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僕達の日常  作者: さきち
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俺達の日常(番外編)

 話は、過去から現在に戻る。


 ここ最近、俺の生活は以前とガラリと変わった。後継者としてお披露目された事に加え、私生活でも莉子と結婚し、子供まで授かったのだから。目まぐるしく変わる環境、立場、時に翻弄されながらも、だけど何とか立てているのは、周り人達と友人、そして妻のサポートのおかげだと思う。

 一生懸命泳いでいたら、何処かにたどり着けるかも…なんて、信じていられるのは、その中でも変わらないもののおかげだと思うんだ。


 今日は久しぶりに黒川と青木と飲む予定だ。時間を気にしながら、先を急ぐ。

 同じ部署ではなくなったので、顔をあわせる機会もめっきり減ってしまったけれど、連絡は小まめに取り合っているので、久しぶり感はない。不思議と以前と変わらない付き合いをしてくれる、二人には感謝してるんだけど、照れ臭くてそんなことは言えないんだよなぁ…。


 待ち合わせていた黒川行きつけの居酒屋の扉を開けると、見慣れた長身の後ろ姿が目に入った。青木の顔も見える。もうすでに二人とも来ている様だ。

「ここですよ」

 青木は俺に手を上げてそう言った。後ろを向いていた黒川も、俺に目を止めるなりお疲れ様ですと笑う。

「二人ともお疲れ!」

「お疲れ様です!」

 青木はビールでいいですよね?と確認した後、店主に俺の分のビールを追加で注文している。料理は少しだけしか注文してないらしく、メニューを手渡された。それを三人で見ながら、これにしようか?なんてやり取りも久しぶりで、それだけで何とも言えず嬉しい気分になった。乾杯の後のビールは美味い。

 お互いの近況は大体知ってはいるものの、細々とした出来事の報告は続く。黒川はインタビューをする様に、おしぼりを手に持ち俺に向けた。

「親になった感想は?」

 意外と真面目な内容の質問が来て、少し考える。

「…軸が出来た感じかな?」

「軸?」

 青木が首を傾げる。

「そう、軸。生きる為の指針みたいな?親になったからこそ、子供に恥じる生き方はしたくないって思うんだ。尊敬までして欲しいとは思わないけど、駄目な親ではいたくない感じ?」

「そうですか…」

 言葉は少ないものの、黒川は納得した様に頷く。

「…その気持ちは、少し分かります」

 青木はふっと笑う。

「青木も、親だもんなぁ…」

 黒川のお姉さんと正式に籍を入れた青木は、黒川家で暮らしている。もちろん結婚式には押しかけて、莉子や黒川達と海外旅行を楽しんだりもしたのは良い思い出だ。

「まだ僕は親って言うより、仲間みたいな感じですけど。取り敢えず敵ではないと、認識はしてくれてるみたいです。」

 途中から親になるって、もしかしたら距離感も含めて、とても難しいのかもしれないな…なんて思う。だけどそれをやってのけるんだろうな、こいつは…。それは誰にでもできることではないと、親になった今なら分かる。バンバンと背中を叩いて、健闘を祈った。

