パンケーキ
会社の廊下で赤城さんを呼び止めた。
「例のモノの傾向と対策が知りたいんだけど。」
「ああ、アレですか。良いですよ。」
理解が早くて助かる。
「ありがとう、助かったよ。」
何しろ、好きなものとか分からなかったのだ。
「私、甘い物より塩気のあるものの方が好きです。」
もちろん、対価は払うつもりだ。
「了解。今度差し入れします。」
赤城さんと連絡先を交換した。
「先輩って赤城さん狙いだったんですか?」
青木に見られていたらしい。
「違う。情報提供者だ。彼女には彼氏いるぞ。」
青木が不思議そうな顔をしている。
「そうだ、お前女子受けするカフェとか詳しいだろ?教えてくれ。」
「デートですか?」
「そう。」
「先輩いつのまに?僕というものがありながら。」
「お前のそういう発言が、誤解を生むんだ。」
この前だって誤解されたんだぞ。
「良いですけど、パンケーキのお店付き合ってくださいよ。一人じゃ行きづらいんで。会社終わりで良いですから。」
「甘いものかぁ。イマイチ気が乗らない。」
夕食の時間帯に甘い物は抵抗がある。
「ふわっふわらしいですよ。食事系パンケーキもあるらしいです。」
「それなら良いか。っていうか他に誘う奴いないのかよ。」
「先輩が良いんですよ。何だかんだ文句言いながら付き合ってくれますし。」
僕って愛されてますよねぇとかほざいている。
「先輩が彼女にうつつを抜かして、構ってくれなくなったら淋しくて泣いちゃう。」
わざとらしく泣き真似をする。
「気持ち悪いこと言うなよ。」
「先輩ってばツンデレなんだから。」
「デレた覚えはない。」
「お前ら仲良いな。」
クスクスと笑いながら緑川先輩が近づいて来た。
「あ、緑川先輩、黒川さんと僕は相思相愛の仲です!」
「またそう言うことを。」
「今日もパンケーキ行こうって言ってたとこです。」
「情報の対価で、約束させられただけです。」
「一緒にどうですか?」
「へぇ、良いな。」
「甘いもの好きなんですか?」
「うん好き〜。」
「彼女と行かないんですか?」
「彼女、甘いものあんまり好きじゃないのよ。」
「へぇ。」
意外とそういう子も多いのかと納得した。
男三人でパンケーキはどうかと思ったが、チラホラと他にもいるようだ。席に着くと二人はそれぞれに注文する。食事系にしようかと思っていたのに、当然のように甘い方を勧めてくる二人に負けて、季節のフルーツのパンケーキを注文した。二人が味見したいだけなんじゃ無いだろうか?
店員さんによれば、少し焼くのに時間がかかるらしい。
「黒川先輩のデートの相手って誰なんですか?」
「秘密。」
ええ〜教えてくださいよと煩い。
「白石さんだろ?」
緑川先輩の言葉に僕は驚く。誰にも言っていない筈なのに、何故知っているのだろうか?それよりも青木の反応は。横を見るとビックリして固まっている。
「ちゃんと言ってやった方が良い。」
緑川先輩は僕を見て真剣に言った。
「…コイツ見た目より繊細なんですよ。だから機会をうかがってたんです。ちゃんと言うつもりだったんですけどね。」
僕は溜息をついて青木に向き直る。
「ごめんな青木。白石さんと付き合ってる。お前が彼女を好きだった事知ってたから言いにくかった。」
そうだったんですかと青木は言う。思ったより冷静そうだ。
「大丈夫です。ビックリしましたけどね。納得した部分もあるんで、気にしないでください。そんな素振りなかった気がするんですが、いつからですか?」
「先週から。バレンタインデーにチョコ貰ったんだよ。義理だと思ってたんだけど。」
「ある意味お前のお蔭でもある。ありがとう。」
「デレた。」
「デレてない。」
なんで茶化すかなぁ。
「なんで緑川先輩知ってたんですか?まだ誰にも言ってませんけど。」
「莉子に聞いた。」
「緑川先輩の彼女って赤城さんだったんですか。」
成る程、納得した。
「忘年会で二人を隣同士にしたのは俺だからな。お膳立てした以上、結果が気になるじゃないか。」
「そうだったんですか。」
「青木も離しといてやったし、周りは既婚者で固めたから抜かりはない。」
ふふんと緑川先輩は笑い、自慢気に言う。
「僕離されたんですか!?ショックぅ!」
「その代わり、独身者で固めてやっただろ?」
「あぁ、なんか合コンみたいになってましたね。」
確かに楽しかったですけどねと青木は言う。
忘年会の事といい、タクシーでの事といい。
「なんか、赤城さんの手の平の上で、コロコロ転がされているような気がします。」
まぁ、否定はしないけどと緑川先輩は笑う。
「でもなぁ、いくら御膳立てしてやっても、本人の努力無しには上手くいかないさ。今回は、白石さんが頑張ったんだろう。自分から攻めるのは苦手みたいだったから。」
「そうですか。」
「次はお前が頑張れよ。」
「はい。」
「だから、莉子の連絡先を聞いた事は大目に見ておいてやる。」
見られてたのか。
「…はい。」
それから僕達は運ばれて来たパンケーキを食べた。やっぱり甘く無い方にしておけば良かった。