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僕達の日常  作者: さきち
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大晦日

実家に帰ると、待ってましたとばかりにこき使われた。窓の拭き掃除から始まり、キッチンの片付け、食器棚の整理、冷蔵庫の中の掃除、トイレや風呂場、床の水拭きまで手伝わされる。夕方になるともう動けなくなるくらい働かされた。アパートの掃除が可愛く思える。

我が母ながら容赦ない。30日に帰って来たのだが、私の活躍もあり31日の昼ぐらいには掃除は終わった。後は、父が蕎麦打ちをするので、その手伝いと、おせちの盛り付けぐらいだろうか。


鏡餅に裏白を敷いて蜜柑を乗せた。干し柿も飾る。一気にお正月の雰囲気になるから不思議だ。母が取り仕切るのでお雑煮もおせち料理も関西風になってしまうのだが、父親は気にしない。蕎麦さえ打てれば満足らしい。

一度習いに行ってから始めた蕎麦打ちも、なんだかんだで続けている。始めはショートパスタですか?という程プツプツと切れたのに、今ではちゃんと啜れる状態にまで上達している。


お昼ご飯を食べていると弟の優が帰って来た。建築関係の会社に勤めているが、関西の支社に転勤が決まったのは約一年前の事、新幹線で今日帰って来たらしい。

もしや、掃除が嫌でずらしたのでは?と勘繰りたくなる。

「遅い!もう少し早く帰って来てよ!もう、お姉ちゃんは腕がパンパンだよ?」

お母さんが容赦なくてさぁと愚痴をこぼす。

「ゴメンゴメン。蕎麦打ちは手伝うから。」

当たり前だ。

「はいこれお土産〜。」

紙袋をいくつか母親に渡している。良い匂いがしている。コレは!

「おお!豚まんだぁ。美味しそう!早速食べて良い?」

コレに免じて許してやろう。こういうところが抜け目ないんだよなぁ。

「すごい匂いするからさぁ。新幹線の中で恥ずかしかった。でも何人かいたからまだマシだったけど。」

優は苦笑いする。みんなこれ大好きだから買ってきたんだよ、とアピールするのは忘れない。


「それとコレ。懐かしくて買っちゃった。おばあちゃんの家でよく食べたよね。」

透明のパックに入っていたのは花びら餅だった。お正月に食べるお菓子で、甘くした牛蒡を挟む様に白いお餅を二つ折りにしてあり、中には白味噌の餡が入っている。

母方の祖母はお茶の先生だったので、お薄と一緒に良く出してくれた。母親も懐かしがる様に目を細めている。

「昔はそれ程好きじゃなかったのに、不思議やわ。こっちに無いとなると食べたくなるんやから。」

その時は当たり前にあったものが、失われた途端に気付くのだ、それがどんなに大切な時間だったのかを。

祖母は数年前に他界した。祖父が亡くなってから、独り暮らしをしていてお茶とお花の教室を続けていた。近所の人から愛され、生徒からも尊敬されており、お葬式には沢山の人が集まった。

着物姿のしゃんとした姿を思い出す。


今のこの風景も、懐かしいと感じる日が来るのだろうか?


豚まんは玉ねぎの甘みと豚肉の食感がたまらない。ほうばりながら、私の手伝いが親孝行になるのなら、こき使われるのも悪くはないと思えた。

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