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僕達の日常  作者: さきち
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エビフライ(番外編2)

 今日は土曜日の休日で、黒川先輩が瑠璃ちゃんを誘ってくれていた。例の約束を果たしてくれるつもりらしい。

 どこか行きたいところはないのかと先輩が聞いたら、司君のお家でお料理すると瑠璃ちゃんが言ったそうだ。以前にお好み焼きをした事が、楽しかったかららしい。

 だから今、明美と久し振りに二人で過ごした休日だった。たまに瑠璃ちゃんは、じいじ達と三人で出かける事はあるけれど、僕はいつもと違って落ち着かない。そわそわした僕を、明美が苦笑いしている。お義父さんやお義母さんも、歩君は心配症だなぁ…なんて笑っていた。

「そんなに気になるなら、迎えに行って来れば?」

 見かねた様に、明美が言った。

「…だって、先輩が送ってくれるって言ってたし…」

「別に連絡したら良いだけでしょ?」

「そうだけど、信用してないみたいじゃない?」

「司は、そんな事気にする性格じゃないよ?」

「…そうだけど」

 僕は、怖いんだろうか?答えを知りたい様な…そうじゃない様な…そんなどっちつかずの感情を持て余していた。

「迷った時は、まず行動!」

 そう言って、明美は車のキーを差し出した。

 条件反射で受け取ってしまって、ハッとして明美を見ると、行ってこいとその目が語っていた。一旦受け取ってしまったものを、返すのを躊躇う。もう、覚悟を決めて、行ってきますと言い置いて、免許証と財布とスマホだけを持って、車に乗り込んだ。

 考えるのは、結果を知った後でいい。そう自分に言い聞かせ、車を走らせた。

 早く顔が見たいという気持ちと、拒絶される怖さを恐れる気持ちが、ごちゃ混ぜでどうしたら良いのかわからない。だけど、もし拒絶されても、始めからやり直せば良い。そう腹を括ったら、少し気分が楽になってくる。色とりどりの灯が、勇気付けてくれている気がしてきたところで、僕は目的地に着いていた。



 先輩の家のインターホンを鳴らす。青木ですけど…と言うと、ガチャリと玄関の扉が開いて、先輩が顔を出した。姉さんから連絡があったと、黒川先輩は話してくれる。パタパタと軽い足音が聞こえたと思ったら、瑠璃ちゃんが飛びついて来た。続いて白石さんが何か持って、やって来る。

「あゆむ君!見て!」

 瑠璃ちゃんは白石さんから受け取った、タッパーに入ったエビフライを得意げに見せてくれた。

「瑠璃が、あゆむ君にも食べさせたいってさ」

 先輩はふっと笑う。

「…瑠璃ちゃんが?」

「好きだよね?エビ。瑠璃と一緒だもんね?」

「うん!大好きだよ!」

 そっか、僕は拒絶なんてされていない。もう、それだけでいいや。


「そう言えば何で、司くんは結衣ちゃんじゃなくて、結衣って言うの?」

「え…えっとぉ」

 黒川先輩の目が泳いでいた。

「前、司君は君つけてって言ってたのに…結衣ちゃんにはちゃんつけてあげないの?あゆむ君も、明美って呼ぶし、何で?」

「それは…親しみを込めてだな…」

 どうしよう…と先輩は僕を見る。僕も何て説明したら良いか迷っていた。

 まだ瑠璃ちゃんは納得していない。見かねて、結衣ちゃんが私がそう呼んでって言ったんだよと説明していた。

 ハッとした様に、黒川先輩は僕を見る。

 どうかしたのだろうか?

「…なぁ、青木。家で何て呼ばれてるんだ?」

「えっと、歩君です」

「もしかして、姉さんだけじゃなく、父さんや、母さんも?」

「はい、そうですけど?」

 それが、どうかしたのだろうか…。

「なぁ、瑠璃。お友達にあゆむ君をパパじゃないって言ったのは、何でだ?」

 さらりと核心に触れる質問をする先輩を、ドキリとして凝視してしまう。

「だって、…誰もパパなんて呼ばないもん。あゆむ君は、あゆむ君なんでしょ?」

 何でそんな事を聞くんだ?という様な不思議そうな顔をしている。…そうか、そういう事だったのか…。

 なんだか、全身から力が抜けていく様な気がして、その場にしゃがみ込んでしまった。腹を括った気でいたのに、情けない限りだ。

 そう言えば、無理強いは良くないと家族会議で、自然とそう呼ぶのを待とうという決定を下したのだった。


「大人の配慮が、裏目に出たんだな…」

 ポツリと僕の頭に、先輩の言葉が降って来た。

 いきなりしゃがみ込んだ僕を見て、瑠璃ちゃんも隣にしゃがみ込み、不思議そうな顔をする。

「どうしたの?お腹痛い?」

「大丈夫、痛くないよ」

 瑠璃ちゃんの頭を撫でる。

「エビフライ美味しそうでしょ?」

「うん。美味しそう。」

「るりも衣付けしたんだよ!」

「凄いねぇ!」

 そんな感じで、僕達は黒川先輩達にお礼を言って、彼の部屋を後にしたのだった。


 エレベーターの中で、僕は隣の瑠璃ちゃんをちらりと見る。

「ねぇ、瑠璃ちゃん。あゆむ君をパパって呼んでって言ったら、呼んでくれる?」

「…呼んで欲しいの?」

「うん、呼んで欲しいな」

「いいよ」

「ホント?」

「でも恥ずかしいから、時々だよ?」

「え〜」

「だって、ずっとパパなんて、いなかったんだもん」

「…そっか、そうだよね。呼び慣れてないよね…」

 そうだ、それもあるんだな…。

 恥ずかしくなくなるくらい、パパって言葉を使って、それが自然になる様に…。

 何かを定義付けするのが、言葉なんだと、すっかり忘れてしまっていた。そういえば瑠璃ちゃんは青木と言う苗字にすっかり慣れていたのに。定着させたい言葉を使う事で、それが本当になる。言霊の効果を信じよう。


 駐車場まで並んで歩きながら、僕は話しかける。

「歩君は、瑠璃ちゃんのパパだからね?」

「うん」

 瑠璃ちゃんの歩幅に合わせて歩くのにも、慣れて来たなぁなんて思う。

「歩君は、瑠璃ちゃんが大好きなんだよ」

「うん、知ってるよ。瑠璃もあゆむ君大好きだから」

 …いきなりパパは無理か。苦笑いが漏れたけど、不思議とガッカリはしなかった。

 僕もパパ一年生だからな…。繋いだ手の温かさを感じながら思う。

 だけど、一歩ずつ…一緒に親子になっていこうね。君の歩幅に合わせるからさ…。


 さきちです。最後までお読み頂き、ありがとうございました!青木君編が終わり、これで『僕達の日常』は本当に最終回となります。楽しんで書けたのは、読んで頂いたあなたのおかげです!感謝しかありません!

 また、こっそりと新作を書く予定なので、その時にお会い出来たら嬉しいです♪

 では、また、どこかで☆

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