ソファー
初めてのデートだというのに、彼女が行きたがったのは家具屋だった。インテリアを見るのが好きらしい。丁度行きたかったから良いのだが、拍子抜けした感じだ。
家具屋に行くと、彼女は目をキラキラさせて並べてある商品を見ていた。まぁ楽しんでいるようだからいいかな。
なんか、新婚夫婦の家具選びみたいだなという言葉は呑み込んでおく。
「三人がけで良いですか?」
「おまかせします。」
「革張りか布張りかどっちが良いですか?」
「どっちが良いと思う?」
よく分からないので聞いてみた。
「革張りは汚れが付きにくいけど、冬は冷たいですよねぇ。布張りは肌触りが良いけど、洗濯が出来るタイプと、出来ないタイプがありますね。」
「…オススメは?」
「カバーをかけて、それをこまめに洗濯するのが良いんじゃないですかね?」
「最近はこんなのがあるんです。」
そう言って彼女は伸びてスッポリとソファーを包むタイプのカバーを持ってきた。
「なんか、主婦みたい?」
彼女は半眼で僕を睨め付ける。
「褒めたんだよ。」
良い奥さんになるだろうなと思っただけなんだけど。
「分かりにくいんですよ、黒川さんの褒めるとこ。」
ため息をつきながらそうこぼす。
「色、どれにします?」
「うーん。ラグの色が緑色だから、茶色かベージュかなぁ?」
「季節や気分で変えてもいいですよ。」
「取り敢えずベージュで。」
飽きがこない色の方が良い。僕は平凡な男なのだ。
ソファーの高さは僕に合わせると彼女は座りにくくなってしまわないかな?と考える。お掃除ロボットが入る隙間があって、僕にも彼女にも丁度良い高さの物を選びたい。
「これとかどう?」
僕は条件に合いそうなソファーを指し示す。
「黒川さんには低くないですか?」
彼女が首を傾げて僕を見る。
「そうでもないよ。君は?」
「私に合わせてどうするんですか。」
呆れたように彼女が言う。
「家に来てくれないの?」
「…行きますけど。私に合わせなくても良いんじゃないですかね?」
「居心地がいいと沢山来てくれるかなと思って。」
僕は彼女を見つめる。
「…心配しなくてもちゃんと行きますよ?」
小さな声で言って僕を見る。少し頬が赤くなっている。
「じゃあ合わせて?」
「…はい。」
3人がけの布張りのソファーとソファーカバー、コーヒーテーブル、ついでにとカーテンも選んでもらって買った。ソファーとコーヒーテーブルは後日自宅まで届けてもらう。
「来たついでに、小物も見て良いですか?」
「良いよ。ゆっくり見て。」
「気に入ってたマグカップを割っちゃったんです。」
彼女は北欧風のデザインのマグカップを見比べて、迷っている。
「どっちの色が良いと思います?」
赤系のデザインと、黄色系のデザインを指差した。
「じゃあどっちも買おう。僕もお揃いの買うから。」
僕は緑系のデザインのマグカップと、彼女が迷ってた2つを持ってレジに向かった。
「1つは僕の家に置いておいてね。」
耳元で囁くと、彼女は顔を赤くして目を逸らした。
付き合い始めた僕達の初めてのデートは、ただの買い物になってしまったけれど、それも悪くないと思えた。