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僕達の日常  作者: さきち
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年末

年末は実家の大掃除を手伝うように言われている。毎年の事だから別に構わないのだが、普段住んでいる賃貸のアパートの大掃除もある。会社の掃除もあったから、本当に掃除三昧だ。

「ああ、疲れた!」

部屋の掃除を終えて、一息つく。自分を癒す為にいつもより高い紅茶を淹れる。やはり香りが良い。買い置きのチョコレートを一緒に食べた。じんわりと疲れを実感する。

明日1日ゆっくりしてから、実家に帰ろう。お土産は母親が好きなアップルパイにしようかな?

今日は何も作りたくない。コンビニでお弁当でも買ってこようか。と思っていたら、赤城莉子から電話がきた。食材を使い切りたいので食べに来ないかとの事、二つ返事で了承して莉子の家に向かう。


莉子の住んでいるアパートは女性しか居ないらしい。可愛い外観と広めのキッチンで女性に人気なのだとか。防犯にも気を使った作りらしい。

「こんばんは。ビールとワインどっちが良い?」

私は持参したお酒を見せる。

「取り敢えずビールで。」

「了解。」

「食材使い切るって計算してなかったの?」

いつも使う食材を計算して必要な量しか買ってないはずなのに、ミスったのだろうか。珍しい事だが。

「ああ、彼が会いたがって家に帰れなかったんだ。昼に帰ってきたけど、明日実家帰るのに食べきれないから来てもらっったの。」

「そっか、愛されてるねぇ。」

「意外と寂しがりやだから。」

少し困った様に言うけれど、幸せそうで微笑ましい。

「ふふ。でも助かったー。今日何も作りたく無かったんだ。大掃除で疲労困憊。」

「一気にするからでしょう?少しずつ計画的にしてれば、それ程でもないわよ?」

「それは出来る人の言葉ですー。夏休みの宿題を最後の方になって、慌てて片付ける人の気持ちは莉子は分からないでしょう?」

「さっさと終わらせるタイプだったからね。」

やっぱりねー。


いつ食べても莉子の料理は美味しい。今日は和食中心だった。煮物と焼き魚、白和えにおだしの効いたお味噌汁。

料理が趣味と言うだけあって、研究熱心だし凝り性でもある。その時夢中になっている料理が違うので、一週間程ベトナム料理ばかり食べさせられたり、キッシュの卵液の黄金比を知るためだと言って、試食をさせられたりといったエピソードがてんこ盛りである。

大学生の頃からの付き合いだが、社会人になって自由にできるお金が増えて更に熱心になってるんじゃないかと思う。

転職を考えていた時に、今の会社を紹介してくれたのも彼女だ。色々相談に乗ってくれる親友は、厳しくて優しい。


ビールを呑みつつたわい無い話をする。

「そっちはどうなの?連絡あった?」

莉子が聞いているのは、黒川さんの事だ。

「…まだない。」

「ふぅん。年末年始は忙しいんじゃない?」

「そうかもしれないけど。興味がないだけかも。」

溜息と共に不安を吐き出す。だって、連絡先を聞くことすら忘れていた人だから。

「自分から連絡してみればいいじゃない。」

「内容が思い浮かばない。」

「何でもいいじゃないの。」

「そうかなぁ。」

でも、自分から熱心に連絡を取ったことなど無いのだから、どうすればいいのか分からない。

「お礼を言うだけならさっさと言えるでしょうに。何を期待しているんだか。」

莉子はビールのグラスをユラユラ揺らす。

「別に期待なんてしてないもん。」

そうは言ってみたけれど、莉子にはお見通しだろう。

「待ってるだけじゃ駄目だと思うわよ。」

「…分かってる。」


晩御飯をご馳走になり、帰路に着く。良いお年をと挨拶すると、年末なのだなぁと実感した。ホームで電車を待っている間、あの日の事を思い出していた。

「期待かぁ。」

莉子は期待と言ったが、その正体には気付いていた。あの日に生まれた期待は、日を追うごとに大きく膨れ上がって、もう無視出来ないところまで来ている。

勝手に期待して、勝手に失望するなんて馬鹿みたいだ。


もし諦めなければならないのだとしても、納得出来るところまでは頑張ってみよう。

だってまだ、始まってすらいないのだから。

「取り敢えず、メッセージでも送るか。」


私はホームに入って来た電車の喧騒の中で呟いた。

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