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僕達の日常  作者: さきち
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姉とパセリ

今日はお昼休みに姉さんに会う約束をしている。職場は近いが、会おうと思わなければ会わないものだ。

瑠璃の誕生日が近付いているので、誕生日プレゼントのリサーチだ。メッセージでも良かったのだが、姉がラーメンが食べたいから連れて行けと言われた。やはり女性一人ででは行きにくい様だ。


「じゃあ、戦隊ヒーローのおもちゃで良いの?」

ラーメンを注文して僕は姉さんに確認する。

「うん。よろしく。」

戦隊ヒーローの警察の方じゃなくて、怪盗の方のファンだと言って、出来たらそれにしてくれと言われた。今はそんな感じのをやっているのか。全然知らなかったので、やっぱり聞いて良かったと思う。

「ライダーは父さんがプレゼントしてくれるって。」

瑠璃は活発な性格で、そういうおもちゃの方が喜ぶらしい。父さんと一緒になって、日曜日の朝はテレビの前に噛り付いて観ているとの事。…父さん、自分の趣味を押し付けてないよね?大丈夫?まぁ、やり過ぎてたら、母さんが怒るだろう。


「あ、そうだ。ホワイトデーのお返し何が良いと思う?」

「義理?本命?」

「両方。」

「もしかして、ラーメン友達の彼女かしら?」

「うん。付き合ってる。チョコレート貰ったんだ。」

「良かったじゃない。余計な事言って、愛想尽かされない様に気をつけるのよ?」

姉は僕が余計な事を言って、元カノに振られた事を知っている。

「うん。気をつける。で、どうしようかな?」

「一緒に選んであげようか?」

「お願いします。」

「今日で良い?」

「うん。」

「母さんに遅くなるって、言っておくわ。晩ご飯何か奢ってね。」

「もちろん、そのつもりです。」

これは毎年の恒例行事になっていて、凄く助かっている。女性の好みは女性に聞くのが一番だ。今日の帰りに、一緒にデパートに行く約束をして別れた。



誰に何を貰ったかのメモを見せながら、デパートのホワイトデー用の特設コーナーで、姉の指示通りに買っていった。テキパキと商品を選んでいく様子に、毎年感心してしまう。また、頭が上がらなくなりそうだ。

結衣の物を選ぶ時は、赤城さんから仕入れた情報を姉に伝えた。すると、付き合いの期間を考えると、アクセサリーは重いわねとか、ブツブツ呟いている。

「どこまでいってんの?もうヤっちゃった?」

仮にも女性なんだから、ヤるとか言わないで欲しい。

「…まだ。キスとハグはしたけど。」

正直に答える僕も僕だろうか。あら、慎重ねなんて言って、消えものの方が無難かな?などと結論を出している。結局高級チョコレートに落ち着いた。


「家賃要らなくなったんだから、イタリアンかフランス料理のフルコースぐらい奢りなさいよ。」

そう言ってはいるが、冗談なのは分かっている。姉さんが気楽な店の方が好きなのも知っている。それにそういう店に弟と行きたいとは思わないだろう。

「家具とか買ったし、結婚資金だってもう少し貯めたいし。」

「ふふふ。結婚したい相手なんだ?」

姉さんがニヤニヤしながら聞いてくる。

「…この歳になったら考えるのは当たり前でしょ?」

「そう?前はそんな事言わなかったけど。」

「…僕の余計な一言も受け流してくれる、貴重な子なんだよ。」

「…確かに、それは貴重だわ。」

逃さないように気を付けないと、次は無いかも知れないわよ?なんて怖い事を真剣な顔で言うのはやめて欲しい。焦るじゃないか。



行きつけの居酒屋に向かう。店主がその美人は誰ですかと聞いて来たので、姉だと答えると似てませんねと言われた。昔から言われ慣れてるので、別に気にしてない。姉は両親の良い所だけを受け継いだ、黒川家の奇跡と呼ばれていた。

姉さんの意見を聞きながら適当に注文する。久し振りに呑もうかなと姉が笑顔なので、気分転換になってくれれば良いと思う。子供のいない時間を楽しむのも、たまには必要だろう。普段はあんなに頑張っているのだから。

お互いの会社でのことや、家族の話をして近況を報告し合う。


「今日はありがとう、助かった。」

唐揚げや、枝豆をパクついて、ビールを飲んでいる姉さんに改めてお礼を言う。

「どういたしまして。」

「ただ、本命の彼女の心をがっちり掴むには、少し物足りないわね。」

姉さんは何故か、唐揚げに添えられていたパセリを摘んだ。

「え〜、買い物終わった後にそんな事言わないでよ?」

「メガ盛りサラダを完食するか、このパセリを食べるかしたらお姉ちゃんが取って置きの秘策を教えてあげるわよ?」

パセリなんて人が食べる物では無いと思うんだけど!?メガ盛りサラダを完食なんて、正気の沙汰とは思えない!僕の野菜嫌いを知っていて言っているのだから、タチが悪い。

「鬼!悪魔!!」

「あら、どうせなら小悪魔の方が嬉しいわね。で?どうする?ほーれほーれ。」

姉さんは僕の口の前にパセリを持って来て、ニヤニヤ笑っている。もう悪魔にしか見えない。結構酔っているのかも。

僕は意を決して、姉が持っていたパセリを口に入れた。姉が驚いた顔をして、それからニヤニヤ笑う。う、パサパサして美味しくない。口の中のパセリの匂いを洗い流すためにビールを呑み干した。目に涙が滲む。

「う〜、不味い。」

「泣きながら食べてまで、知りたいのね。そんなに好きなんだ?」

姉は呆れた顔をした。

「…笑いたいなら笑えば?」

僕は恥ずかしくなって、そっぽを向く。自分でも呆れるほど、どんどん好きになっていっているのだから。

「…笑わないわ。真剣なんだと分かったもの。」

姉はパセリを食べ切った僕を認めてくれたのか、帰り道で取って置きの秘策を伝授してくれた。え?そんな事でいいの?と言う内容だったのだけど、意外と重要らしい。上手くいくかは分からないけど、試してみようと思う。



次の日、青木が僕と姉の姿を見かけた様で、あの美人は誰ですかと聞いてくる。紹介してくださいとしつこい。


「あれは姉だよ。一児の母だ。父親になる覚悟が無いのなら諦めろ。」

冷たく言い放つが、紹介してくれるだけで良いですからとめげない。

「興味本位で近づくな。いくらお前でも、姉さんを傷つけたら許さない。」

僕の真剣な様子に鼻白んだのか、青木は黙ってしまった。これぐらい釘を刺しておいたら大丈夫だろう。

本当に罪作りな姉だなぁ。僕は溜息をついた。

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