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僕達の日常  作者: さきち
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占い(番外編)

 八月ももう直ぐ終わりに近づいた最後の週。残暑も厳しい外の景色を眺めながら、お弁当を食べていたら、スマホがピロンと音を立てた。

 お昼休みに今日一緒に行けなくなったと愁から連絡が入る。何処にかと言うと、マリンさんの店に手伝いに行く予定になっていたんだ。本当にごめんと謝るメッセージを見て、仕事なので仕方ないと思いつつも、少し不安な気分になる。

 初めての場所に一人で行くのは勇気がいる。ましてや、初めて会う人たちばかりだ。大丈夫だとは思っているけれど、意外と心配性な自分がいることに気付く。

 誰か一緒に行ってくれないかな…。そんな事を考えてもう一度スマホの画面を見ると、友人からもメッセージが来ていることに気付いた。

『昼まで寝てしまった!』

 呑気な内容に、思わずふっと笑ってしまう。

『子供か!』

 と返してから、ふと気付く。

 うん?…そういえばいるじゃないか、適任な人物が。結衣は事務の経験者で、今は有給消化中のはずだ。メッセージの内容からものんびりしているのは、明らか。

 早速マリンさんのお店のURLを貼り付けて、メッセージを送った。

『楽しそう!行きたい!』

 あっさり、釣れた。チョロいな。

 思わずニンマリ笑いながら、『じゃあ、仕事終わったら連絡する』と返信する。

 我ながら、ズルい気がするけど、本人が行きたいと言ったのだから…と自分を納得させた。



 最寄駅で結衣と待ち合わせて、地図アプリで確認しながら店を探していると、それらしい看板が目に入った。もらった名刺も見て、間違いないと二人で顔を見合わせて頷き合う。

 いざ!少し重めの扉を引く。ドアの向こうは、煌びやかな世界が広がっていた。華やかだけど落ち着いた雰囲気で、まるで高級クラブの様。(いや、行ったことないけどさ。)


 この世界では人気店らしく、早い時間だというのに二、三組はお客さんが入っていた。女性グループが、親しげに言葉を交わしている様子が目に入る。

「お二人様ですか?」

 可愛らしい見た目の割に、ハスキーな声が聞こえて、ハッと居住まいを正す。

「マリンさんから頼まれて、お手伝いに来たものですが…。」

「あ、もしかして愁君の彼女の、莉子さんですか?」

 愁君って呼ばれてるんだ…。目の前の彼女が親しげに呼ぶので、本当にしょっちゅう来てるんだなと感想を持つ。彼女は胡蝶と名乗ると、ちょっと待ってくださいねと笑った。

「蘭さん!いらっしゃいましたよ?」

 奥に向かって彼女が呼びかけると、コツコツと優雅な足取りで、美女が目の前に現れた。

「あら、お待ちしてました!愁ちゃんの彼女ちゃん!」

 …こちらはちゃん付け。…うん、キャバクラ通いじゃないから、オッケー。


 一通り自己紹介と挨拶を終わらせた後、蘭さんの後について行く。

『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたドアの向こう側は、簡素なオフィスがあった。簡素という印象を持ってしまったのは、フロアがあまりに煌びやかだったからだと思う。休憩室も兼ねているらしく、白いテーブルの周りにはポップな色の椅子が並んでいる。白を基調にした可愛らしい事務机が奥にあり、観葉植物がそこかしこに点在していた。シンプルな女子の部屋っぽい感じ。


「奥は狭いのでここで良いですか?」

 手前の休憩スペースを示されて、はいと頷く。ココなんですが…と見せられたノートPCの画面は、見慣れた形式だった。

「大丈夫です。」

 お客さんが来たらしく、少し席を外した蘭さんがドアの外に出たのを見計らって、さっきから一言も喋らずにジッと私を見ていた結衣がポツリと呟いた。

「…莉子、謀った?」

「何のこと?」

 画面から目を逸らさず、テンポよく数字を入力しつつ、返事を返す。

「惚けたって分かるんだから!仕事じゃないの!」

「行きたいって言ったじゃない!」

「遊びだと思うでしょ?」

「結衣は遊んでて良いって。」

「…そんな事言われたって、一人だけ楽しむわけにもいかないじゃない…。」

 ブスッとした顔で、机に頬杖をつく結衣。少しの罪悪感を抱きつつ、何か美味しいものを奢って機嫌を取ろうかと考えていた時だった。

 戻って来た蘭さんと、胡蝶さんが美味しそうな匂いと共にやって来た。ビールまである!驚いていると、お礼だからと笑って言われてしまった。そう言えば、夕食の時間帯だったことに気付く。

「美味しそう!」

 結衣が目を輝かせた。

 人気メニューを集めたというプレートは、色も綺麗で食べ応えがありそうだった。しかもビールに合いそうな良いチョイスをされている。途端に笑顔になる友人の単純さを笑えない。私も冷えたグラスとビールに、目が釘付けなのだから。

 結衣は基本、美味しい食べ物さえ与えておけば、文句は言わない。早速ビールをグラスに注いでいる。

 お酌をしようとした蘭さんと胡蝶さんを断って、忙しいでしょうから、お仕事されててください!私たちがやっておきますから!とさっき胸を張っていたのだ。現金な…。

「会社じゃないんだし、飲みながらやろう!」

 そう言って結衣は、ビールの注がれたグラスを差し出す。思わず笑ってしまったけど、同感なので軽く乾杯をした。つまみをフォークで口に運びながら、ビールを飲みつつ、仕事をする。…凄く良い。

「こんな感じで、会社も毎日仕事したいね!」

 結衣も別のPCで入力しつつ、そんな事を言う。

「結衣は飲み過ぎると、寝ちゃうから無理じゃない?」

「…そうだね。」


 二人で作業を分担してやったので、思ったよりも早く終わった。いや、私達が優秀だという理由もあると思う。

 終わりましたと言いに行ったら、蘭さんにもう!?と驚いた顔をされてしまった。

 


 事務室に戻ると、なぜか胡蝶さんに結衣が占ってもらっていた。どうやら胡蝶さんは占いが得意らしい。邪魔しない様に、ビールを飲みつつ、見守った。

「気になってる方と、縁が出来るかもしれません。」

「本当ですか!?」

「ただ、待っているだけでは厳しそうですね。彼があなたの好意に気づかない可能性があるので、積極的に動くのが鍵です。」

 結構具体的なアドバイスをするんだなぁなんて感心にながら、引き続き見守る。

「積極的…。頑張ります!」

 結衣は、奥手なのに大丈夫だろうか…。

「もうすぐ莉子と旅行に行くんですけど、神社にお礼参りに行こうと思ってて。」

「あ、良いと思いますよ?良い気をもらって来てくださいね。」

「ありがとうございました!」

 すっきりした顔の友人は、明るい笑顔をしていた。


 莉子さんはどうですか?と聞かれたけれど、必要ないと断った。

「あ、じゃあ一言だけ。玉の輿に乗るかもって出ました。」

 でも、占いって外れることもあるので…と胡蝶さんは笑っている。相手が愁だと知っているからそう言ったのだろう。

 …愁はただのサラリーマンだし、まさか、ね?

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