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僕達の日常  作者: さきち
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明美と歩1

僕は狙って、明美さんの隣に座る。一児のは母とは思えない程綺麗だ。たしか、先輩の一つ年上だから、29歳だったはず。黒川さんにはあまり似ていないな。

それぞれの自己紹介が終わり、早速彼女に話しかける。

「こんにちは、お綺麗ですね。」

まずは様子見の挨拶から。

「ありがとう。そちらこそイケメンですね。」

言われ慣れてるな。無難な対応だ。

「ありがとうございます。先輩にはいつもお世話になってます。」

「色々聞いてるわ。優秀なんですってね。」

「いえ、それ程でもありません。」

それから、仕事の事や家族のことなどの話や、世間話をした。


「明美さん、連絡先を教えてもらえませんか?」

「…必要ありませんよね?」

ガードが固いな。警戒されてるのかも知れない。

「僕には必要なんですけど。」

「4歳の子持ちですよ?本気で言ってます?」

「本気で言ってます。」

「…瑠璃、こっちおいで、お兄ちゃんが遊んでくれるって。」

彼女はそう言って桃井さんの膝の上にいた、瑠璃ちゃんを呼んだ。これは試されてるな。受けて立とう。

「瑠璃ちゃん、お兄ちゃんと遊ぼうか?歩君て呼んでくれる?」

「一緒に遊ぼう!あゆむくん。」

「じゃあ、向こうで遊んできます。」

僕は瑠璃ちゃんと手を繋いで、その場を後にした。チラリと後ろを振り返ると、彼女が少し動揺したのが分かった。


公園には遊具もある。瑠璃ちゃんはアスレチックを登ったり、滑り台をしたり、ブランコをしたりと常に動きまわっている。時々手伝いながら目を離さずに、気を付けた。手を振りながら、見守る。成る程、可愛いな。黒川さんがメロメロなのが分かる。

屈託のない笑顔を見てると、嬉しくなってくる。

「あゆむくん!一緒に滑り台しよう!」

「良いよ〜。」

お父さんやお母さんと滑っている子も何人か見かけた。僕は足の間に瑠璃ちゃんを挟んで一緒に滑る。長さのある滑り台だからか、体重がある大人が滑るとなかなかのスピードが出た。瑠璃ちゃんはキャーキャー言っている。これは、かなり楽しい!もう一回と言う瑠璃ちゃんと一緒にまた滑った。それを何度も繰り返す。いつのまにか子供に戻った様な気持ちになって、夢中で一緒に遊んでいた。


「あ、ママ!」

瑠璃ちゃんの言葉に振り返ると、明美さんがいた。手にビニール袋を持っている。

「ありがとう。遊んでくれて。」

「どっちかと言うと遊んでもらってた感じですけど。」

「ふふ、そんな感じだった。」

見られてたのか。目を細めて笑った顔が、先輩に似ている事に気付いた。笑顔が可愛く感じてドキリとしてしまう。

いつのまにか明美さんの敬語が取れているのに気付く。警戒心が少し和らいだのだろうか。僕は少し嬉しくなった。

「そのビニール袋はなんですか?」

「ああ、これ?花見してる場所が分からなくなった、年配の女性と一緒にその場所を探してあげたら、ビールもらっちゃった。私も貴方達を探すついでだったから良いって言ったんだけど、どうしてもって言われて。」

「へぇ、優しいんですね。」

「…普通よ。」

彼女の頬が染まっている。綺麗とかは嬉しそうじゃ無かったのに、優しいって言ったら照れるのか。なんだか、歳上なのに可愛く感じてしまう。


「あゆむくん抱っこ。」

瑠璃ちゃんが手を差し出して、見つめてくる。疲れたのかな?それにしても可愛い。

僕は瑠璃ちゃんを抱っこしてまた歩き始めた。少しすると寝息が聞こえてきた。



僕の横に並んで歩いていた明美さんが、ひゅっと息を吸い込んだのが分かった。目を見開いて立ち止まる。

何が起こったのか。僕は戸惑った。

「ちょっと隠して。」

そう言って僕の背中に隠れてしまった。


僕の背中に隠れた彼女の表情は見えない。僕の服の裾を掴んだ手が震えているのがわかった。あぁ、この人は、弱い人間だ。僕と同じで、それを隠すのが上手いだけで。

誰を見ていたんだろう。何を見て動揺したのだろう。


しばらくそのままの姿勢で待つ。数分後、彼女がありがとうと言って出てきた。憂いを帯びた表情な気がするのは、気のせいでは無いだろう。

「大丈夫ですか?」

「ちょっと会いたくない人を見てしまっただけ。」

「さぁ、戻ろうか。」

彼女は笑顔で言った。

どうして?笑顔なんて作らなくていい。無理なんてしなくていい。

僕は何故だか、このまま何事も無かったかのように振る舞うのは躊躇われた。余計なお世話かもしれないが、このまま戻ってはいけない気がした。

「もう少し散歩しませんか?瑠璃ちゃんも寝ていますし。人に出会うのが嫌なら、桜以外の樹の下なら大丈夫ですよ。」

彼女は少しだけ考えて。

「…じゃあ、少しだけ。」

そう言った。

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