心配(番外編)
観葉植物に水をやっていたら、彼が出勤して来た。何故だか違和感を感じて、じっと見てしまう。
…気のせいか、浮かない顔をしている。私にも気付いていない。いつもはすぐに目が合うのに…。
どうかしたのだろうか?昨日会ったときは、笑顔だったのに…。
「おはようございます。」
声を掛けるとハッとした顔で、愁は私を見た。
「…あ、おはよう。」
すぐに笑顔になる彼だけど、やっぱり何だかぎこちなく感じた。
「疲れてません?」
会社では敬語だ。周りには秘密にしている。
「大丈夫。ちょっと寝不足なだけ。ありがと、心配してくれて。」
彼は私に触れようとして、ハッとした様に手を止めた。目を泳がせながら、行き場を無くした手を素早く引っ込める。…ちょっと残念な気がしたけれど、人がいるのだから仕方ない。と言っても、少し早めの時間なのでそれ程多くはないけれど。
心配してくれてありがとうだなんて、他人行儀だなぁ…彼女だし当然だと思うんだけど。 …何故だか放って置けな気分で、気になって仕方ない。私の勘が、何かあると告げている。
「…ちょっと、良いですか?」
「うん、良いよ。」
愁に目配せして、ジョウロを持ったまま、彼の前を歩く。目指すのは使われていない会議室。誰もいない事を確認してドアノブを回す。滑り込む様に入り、彼に向き合った。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ?」
笑顔な彼だけど、本当は違うでしょう?と言いたかった。
「…嘘だって、顔に書いてある。」
「…本当?」
思わず自分の顔を触った彼の手に、自分の手を重ねる。何でそんな顔をしているの?
「私には言えない事?」
知られたくない事は、誰にでもある。だけど、何も出来ないままなのは嫌で…。私はわがままだろうか?
「違うよ。…ちょっと不安だっただけなんだ。考えても仕方ない事なのに、考える事をやめられない。」
一つため息をついて、ブラインドで外の景色が何も見えない窓を、愁は見詰めた。
「知られたくない事なら、無理には聞かないけど…。」
本当は知りたかった。その不安の理由が…。少しの沈黙の後、彼は口を開く。
「…マリンちゃんが病気なんだ。時間が経てば経つほど、どうして良いのか解らなくなる。」
そう言いながら、昨日の出来事や、彼女の病状について話してくれた。…あの後そんな事があったなんて…。
「どうして俺には言ってくれなかったんだろう?とか、そもそも俺に何が出来るだろう?なんて答えが出ない事が、頭の中をぐるぐる回って離れなくて…。」
「それで寝不足?」
「うん。」
少し恥ずかしそうに彼は言い、力なく笑う。私は愁の顔に両手を伸ばした。
「解らないなら、聞けば良い。どうして欲しいのか。マリンさんに、直接聞けば良い。」
両手で彼の頬を挟みながら、私は愁を見詰めた。
「…そうだね。単純な事だ。ありがとう。」
ふっと笑って、私の両手を優しく外し、そして私を抱きしめた。
「ちょっと充電させて?」
「うん。」
愁の不安が少しでも和らぐのなら、こんな事ぐらいお安い御用だ。
「…なんか会社でこういう事するのって、背徳感がクセになりそう…。ついでにキスもする?」
「…バカ。」
いつもの彼に戻った様で、私にはそれが凄く嬉しかった。だけど、不安な彼も彼自身なのだろう。
そうやって、お互いのことを少しずつ知っていくのかな…?私は彼の体温を感じながら、そんな事を思う。
え、キス?ついでだし…ね?
いつもお読み頂き、ありがとうございます。ちょっと短いけれど、今回はこんなもんで…。次回が少し長くなりそうなので…。
ではまた☆あなたの大切な時間を使ってくれて、ありがとうございます。楽しんでくれています様に♪