チョコレート
2月に入って彼女と四度目のラーメンを食べている。
前回ラーメンを食べた時に嫌われたのでは?と思っていたのだが、メッセージのやり取りも続いているし誘ったら普通に来てくれた。嫌われてないようでほっとする。
「黒川さん甘いもの好きですか?」
彼女が聞いてきた。
「うん。普通に食べるよ。甘過ぎなければ。」
「チョコとかも食べます?」
「もちろん好きだよ。コーヒーと一緒に食べるのとか好きだし。」
疲れている時とか、特に食べたくなる。
「ふーん。バレンタインとかチョコもらったら嬉しいですか?」
「そりゃ、嬉しいよ。義理でもね。」
「くれるの?」
期待を込めて彼女を見ると、あっさり良いですよと言ってくれた。
「莉子の買い物に付き合う予定なんですよ。彼のチョコレート選ぶらしくて。」
ついでに買ってきてくれるらしい。
「本命チョコも受付中です。」
「ハイハイ。」
そう言って、彼女はラーメンの続きを食べるのに集中した。
バレンタインデー当日、出社するとデスクの上に小さな袋が置いてあった。丸い箱と一緒にメッセージカードが入っていた。
ハートの形のカードには、可愛い文字で『いつもありがとうございます♡白石結衣』と書かれていた。
義理チョコでも嬉しいのは嬉しい。
「先輩いいなぁ。」
青木は唇を尖らせて言う。男がやっても可愛くない。
「義理チョコだよ。」
「それにしては豪華じゃないですか?有名な銘柄ですよ。」
「そうか?」
それ程チョコレートに詳しくないから分からない。
「今日は外回りだから、義理チョコだったらもらえるよ。」
「じゃあ、期待して行きます。」
現金なやつ。
彼女には義理チョコありがとうとメッセージしておいた。
外周りから戻ると彼女と目が合った。なんか機嫌が悪そうだ。後輩が彼女の方に行ってちょっかいを出しているが、軽くあしらわれている。青木を回収する為に彼女の方へ行くと、お帰りなさいと挨拶される。笑っている。笑っているのだが、目が笑っていない。ただいまと返しながら、何かしたかな?と考えたが思い浮かばなかった。
「モテるんですね。」
彼女はチラリと取引先の女性から貰った義理チョコの袋を見る。
「義理だけど。」
「そうですか?」
何が言いたいのだろうか?触らぬ神に祟り無しとばかりに、それじゃあと言って別れた。
終業時間が過ぎてチラホラ人が帰り始める。今日は金曜日なので、キリのいい所までやってしまいたくてパソコンに向かっていると、じっとこっちをうかがっている後輩が視界に入ってきた。はっきり言って鬱陶しい。
青木が机に突っ伏してこっちを見ている。無視していたが、目線で構って欲しそうにしている。面倒くさいが、話を聞いてオーラがでているので話しかけた。
「仕事終わったんだったら、帰れよ。」
「冷たいです。傷心の僕の心に塩をすり込む気ですか?」
傷心?何かあったっけ?
「チョコは貰えただろ?何腐ってんだ?」
「うう。聞いてください!」
縋り付きそうな勢いで言ってくる。男に抱きつかれても嬉しくないので適当に返しておこう。
「ハイハイ、後で居酒屋連れて行ってやるからもう少し待っとけ。」
「先輩愛してます。」
「そんな愛いらん。」
こいつの扱いはなんか雑になるなぁと思いながら、まぁいっか青木だしと納得した。