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僕達の日常  作者: さきち
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ホワイトデー

3月14日ホワイトデーの日。朝一緒に通勤した時、いつものカフェでお返しだと彼からチョコレートを手渡された。小さめの紙袋には有名なロゴが描かれている。

「ありがとうございます。」

「何を選んで良いのか迷って、結局はチョコレートに決めたんだけど、好きだったよね?」

彼は私の顔を覗き込む。

「はい、好きですよ。嬉しいです。早速今日帰ってから食べます。」

私がそう言うと、ホッとしたように表情が緩む。あまり表情が変わらない彼だけど、一緒に過ごすうちに、少しずつ違いが分かるようになってきた。

「今日は久し振りにラーメン行かない?」

「良いですね。」

「じゃあ仕事が終わり次第連絡してね。」

「ここで待ち合わせで良いですか?」

私が聞くと、うんと彼が頷く。私は彼と別れて、カフェラテを持って会社に向かう。自分でも頬が緩んでいるのが分かった。彼と居られる時間と、大好きなラーメンと両方の嬉しさで足取りが軽い。チョコも貰ったし、今日は楽しみな事だらけだ。



仕事を早めに終わらせて、カフェに行った。久し振りのラーメンで心が踊る。彼はもう少し時間が掛かるらしく、本でも読んで待つことにした。

少し遅れて彼が来て、私にごめんねと謝る。

「そんなに待ってないですよ?」

「…いや、帰るのが遅くなったら悪いから。」

「大丈夫ですよ?」

「…うん。じゃあ行こうか。」

彼は腕時計をチラリと見て、私を促す。


それから2人でラーメンを食べて、喋っていた。彼がチラリと腕時計を見た。あれ?まただ。この後、何か用事でもあるんだろうか?

「用事でもあるんですか?」

「いや、そういう訳じゃないんだけど…。」

「観たいテレビでもあるんですか?」

「違うよ。」

彼はそう言って笑う。じゃあ、帰ろうかという事になり、2人で店を出た。


電車に乗って私の家の最寄り駅で降りて、家に向かう。付き合いだしてからは、彼は自分がしたいだけだからと言って、いつも家まで送ってくれる。申し訳ないとは思いつつ、一緒に居られる時間が長くなるので、実は凄く嬉しい。会社の近くじゃないので手も繋げるし。

周りに人がいない時は、別れ際にキスをしてくれる。この時間が幸せで、終わる瞬間が少し切なくて。

「おやすみ、また明日ね。」

「おやすみなさい。」

彼の後ろ姿を見送って部屋に帰った。


部屋に帰って、少し経ってから、部屋の呼鈴が鳴る。インターフォンのディスプレイには宅配便の人が映っていた。何か頼んでいただろうかと、ロックを解除する。その人が持ってきたのは、真っ赤な薔薇のアレンジメントで驚いた。差出人はもちろん彼で。荷物は時間指定になっていた。だから時間を気にしていたのか。

花を受け取って部屋に入る。薔薇の香りが辺りに漂った。

「黒川さん、こういう事するんだ…。」

あまりこういう事をしないタイプだと思っていた。付き合った人から、花を貰ったのは初めてで、嬉しさと恥ずかしさが込み上げてくる。むせ返るような香りを嗅ぎながら、美しい赤い薔薇に暫し時間を忘れて魅入ってしまった。


赤い薔薇の花言葉って何だったっけ?うろ覚えだってので、スマホで調べると、[あなたを愛しています][愛情][美][情熱][熱烈な恋]とあって、顔が真っ赤になってしまった。ベッドの上で足をバタバタさせて悶える。

いや、あの黒川さんの事だ。きっと花言葉なんて分かっていない。

「あ、お礼を言わないと。」

もう、家に着いている頃だろうか。電話をかけて、コール音に耳をすませた。

「はい。」

「えっと、お花届きました。ありがとうございました。」

「…気に入ってもらえた?」

「はい。凄く嬉しかったです。…あの、何で赤い薔薇だったんですか?」

気なっていたので、理由を聞いてしまう。

「…姉に花言葉を教えてもらったから。」

「…知ってたんですか。」

「うん。…やっぱり似合わないよなぁ。姉に助言してもらったんだけど、慣れない事はしない方が良かったかなって思ったり?」

声から、少し照れた感じが伝わってきて、歳上だけれど可愛いなって思ってしまった。

「…いえ。本当に凄く嬉しかったですよ。胸がキュンてなりました。」

「ホント?じゃあ、大成功かな?」

「ふふふ。大成功ですよ。」

「…良かった。」

ホッとしたような声に、また可愛さを感じて、自分が思っているより彼は私を想ってくれているのかも知れないと思う。

少しだけたわいない話をした後、おやすみなさいと言って電話を切った。


[あなたを愛しています][熱烈な恋]か…。私は真っ赤な薔薇を見詰める。私は彼の想いに見合うだけのモノを持っているのだろうか。

普段飄々としていて分かりづらいけれど、薔薇の赤い色から、彼の熱を感じた気がした。

いつも読んで頂いてありがとうございます。

もう一つの連載小説『君を描く』の方を賞に応募しようと思っています。そちらを書くのが忙しくなりそうなのですが、週一での投稿は続けたいと思います。

あっ、言っちゃった。私って、自分で自分の首を絞めるタイプ?

と、自分を追い込んだ所で、お知らせです。先週末に書いた短編『野良猫彼女と僕』を投稿しています。よろしければ、そちらもお読み頂けるとありがたいです。

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