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僕達の日常  作者: さきち
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重箱

花見は午後3時頃の予定なので、午前中に食材などの買い物を済ませて、その後はお弁当を作ることになった。結衣を車で迎えに行って、緑川先輩と赤城さんの到着を待つ。インターフォンが鳴って、ロックを解除して数分後に、部屋のインターフォンがまた鳴った。


「いらっしゃい。赤城さん、縁川先輩。」

「面倒な事頼んでゴメンね、赤城さん。」

「料理は趣味ですから、大丈夫ですよ。むしろ、楽しみにしてたぐらいで。」

「……。」

緑川先輩は僕の顔をジッと見て喋らない。

「?どうかしましたか?先輩?」

「あ、いや。何でもない。お前、今日は眼鏡なんだな。」

「自宅にいる時は基本眼鏡です。楽なんで。」

「…ふぅん。」

「荷物置いたら、少し休憩して買い物に行きましょうか?」

「うん。それで良いよ。あれ?青木は?」

「場所取りです。」

「下っ端は場所取りって決まってるもんな。」

先輩が笑ってくれたので、ホッとした。何故か表情が硬かったのだ。赤城さんと喧嘩でもしたのだろうか。でも、赤城さんの様子は普通なんだけどなぁ。


何を作るか相談しながら、スマホのリマインダーに食材を入力していく。叔父さんのレシピノートを見せると、赤城さんが目の色を輝かせていた。料理好き同士、何か通じるものがあったのだろうか。

チラリと緑川先輩を見るが普通で、赤城さんに食べたい物をリクエストしている。さっきのは気の所為かな。


それから僕達は車に乗ってスーパーに買い物に出掛けた。スマホを見ながら、次々に食材をカゴに入れて行く。

「ビールとかは買わなくて良いんですか?」

カートを押している僕の隣を歩いている、結衣が聞いてきた。

「黄瀬さん達の方で用意してくれるみたい。デザートは桃井さんの奥さんが用意してくれるし、黄瀬さんの奥さんはサンドイッチとおにぎりを作って来てくれるって。」

「じゃあ、おかずだけで良いんですね。」

「うん。乾き物のおつまみも、別の誰かが持って来てくれるんだって。」

後ろを見ると、お菓子を手に持っている先輩を、赤城さんは呆れた顔で見ている。

「唐揚げはいっぱい作って。沢山食べたいから。」

「分かってるから。お菓子食べたら、唐揚げ食べられないよ?」

「大丈夫。どっちも食べられるから。」

まるで母親と子供の様だ。先輩って赤城さんには、凄く甘えてるんだなぁ。仕事中と全然違う。

青木に見せたい…。笑いそうになる顔を必死に抑え込んで結衣を見ると、彼女は僕の顔をジッと見ている。

「目元と口元がピクピクしてますよ?」

あ、バレた。最近彼女は僕の表情から、気持ちを察する事が多い。

「いや、分かりますけどね。緑川さんて、会社では結構完璧人間だから。」

「うん。意外でつい笑いそうになって。」

「あ、お昼ご飯はどうします?軽い方が良いですよね?」

「そうだね。先輩と赤城さんと相談しようか?」

「そうですね。」

「それから、青木に差し入れ持って行こうかな?」

「朝からずっとですからね。」

僕はスマホでメッセージを打つ。すぐに返信が来て、隣の場所で呑んでる奥様方のグループに誘われて食べてるから大丈夫だとの事。うん、マダムキラー。

「…なんか、必要無いみたいだよ?」

スマホの文面を彼女に見せると、さすがイケメン青木と呟いていた。

「何、何?どうしたの?」

緑川先輩が聞いて来たので、同じ様にスマホの文面を見せる。

「営業一のモテ男は、青木が来るまでは俺だったのに…。」

面白くなさそうに緑川先輩が呟いた。

「変な所で張り合わないの。奥様方には若い方が良いに決まってるじゃない。」

赤城さんは、また呆れ顔で先輩を窘めている。

「え!莉子も?」

「…本当にそう思う?」

にっこり笑って赤城さんは先輩を見詰めた。

「…思いません。」

赤城さんて、先輩のコントロールが上手い。赤城さんの手の平の上で転がされている先輩を想像してしまって、また笑いそうになる顔を抑え込んだ。


赤城さんが昼は適当に作ると言ってくれたので、買い物を済ませてマンションに戻った。

僕達は早速料理を始めたけれど、緑川先輩だけは赤城さんから早々に戦力外通告を言い渡されて、地味にヘコんでいる。

まぁ、納得だな。邪魔しかしないと言うか、料理した事無いんじゃないの?って言うレベル。家庭科で作った事はあるって自信満々に言われてもね…。

拗ねた先輩を宥めて、リビングで映画を観て時間を潰してもらう事にした。

「お菓子でも食べててください。」

僕はそう言って、コーヒーとお菓子を差し出す。

「…青木には言うなよ?」

え、ダメなの?すっごく喋りたいんだけど。って言うか、絶対喋ろうと思ってたのに。

「先輩としての威厳が無くなるから。」

「…分かりました。」

残念。


と、まぁ、こんなハプニングはあったのだけれど、順調に作業は進んでいる。途中で昼食を挟みつつ、次々に手際よく作っていく赤城さんに感心してしまった。結衣と僕は完全に助手に徹している。

だし巻き卵に唐揚げ、海老フライや、焼き魚など色々な料理が出来上がっていく。コンロやオーブンもフル稼働で、プロじゃないかと思ってしまうほど。

皿を用意しようと食器棚に行くと、緑川先輩が器を熱心に眺めていた。

「映画終わったんですか?」

「うん。暇だし、器見てた。ちょっとしたコレクションだね、コレは。」

「僕は良く分からないんですけど、叔父の趣味なんです。結衣や赤城さんも褒めてくれました。先輩も興味があるんですか?」

「うん。母親が好きだから、影響されたかも。旅行、行く度に買い集めてたから。」

「そうなんですか。叔父も一緒です。仕事や旅行で地方に行く度に、買い集めてました。」

「…大事にした方が良いよ。きっと、思い出が詰まってるから。」

先輩の真剣味を帯びた声に、ドキリとしてしまう。今朝見た硬い表情だった。

「…はい。」

「お皿運ぶの?」

次の瞬間にはいつもの明るい声に戻っていて、表情も柔らかい。はいと返事をして、赤城さんの元に皿を運びながら、僕は不思議な感覚を味わっていた。いつも聞いているはずのその声が、どこか聞き覚えのある声の様な気がして。

気のせいだよな?なんか変な感じだ。そうは思ったものの、料理に気を取られ、すぐに忘れてしまう。


冷ましたおかずを重箱に詰める作業は、結衣と赤城さんが二人でやっていた。出来たと言われて先輩と二人で見に行く。

重箱に詰められた、色取り取りのおかずに歓声が漏れた。スモークサーモンで花を作っていたりと、芸が細かい。さすが女性だなぁ。

「凄いね、二人とも。叔父さんより凄いよ。綺麗だし。」

「さすが莉子。白石さんも。」

賛辞を送ると、結衣は照れて、赤城さんは満足そうににっこり笑った。楽しかったと言ってくれたので、本当に料理が好きなんだなぁと思う。また来年もやってくれないかなぁ?なんて思ってしまった。

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