 黒川は信頼しているのか、ふっと笑っただけで何も言わない。根拠もなく大丈夫だと思わせるだけの何かが、青木にはあるんだな…。


「それよりさ、父さんが実家を改装したのは知ってるだろ?」

 俺が二人に話したかったのは、この話なんだ。

「終わったんですか?結構な広さだから、時間がかかって大変だって言ってましたよね?この前」

 青木が首を傾げる。

「やっと終わったんだけど、問題はそこじゃないんだ」

「他に問題でも?」

 黒川は、首を傾げる。

「それが…父が母屋が終わった途端、次は離れを改装し出してさ…。自分はそっちに行くからって言うんだよ」

「あー、なるほど」

 青木は天井を仰いだ。

「……もう、帰るしかないんじゃないですか?」

 黒川はズバリと言う。

「…やっぱ、そう思う?」

 思わずため息が漏れる。もう少し三人だけの暮らしを満喫したかったんだけど…。

「父さんの期待した目というか…圧が…凄いんだよ」

 …強要はしないけど、帰ってくるよな?みたいな空気が凄い。

「翼にメロメロでさぁ…。じいじだよ〜とか言ってる姿は会社では見せられないくらいの、デレっとした顔なんだよ」

 キリッとした会社での顔を知っているだけに、その差が酷い。

「僕も瑠璃に対する父のデレデレぶりに、ビックリしましたよ。まぁ、もう慣れましたけど?」

 やっぱり、孫に対する態度ってそういうものなんだなぁ…。実家の件は、莉子に話してみるか…。


「あ、結婚式もう直ぐだろ?準備進んでんの?大変だろ?あれ、いろいろ決めなきゃいけないし」

「ちゃんと進んでるんで、安心してください。コーディネートは結衣任せですけど、ちゃんと相談して決めてますから」


 俺達も色々あったけど、こいつらも色々あったんだろうなぁ…。お膳立てした二人が結婚するのは、純粋に嬉しい。


「あ、プロポーズダメ出しされたって本当?」

 気になっていた事を、黒川に聞いてみる。

「あー、僕も聞きました。」

「…何で知ってるんです?青木まで?」

「僕は明美から聞きましたけど。」

「俺も莉子から聞いた。って言うか、今日飲みに行く話も、莉子に連絡したら、すでに知っててビックリしたんだけど!?」

「ああ、それ、僕が結衣に連絡したからでしょう。最近姉さんと結衣が仲良くて、知らない間に連絡取り合ってるみたいなんですよね…瑠璃の恋バナとかまで知ってて驚きますよ、ホント」

「…妻同士の連絡網って凄いな…」

 今日は俺達の新居に結衣ちゃんと明美さんが来て、女子会なのだそうな。…何話してるんだろ?…気になる。

「…まだ僕ら、結婚してませんけど?」

 一応…という感じで、黒川は主張したけれど…。

「もう、妻でいいんじゃない?一緒に住んでるんだし」

 一蹴してやった。細かいことは良いんだよ、今は。

「時間の問題ですね」

 青木も同意してくれる。


「今日あっちはあっちで集まってるだろ?何話してるか気になる…」

「夫の愚痴だったりして?」

 青木が悪戯っぽい表情で、茶化す。こいつ、自分は大丈夫だって思ってるな?

「気にしてることを…」

 夫らしい事って、お金を稼ぐこと意外何も出来てない。

「美穂さんの特訓の成果は?」

 黒川は冷静に質問してくる。一応結婚前に特訓と称して、母から家事の基礎を叩き込まれた。

「…それが、機会がなくて、だって莉子家にいるからさぁ…俺の出る幕が無いわけよ?」

 大体、料理は勝てる気がしない。と言うか、勝とうとと思わない。キャリアが違いすぎるのだ。家事も完璧に片付いているので、ゴミ捨て以外する事が無い。この前電球が切れた時に、取り替えたことぐらいしか、役に立てていないと思う。

「前に黒川が言ってた、男の真価は何かあった時だって言葉に縋ってんだよ、俺」

「それで良いんじゃ無いですか?普段、ダメダメでも」

 青木はニヤニヤ笑いながら言ってくれる。

「そうですよ、ダメな夫と出来た妻で、バランスは取れてます」

 黒川も追い討ちをかけて来た。

「二人とも、俺がダメ夫だって肯定してるじゃねーか!」

 否定してくれる事を期待した俺がいけないの!?俺は俺なりにちゃんとやってるんだよー!そう叫びながら、ビールを飲み干す。

 そんな感じで、楽しい?夜は更けて行ったのだった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。

 次回、番外編の愁と莉子編の完結になります。もう少しお付き合い頂けると、嬉しいです!

 ではまた☆あなたが楽しんでくれています様に!

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