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僕達の日常  作者: さきち
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助言

帰り道で桃井さんと出会った。仕事帰りらしい。向かう先は一緒なので二人で並んで歩く。僕はさっきの彼女の言葉が頭から離れない。


「司君、何で泣きそうな顔してるの?」

桃井さんが心配そうに尋ねる。

「そんな顔してますか?」

顔には出ていないと思うんだけど。

「辛そうだと思うんだけど。何かあった?」

沢山の人に接している彼には隠せない。

「…人を傷つけてしまいました。落ち込んでると思って何かしてあげたいと思ったんです。でも何もできなくて。笑顔が見たかっただけなのに、僕が彼女を更に傷つけた。後悔と無力感で一杯です。」

「それはとても大切な人みたいだけど、例の高嶺の花かな?」

「…そうです。ただのラーメン友達ですけど。」

そうかと桃井さんは答えると前を向く。


二人で並んで歩いているとマンションが見えてきた。

「メール世代の君は、メールか何かで謝ろうと考えてる。違うかい?」

桃井さんが僕に尋ねた。

「それしか出来ないかなと考えてます。」

他に方法があるだろうか?

「私は電話で謝った方がいいんじゃないかと思う。」

「電話ですか?」

それは選択肢に無かったかもしれない。

「そう、電話だ。メールは手紙だろう?」

「はい。」

「私の意見なんだけど、メールは気兼ねなく使えて便利かもしれないが、仕事で使うならともかく、大切に思っている人には向かないんじゃないかと思うんだ。普段のやり取りは良いと思うんだけど、大切な場面ではね。ましてや、謝りたいと思ってる相手には。」

「…そうかも知れません。」

言われてみれば成る程と思う。


僕達はマンションのエントランスに着いた。それぞれの階のエレベーターのボタンを押す。

「私はね、電話は空間と空間を繋いでくれると思っているんだよ。」

「…空間を繋ぐですか。」

「そう。相手の空気が伝わる感じっていうか、声のトーンや話の間の開け方で感情を読み取れる気がするんだよ。会って話すのには敵わないけどね。」

「…そうかも知れません。」

「まぁ、おじさん世代の意見だけどね。若者にはどう思われるか分からないけど。」

「僕、もうすぐ28歳なんですけど。」

「私ら世代からすると、まだまだ十分若者だよ。」

じゃあねと笑いながら、桃井さんは5階でエレベーターを降りた。

「電話か。」

そう言えばした事無かったなと思う。

早速彼女に電話してもいいかメッセージを送った。


送ったのはいいけれど、既読にならない。気付いてないのか、無視されているのか迷うところだ。嫌われてしまったのではないかと不安に感じる。スーツを脱いでハンガーに掛けたり部屋着に着替えたりしていたが、既読にならない。どんどん不安が募っていく。

気をとりなおして、風呂にお湯を張った。スマホを手放す気になれなくて、チャック付きポリ袋に入れて風呂場に持って行く。自分はなんて女々しいのかと、思う。


風呂から上がっても既読にならない。これはもう駄目かもしれない。意気消沈して冷蔵庫にビールを取りに行った。

テレビを観る気にもならない。何かつまむ物でも作るかとキッチンに立つ。クラッカーにクリームチーズを塗って明太子を乗せる。つまみながらビールを呑んでいたら止まらなくなったので、食べ過ぎはいけないなと思い、場所を移動する事にする。それを持って椅子に腰掛けるとメッセージの返事が来ていた。

あ、返事が来てから結構経ってしまった。慌てて電話をする。何度かコール音が鳴り、はいと眠そうな声が聞こえた。

「…もしもし。」

僕は高鳴る鼓動を抑えて話し出した。この空間が彼女と繋がることを期待して。

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