映画鑑賞
彼女のピアスがゆらゆら揺れている。僕はそれを目で追う。今は自宅のテレビで映画観賞中だ。ソファーに二人で腰掛けている。
窓の外は、春の嵐と言っても良い様な土砂降りだ。風も強くて外出には向かないので、僕の家でデートになった。約束していた映画は、また今度だねと笑い合う。折角だから、他の映画を僕の家で観ようってなったんだ。
雨がガラスを叩く音が部屋に響いている。
僕は彼女が気になり、映画に集中できない。彼女の横顔はテレビに釘付けだ。肩に流れる髪に、その身体に触れたくて仕方ない。手を握って指を絡ませる。彼女は僕を見てにこっと笑って、また映画に集中する。何とかこっちを見て欲しくてゆらゆら揺れるピアスをした耳に触れた。そして手ぐしで彼女の髪を梳く。
「どうかしましたか?」
「結衣、キスしたい。」
そう言って彼女の唇を塞ぐ。始めは優しく、段々と激しくなっていく行為に、彼女の息が上がっていくのが分かる。苦しくなったのか、僕の肩を叩く。止めると潤んだ目が僕を見ている。やり過ぎたかな?
「映画観ないんですか?」
彼女は怪訝そうな顔をする。
「こっちのが気になる。」
僕は彼女のほっぺをちょんと触る。
「別に逃げませんよ?」
「いつになったら良いのかなと思って。」
「…?もしかしてしたいんですか?」
「待て状態なので。」
「なんで?」
彼女は首を傾げて不思議そうだ。
「なんで?って君が言ったんだけど。」
「言いましたっけ?そんな事。」
「覚えてないの?ずっと我慢してたのに。我慢してたのに!我慢してたのに!!」
「3回も言わなくても。」
呆れた様に彼女は言う。まさかの忘れてた発言に、心の叫びが口を突いて出てしまった。
「言ってよ!」
言ってくれれば、もっと早く出来たのに。あんなに悩んで馬鹿みたいじゃないか。
「聞いてくださいよ。」
「……。」
彼女の性格では自分からは言わないなと思い直す。もっと早くに聞けば良かった!過去の自分を罵ってやりたい。
「あまり興味が無いんだと思ってました。少し悩んでたんですよ?食指が動かないのかなと。」
「…そんな訳ないでしょ。もしかしていつでもウェルカム状態だった?」
「そこまで言ってません。でも、そうですね。ここ最近は比較的。」
「本当に?」
そうだとしたら、すっごく嬉しいんだけど。
「嘘ついてどうするんですか。黒川さん、胸が大きい方が好みなのかなとは考えてました。だからなのかなぁとか。」
「大きいのも好きだけど。」
「黒川さん正直ですね。」
少し不機嫌に彼女は言う。ありゃ、機嫌を損ねたかな?一言多いのは悪い癖だ。
「正直なのが取り柄なので。大きくなくても好きだよ、結衣のなら。」
彼女を抱きしめて僕は笑う。
機嫌は直るかな?やっぱり嫌だとか言われたら、ショック過ぎる。僕は彼女の様子を伺う。大丈夫そうだ。ホッと息をつく。
「その黒川さんって言うのはいつやめてくれるの?」
ずっと気になってた事を聞いてみた。
「…気付いてましたか。」
ギクリとした様に彼女が言う。そりゃ気付くって。
「何で名前で呼んでくれないのかな?」
彼女の顔が見る見る赤くなっていく。
「…恥ずかしいから。」
僕から顔を背けて結衣は呟いた。
「キスは平気なのに?」
「また別です。って言うか黒川さんがキス魔なんで慣れただけです。」
そう言ってまた、視線を逸らす。
「じゃあ、名前も慣れてよ。」
チッと舌打ちが聞こえた。
「可愛いんだから、舌打ちはやめようか。」
負けず嫌いの彼女はこの状況が面白くないみたいだ。でも僕も負ける気は無い。
「言ってみて。」
「そのニヤニヤした顔がムカつきます。」
「…言ってくれないの?」
僕は下手に出てみる。そうすると弱い事を僕は知っている。押して駄目なら引いてみなと。
「う……つ、つかささん。」
僕を上目遣いで見詰めながら、小さな声で僕の名前を呼んでくれた。耳まで真っ赤な彼女をギュッと更に抱きしめる。そのままソファーに押し倒した。
その後は、映画鑑賞どころではなくなった。