告白
彼女の話は続く。
「同じ時間の電車を探しても見つからなくて、もう会えないかと思いました。」
あの時はたまたま、この家から出勤したんだったけ。探してくれてたんだ。
「会社で出会った時、凄く嬉しかったんです。眼鏡じゃなかったので最初は気付かなくて。青木さんの後を追ってきた貴方を見て気付いたんですけど、驚きが強くてお礼が言えませんでした。何度も話し掛けてみようとしたんですけど、勇気が出ずに莉子に怒られてばかりで…。」
彼女は苦笑いする。そうだったのか。
「そんな時に、忘年会があったんです。莉子が気を利かせてくれて隣の席になる様にしてくれました。それで話しかけたんですけど、どう言えば良いのか分からなくて。世間話をしているうちに時間は過ぎるし、内心焦っていたんですけど、そんな時黒川さんがラーメン食べようかなって呟いたんで、それに飛び乗る感じで良いですねって言ってました。」
「一緒にラーメンを食べたり、メッセージのやり取りをしているうちに好きになっている事に気付いてしまって、でもどうしたらいいか分からなくて…。チョコレートを渡したけど、義理だと思われるし。」
「あれは義理チョコの文面だよね。」
彼女は苦笑いして、そうですねと言う。
「莉子にも同じ事を言われました。でも自分なりに精一杯だったんです。」
「でも後悔して、昨日は呑みすぎてしまいました。で、今に至ると。」
「あの、あの時は本当にありがとうございました。」
頭を下げる。顔を上げるとスッキリした顔をしていた。
「…で?」
え、終わり?その後に続く言葉があるんじゃないだろうか。
「はい。ありがとうございました。」
「じゃなくて、どうしたいの?」
「どうしたいですか?そうですね。」
少し考えてから口を開く。
「これからも仲良くしてもらえると嬉しいです。ラーメン友達は続けて貰えるともっと嬉しいです。」
「あの、好きって言ってもらったと思うんだけど。」
「好きですよ。」
予想外の答えに戸惑う。
「つまり現状維持で良いと。」
「はい。今は。」
即答?なんて消極的な告白だろうか。
あれ?自分は、猶予が欲しいとさっきまで思っていたのではなかったか。なのに。
「…どっちかというと、僕の方が現状維持に納得できないというか。逃がすつもりは無いんだけど?」
口をついて出たのはそんな言葉で。
「えっと、黒川さんって私に興味無いですよね?」
「…何故そう思うの?」
「なんとなく態度とかで。なので無理していただかなくても結構ですよ?」
彼女は本当に僕がなんとも思っていないと信じているようだ。
「…興味があったらどうする?」
っていうかあるに決まってるじゃないか。
「そうなれば嬉しいですが。今は無いですよね?でもこれから興味持ってもらえるように頑張りますから。」
はぁ。上手く所有欲を突いてくる。計算して言っていたら脱帽ものだけど。
「もう、興味持ってる。モタモタしてたら、他の男に盗られそうで怖い。」
「えっと、本当ですか?」
目を丸くして彼女が驚いている。
「逃がすつもりは無いって言ったでしょ?と言うことで、僕と付き合いませんか?」
僕は彼女の前に右手を差し出す。彼女は躊躇いがちに手を差し出す。僕の手の上にちょんと手を置いた。犬のお手みたいだ。僕はさらに左手でそれを包み込んだ。
「お礼してくれるんだっけ?」
「はい。」
何をしてもらおうか。僕はニヤリと笑った。