをしてくれないのが、不満なだけでしょ?」
「う…。」
父は口籠る。図星らしい。
最近、瑠璃はプリ◯ュアごっこが好きらしい。その敵役ばかりで、ライダーごっこをしてくれないと父が愚痴った。詳しく話を聞くと、青木とプリ◯ュアショーを観に行ってハマってしまったらしい。ライダーもプリ◯ュアもどっちにしろ、敵役をやらされるのに、何が違うのか分からない。そう正直に言ったら、父にお前には男のロマンが無いのか?とがっかりされる。
ふぅん、ライダーは男のロマンなのか。
ところで、お前はいつ孫を見せてくれるんだ?と直球の質問が来た。その子が男の子なら良いのにと思っているのが、手に取るように分かる。
もしその子が男の子だとしても、ライダーに興味を持つかどうかなんて分からないのに。
「何で彼女を連れて来ないんだ?」
「いや、特に意味は無いけど…。まぁ、そのうちにね。」
付き合ってからも、段階と言うものがあると思うんだ。いきなり親に紹介したら、引くかなって考えてしまう。大丈夫だとは思っているけど、念の為もう少し時間が欲しい。
「紹介出来ないような子じゃ無いんだろ?」
「当たり前でしょ?」
僕を何だと思ってるんだ。
「じゃあ、お盆休みには連れて来てくれるんだな?」
「え、何でそうなんの?」
「会いたいじゃないか。なぁ母さん?」
「そうね。明美から可愛い子だって聞いてるからね。」
「…じゃあ、彼女が良いって言ったらね。」
僕は仕方なしにそう言った。逃げ道を確保する事は忘れない。
「やった!承知してくれましたね、あなた!」
「言質をとったぞ!」
二人で手を取り合って喜んでいる。アレ?何この展開。
「…もしかして嵌められた?」
「嵌めたなんて人聞きの悪い。」
ニヤニヤ笑う二人に、疑念が浮かぶ。
二人で結託して、僕を嵌めたのではないだろうかと、穿った見方をしてしまう。
「僕より姉さんの方が結婚が早い可能性もあるんじゃない?」
僕は負け惜しみで、言ってみる。
「どっちかというと、明美より司の方が心配なのよね。」
「何で?」
今まで、そんなに心配を掛けた覚えはない。思春期は別として。
「いつも一言余計な事を言って、彼女から振られるでしょ?」
何で知ってんの?言った事ないのに。あ、姉さんか、喋ったのは。
仲が良いのも考えものだな。姉さんに喋った事は、母さんに筒抜け状態だと思った方が良いかもしれない。
二人はお盆休みが楽しみだねなんて、嬉しそうに喋っている。僕が結婚してない事を、親なりに気にしていたんだなぁ。でも、結婚への包囲網が出来上がってしまう事に、不安を感じる。お願いだから、焦らせないで欲しい。自分のペースで進んで行きたいんだ。
父と母の意識を僕から逸らせる為にも、青木の役割は重大だ。黒川家の家庭内平和の為に、青木には頑張ってもらおう。僕はケーキを口に運びながら、そんな事を考える。
取り敢えず、次はプリ◯ュアじゃなくて、ライダーショーに連れて行ってやってくれと、青木に頼もうと思った。