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僕達の日常  作者: さきち
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誕生日2

僕は結衣からのプレゼントを持って、彼女の準備が整うのを待つ。彼女には呑むと車で送れないので、泊まる準備をしておいてと言った。真っ赤になっていた姿を思い出して、可愛いと思う。

「お待たせしました。」

「行こうか。」

彼女の荷物を持って、僕達は自宅へ向かう。

途中のパン屋でワインに合いそうなものを、二人で選んだ。バゲットに、フォカッチャ、ブリオッシュ、クロワッサンも買う。明日の朝食も兼ねて買ったのでちょっと多いけど、見た目よりよく食べる彼女だから大丈夫だろう。

スーパーにも寄って、材料を買い込む。スモークサーモンや、クリームチーズ、オリーブ、サラダ用のベビーリーフやレタス、アボカド、トマトなど。クロワッサンをサンドイッチにすると言ってハムを手に取る彼女は笑顔だ。ビールは買い置きがあるので良いだろう。

会計を済ませて、マンションに向かった。


マンションの部屋に帰って、コートを脱いだり手を洗ったりした後、エアコンのスイッチを入れる。寒くはないかと彼女に問うと、大丈夫と笑顔で言ってくれた。

二人でキッチンに立って、冷蔵庫に買ってきたものを入れたり、料理を作り始めたりする。彼女は白ワインを冷蔵庫に入れた後、シュシュで髪を括り腕まくりをして手を洗っていた。カプレーゼを作ると言って、モッツァレラチーズとトマトを切って器に盛っていく。僕もサラダ用の野菜を洗って手でちぎっていく。生野菜は苦手だけれど、彼女は何事も挑戦だと言って、譲らなかった。結構厳しい。

白ワインが冷えるのを待ちきれず、料理をしながら二人でビールを飲んだ。

バゲットを切って、皿に並べる。オープンサンドにしようと、色々な具材を別の皿に盛った。好きな物を乗せて食べられる様に。

彼女は自分の持って来た缶詰を開けながら、お皿に盛り付けている。こちらを見て美味しそうですねと笑う。

「ガーリックトーストも良いかも知れないですね。」

僕の切ったバゲットを見ながら呟いた。

「さすがに食べきれないんじゃない?」

「そうですね。じゃあ、また今度。」

彼女が言ったまた今度という言葉に、頬が緩む。また来てくれると、次があると思うと嬉しくなる。こんな小さな事で舞い上がってる僕は、スケールの小さな男だろうか。


白ワインで乾杯した後、作ったオープンサンドを摘んだ。彼女の作ったサラダは、角切りにしたゆで卵、チキン、アボカド、トマト、オリーブがレタスの上に乗っていて具沢山だ。コブサラダと言うらしい。それをトングで取りながら、ドレッシングをかける。ひと口食べて、結構美味しいなと思った。

「どうですか?」

「…美味しいです。」

「ふふ。良かった。」

彼女は満足そうに笑うと、自分も食べ始める。


場所をリビングのソファーに移動して、赤ワインを開けてグラスに注ぐ。赤い色が綺麗だなんて思ってしまうのは、君が一緒にいるからだろうか。缶詰のオイルサーディンや牡蠣を摘んで、呑んで喋って笑い合う。そんな時間が幸せで愛しかった。


「チーズと蜂蜜の組み合わせって最高ですね。」

バゲットに乗せて食べながら、彼女が話している。頬が赤くなっているので、酔っているようだ。

「そろそろケーキ食べようか?」

「…忘れてなかったんですね。」

彼女が不満げに口を尖らせた。取って来ますと言って、冷蔵庫へと向かう彼女の後ろについて行く。

「あ、ロウソク忘れた!封印しようと思ってたから、袋から抜いたんだった!」

僕の方を申し訳なさそうに見て、ごめんなさいと頭を下げて落ち込んでしまった。

「僕が急に言ったから。大丈夫だよ。」

「…包丁取って来ます。」

「あ、待って。一度、ホールの状態から、直接フォークで取って食べてみたかったんだよね。」

「やったこと無いんですか?」

「うん。」

「黒川さんにも、初めてなことってあるんですね。」

彼女の落ち込んだ顔が消えて、笑顔が戻る。

「そりゃあるよ。ロウソクのない誕生日ケーキも初めてだし、君とこれだけ長い時間を過ごすのも、君とのキスもね。」

そう言うと君は赤い顔をして目を逸らした。


フォークでケーキをすくってひと口食べる。苺の甘酸っぱさと、甘さが控えめな生クリームとふわふわのスポンジが美味しい。

「美味しいよ?」

もうひと口すくって、彼女の口に運ぶ。君はパクリと食べて、味はまあまあかなと言っている。

「ケーキ、ありがとう。」

きっと一生懸命作ってくれたんだろうなと思うと嬉しくて、気付いて良かったと思った。

「どういたしまして。こんなのでも喜んでくれて嬉しいです。」

彼女の笑顔を見て、我慢できなくて抱き締める。君も僕の背中に手を回した。

「このケーキ、どうするつもりだったの?」

「一人でやけ食いしようかと…。」

「…太るよ?」

「…そう言う所が、デリカシーが無いって言われるんですよ。黒川さん。」

彼女は溜息をついた。

「…なるほど。こんな男でも君は良いのかな?」

「あなただから、良いんですよ。」

彼女の瞳が僕を真っ直ぐに見詰めている。その瞳に吸い込まれるように、唇を重ねる。

君が僕を受け入れてくれてるのが、そのキスから分かる。唇を離して、更にギュッと抱き締めた。

「好き。」

「…もっと言ってください。」

「好きだよ。結衣。」

抱き締めたまま耳元で囁く。

「……。」

「結衣?」

君の身体から力が抜けているのに気付いて、ほっぺをツンツン突つく。

「…普通寝る?この状況で。」

僕は溜息をついた。

そう言えば、お酒を呑むとすぐ寝てしまうと赤城さんが言っていたっけ?朝早くからケーキを作ってくれていたみたいだし、仕方ないか。僕に抱き着いたまま、スヤスヤと眠る彼女の頭を撫でる。もう少し待ってくださいと言っていた言葉を思い出して、もう少しってどれくらいだろうかと考えた。

まあ、気を許してくれてるのは間違いないだろうし、焦らなくても良いか。

そう言えば、こんな風に甘えられるのも初めてかも知れない。本当に今日は初めてばかりだ。


僕は彼女を寝室のベットに寝かせた後、おでこにキスを落とす。

「おやすみ。」

そして、部屋の明かりを消した。

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