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僕達の日常  作者: さきち
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マリンちゃんの店(番外編)

 手術は成功し、経過も問題ないらしいと知ると、倉田さんはまた旅立って行った。マリンちゃんが、大丈夫だと何度も言い続けて、やっと納得したらしい。何かあれば、絶対知らせる事!と言い置いて行ったらしく、マリンちゃんが折れた形だ。俺や母さんにも、くれぐれもよろしくと挨拶に来た事からも、過保護ぶりが窺い知れる。

 気がつけばもう九月。残暑が厳しいので、相変わらずビールは美味い。莉子は九月から入社した、白石さんという友達と飲みに行ってしまったので、今日は一人でマリンちゃんの店に来た。


「愁、いらっしゃい。」

 カウンターからひょっこりと姿を現したマリンちゃんは、眼鏡をかけていた。

「あれ、メガネ?」

「ああ、中で事務作業をしてたから。」

 そう言うと、彼女は眼鏡を外し、台の上に置いた。

「あ、そうそう、メガネと言えば、この前母さんがさぁ…。」

「美穂さんが?」

「メガネして雑誌読んでたから、老眼鏡?って聞いたんだ。そうしたら、リーディンググラス!って睨むんだよ。」

 …ちょっと怖かったのを思い出し、苦笑いが漏れる。

「最近その言い方は、失礼なのよ?特に女性には、うっかり言っちゃダメだからね?」

「ああ、やっぱりそうなんだ…。」

 年を重ねると、老と言う言葉に、敏感になるらしい。どこかで失敗しない様に、心に刻んでおこうと思う。


「あ、この前はありがとうね。莉子ちゃんとそのお友達にも手伝って貰っちゃって。」

 助かったと笑いながら、マリンちゃんは笑う。

「その手伝いが楽しかったらしくてさ、今度は客として行きたいって莉子が話してたよ。」

 愁ちゃんとか、愁君って呼ばれてるんだね、なんて莉子に言われて言葉に詰まってしまった。隠していた訳じゃないけど…何だか、カッコ良くない恥ずかしい自分を、知られてしまった気分。

「今日、連れて来れば良かったのに…。私も、お礼も言いたいし。」

「誘ったんだけど、今日は駄目なんだって。何か、その時一緒に来た友達が胡蝶ちゃんに占ってもらって喜んでたんだけど、何か進展があったみたいで、今日は作戦会議だって。」

 何の作戦かまでは教えて貰えなかったので、少し寂しかったんだけど…。

「そっか。喜んでもらえてたなら、それは良かった。」

「胡蝶ちゃんは?」

「今日はお休み。最近忙しいのよ、占いの方が…。」

 ネットでの占いが評判が良く、人気なのだとか。

「副業?」

「ウチは副業オッケーだしね。逆にこっちが副業になるかも?」

「寂しい?」

「まさか!嬉しいに決まってるでしょ?」

 頑張り屋さんな胡蝶ちゃんだが、接客は上手でも踊りはなかなか上達しないらしく、前からどうも占いの方がしっくりきてる気がしてたのだと、マリンちゃんは話す。本当はここにずっといて欲しいけど、占いだけで生活出来るならそれも良いかも知れないと、人には得手不得手があるのだと、色々な人を見てきた彼女が言うのだから説得力がある。

「まぁ、ずっとウチの子に変わりはないから。」

 まぁ、ここにいるのは、仲間であり、家族みたいなものだからね。


「アレは何?」

 明らかにその部分だけ浮いていると言うか…店の雰囲気に合っていない物体が目に入る。スーパーとかのお菓子コーナーにあるやつじゃないだろうか…。ホイールにくっつく様に丸い飴が多数差し込まれている。上には見慣れたロゴが…。

「チュッパチャップス、業務用。」

 チュッパチャップスを200本差し込めるらしい。

「もしかして倉田さん?」

 病室で嬉しそうに飴を差し出していた姿を思い出した。

「私にって言って買って来たんだけど、そんな甘いものばっかり食べてたら、糖分過多で違う病気になりそうだから、私はコレ。」

 そう言って、小さな袋入りの飴を指し示す。

「シュガーレスキャンディ?」

 小分けの袋に入った飴は、小さめの薄い形で、舐めていても気付かれにくいからとの理由らしい。何故か棒付きキャンディーにこだわる倉田さんは、マリンちゃんの選択を寂しそうに見ていたらしい。…多分舐めてる姿が可愛いからとか、そんな理由に違いない。

「そう。でもお客様に評判が良くて、撤去するのをやめたのよ。総司も喜んでるからいいかなって。」

 懐かしくて、欲しがる客が多数いたらしい。サービスで提供していたら、有料でいいから置いて欲しいと要望があったと言う。


「母さんに聞いたんだけど、引っ越すんだって?」

「うん。結婚してから、ずっと考えてたんだけど、今回の事で総司が決めたの。美穂さんの知り合いに不動産屋さんがいるらしくて、その人に物件紹介してもらったの。中古のマンションだけど良い場所よ。今改装しててね。最近はデジタルの写真ばっかりなのに、暗室作るとかって総司が言い出して…。」

「寂しくなるね。」

「私はここにずっと居るし、それに近くだから遊びに来たら良い。愁ならいつでも大歓迎なんだから。」

「ねぇ、結婚って良いもの?」

「良いよ。愁もすれば分かるよ。」

「…そっか。」

 出来る日が来ればいいんだけど…。


「看護師さんが言ってたんだけど、倉田さんの様子が、姫を守るナイトの様だったってさ。」

 それはもう、看護師さんも呆れる位付きっきりだったらしい。

 もう病気の事は、莉子が手伝いに行った時点で、店のみんなにも知られてしまっているので、隠す必要はない。

「姫!?女王様に付き従う家来の間違いじゃ!?」

 思わず本音が出たみたいで、蘭さんが口を押さえたけれど、もう遅い。思わず笑ってしまったけれど、病室での二人を知らないのだから、仕方ない。

「倉田さんの前じゃ姫なんだよ。可愛いんだから!」

 ニヤニヤ笑いが漏れてしまう。

「愁!」

 珍しく顔を赤くして、俺を睨むマリンちゃん。彼女の弱みを握ったみたいで、気分が良い。

「倉田さん曰く、手がかかる方が可愛いんだって。」

「は?手がかかるって、誰が?」

 手がかかると言う言葉と、マリンちゃんが合致しないらしく、蘭さんは?マークが浮かんでいる様だ。

「ハイハイ、もう良いでしょ、この話は。」

 何とかこの話題から逃げたいらしい。だけど蘭さんの追求は止まらない。

 二人のやり取りをニヤニヤ笑いながら見ていると、幸せってこういう何気ない日々のことを言うのかも…なんて思う。病気は、辛い事だけど、同時に大切なものにも気付けたりするんだ。


 俺はビールを飲みながら、作戦会議をしている莉子を想う。結婚かぁ…。いつか、出来たらいいな…。

いつもお読みいただきありがとうございます。

残りわずかですが、お付き合いいただけると嬉しいです!

ではまた☆あなたが楽しんでくれています様に♪

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