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僕達の日常  作者: さきち
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病院にて1(番外編)

 俺は、仕事を定時で終わらせた。駅中のコインロッカーに入れて置いた、マリンちゃんに届ける荷物を途中で回収し、莉子と一緒に病院へ向かう。彼女が、私もついて行くと言ったからだ。…どうやら心配されているらしい。莉子の前で弱音を吐いてしまったから仕方ないのだけれど、不思議と心は軽くなっていた。

 ありのままの自分を見せるのは、少し勇気がいる。だけどその前よりも、彼女との絆が深くなった様に思えて、悪くない気分だ。何より自分を受け入れてもらえたことが、こんなにも嬉しいだなんて…。そんな事を言ったら、君は笑うだろうか?俺の隣に並んで立っている莉子をチラリと見て思う。


 

 病院の広いロビーに入ると、まだまだ沢山の人がいた。立ち止まって、えっと何階だったっけ?とスマホのメモを確認していたら…。

「駄目ですよ!倉田さん!」

 背の高い女性が、背の低い看護師さんに呼び止めれられている。よく見ると見覚えのある後ろ姿だ。それは、いつもよりラフな格好をした、マリンちゃんだった。

「ちょっと!ほんのちょっとだけだから!すぐ戻るし!」

 看護師さんを拝む様なポーズで、彼女は背中を丸めて頼み込んでいる。

「明日は手術なんですから、安静に!駄目でしょう?勝手に抜け出したら!」

 毅然とした態度で譲らない看護師さんは、真面目な顔をしていた。

「今!今、報告したから、良いよね?見逃して?」

 お願いポーズを崩さず、マリンちゃんは食い下がる。

「駄目です!どうしてもって言うなら、先生に許可を貰ってからにしてください!」

「え〜、あの先生…融通効かないんだもん。」

「じゃあ、諦めてくださいね。」

「……。」

 ガックリと項垂れる彼女の様子にも、慣れたもので対処する看護師さん。…強いな。


「倉田?マリンちゃんの姓って新見じゃなかったっけ?」

 看護師さんとマリンちゃんのやり取りを、呆気に取られて見ていた俺だけれど、思わず口を挟んでしまった。

「…愁!」

 驚いた様に目を丸くする彼女、やっと気付いたらしい。

「え、何で倉田になって…。」

 ハッと思いマリンちゃんの顔を見ると、俺から視線を逸らした。耳が赤いよ?え、そういうこと?いつの間に?

「愁、仕事帰り?莉子ちゃんまで。」

 話題を変えようとしたのか、彼女は俺達の方に向き直る。

「とにかく、今日は大人しくしておいてください!」

 看護師さんは、面会の方、彼女から目を離さないでくださいよ!と言いおいて、自分の仕事に戻っていった。他の看護師さん達の目が光っているので、マリンちゃんがもう抜け出す事は不可能だろう。

 いったい何処に行こうとしていたんだろう?


 彼女は溜息をついて、俺達を病室まで案内してくれると言う。

 その道すがら、倉田さんが旅立つ前に結婚したのだと話してくれた。向こうのご両親にも挨拶済みなのだとか。

 実は母さんにも報告済みで、何を隠そう婚姻届の証人になってもらったとの事。…親代りだし、当然なのかな?

 三人で歩いていた俺たちだったけど、ある部屋の前でマリンちゃんが立ち止まった。どうやらここが病室らしい。

 マリンちゃんの部屋は個室で、それ程広くはないものの、トイレとシャワー室までついていた。


「これ荷物。」

 母さんから預かった荷物を差し出す。

「ありがとう。」

 マリンちゃんはそれを受け取ると、中身をざっと確認している。

「母さんには言うのに、俺には報告してくれないんだ?」

 結婚のことも、病気のことも。

「…今、言ったよ?」

「……。」

 事後報告じゃないか!

「愁、何怒ってんの?」

 どうやら、不満が顔に出てしまっているらしい。

「…怒ってない。」

 怒ってないけど、何かモヤモヤするって言うか…。

「すねてるだけです。」

 莉子は捕捉する様に呟いた。その言葉にギョッとする。

「すねてない!」

 思わず子供みたいに言い返してしまった。マリンちゃんは莉子と顔を見合わせ、フッと笑って俺の頭を撫でる。俺…二人に子供扱いされてないだろうか?やっぱり、男より女性の方が大人なのかな?


「さっき、何処に行こうとしてたの?」

「ん?ああ、お店に。」

 そんな事だろうと、思ってたけどやっぱりか。

「任せておけば良いんじゃないの?」

「…そうなんだけど、最近、会計ソフトを新しいのにしたから、私しか分からないと思う。事務作業はみんな困ってると思うの。ヘルプのメッセージが来てさ…。」

 もっと簡単に抜け出せると思ってたのに…と、彼女はまた、ため息を吐いた。…一応あなたは、がん患者。そこんとこ、自覚しているのか?と言いたくなるレベル。

「急がなくても大丈夫じゃないの?」

 取り敢えずは、手書きでも問題なさそうだけど…。

「そうは言っても、手伝いに行くって約束しちゃったし…。」

 そりゃ、向こうはシミ取りだと思ってるからね。ちょっと前の俺と同じ様に。

「…あの、私…手伝いましょうか?」

 おずおずと、莉子が手をあげた。

「え、莉子ちゃんが?」

「多分そっちの作業ならお手伝い出来るかと…。事務は得意なので、任せてください。」

「本当!?助かる!」

 このソフトなんだけど…とマリンちゃんは、莉子に確認している。大丈夫です!と莉子も返事をしていて、メンタルの弱い俺はちょっとだけ疎外感を感じてしまった。

 何か、さっきから、俺なしで通じ合ってるんだもん。女性のコミュニケーション能力って凄いな…なんてぼんやりと思ってしまった。


 いつもお読み頂きありがとうございます。

 長くなりそうなので、分けました。それと、来週はお休みさせていただきます。中途半端なところで申し訳ないのですが、私的な用事があり、時間が取れなさそうなのです。

 本当に、何故一日は24時間しかないのでしょう!そんな事を思ってしまう今日この頃です。

 ではまた☆あなたが楽しんでくれています様に♪

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