タクシー
居酒屋の後、バーでも青木の愚痴は続いた。少しの罪悪感から付き合っていたのだが、もうそろそろ勘弁してもらいたい。
「カラオケ行きましょうよ先輩。」
少しはスッキリしたらしい。笑顔が増えている。
「嫌だ。お前相当酔ってるだろ?酔うと寝るからヤダ。」
寝た奴を送って行くなんて面倒だ。しかも男なんて誰が好き好んでやるか。
「え〜!泊めてくれればいいじゃないですか!」
「ヤローを泊める趣味はない。可愛い女の子なら喜んで泊めるけど。」
「僕も可愛い後輩ですよ!」
縋り付いてくる青木を食い止める。顔近ずけ過ぎだ、悪いがそんな趣味は無い。
「もう帰れ。タクシー拾ってやるから。」
「ええ!行かないんですかぁ?」
なんか喚いているが、もう無視でいいや。
会計を済ませてバーを出る。
意識がしっかりしているうちにタクシーに押し込む。行き先はちゃんと言えてるから大丈夫だろう。タクシー代を青木に渡して、運転手さんにお願いしますと言って出るとドアが閉まる。後部座席の窓が開いて、青木がご馳走さまでしたと頭を下げて挨拶してきた。
こういうところは可愛いんだけどなぁ。
「先輩、大好きです!愛してまーす!」
大声で言うのはやめてほしい。
「ハイハイ、気をつけてな。」
苦笑いして、手をヒラヒラさせて送り出した。
「黒川さん?」
振り返るとそこには白石さんと赤城さんがいた。
「あれ?二人共呑んでたの?」
二人ははいと答える。なんか白石さんのショックを受けた様な顔はなんだろうか?
「……青木さんとそういう関係だったんですか?」
白石さんが顔を青ざめさせて聞いてくる。
「???そういう関係?」
意味が解らず聞き返す。青木なんか言ってたっけ?愛してますとか言ってたか。理解が追いついて、血の気が引いた。
「!!!違う!誤解だ!」
青木め!変なこと言いやがって。
「本当に違うから!」
赤城さんはクスクス笑い、彼女はホッとした顔をした。
変な所を見られてしまって、誤解をされてしまった。
月曜日は青木に、こめかみをグリグリしてやろうと心に決めた。
二人もこれから帰る所だという。一緒にどうですか?と言われて同じタクシーに乗り込んだ。僕は助手席に彼女達は後部座席に座った。
「赤城さんはこの辺から近いの?」
「はい。電車もあるんですけど、結衣が結構呑んじゃって。心配だからタクシーで帰ることにしました。この子すぐ寝ちゃうから。悪いんですけど、結衣を送って行ってもらっていいですか?黒川さんの家一番遠いみたいなので。」
「もちろん良いよ。」
「ありがとうございます。」
赤城さんが降りた。お願いしますねと念を押される。
白石さんは運転手さんに行き先を告げる。沈黙が続く。気になって後を振り返ると彼女はすやすやと眠っていた。
着きましたよと言われて彼女に声を掛けるが、起きない。どうしよう、住んでいる所が分からないと送れない。赤城さんに聞いてみようと思ったが、携帯番号を知らないことに気付いた。自分の詰めの甘さを後悔する。仕方がないので自分の家に連れて行くことにした。
流れる景色を見ながら、困ったことになったと思わずにはいられなかった。