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僕達の日常  作者: さきち
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嵐 (番外編)

 今日は念願の莉子の家に行く日で、凄くワクワクしている。予定を聞いたら、ちゃんと覚えてたんだ?と彼女に言われたけれど、忘れるわけがない。何故なら確信犯だから。莉子も飲んでたと聞いた時、お願いしやすいかも?なんて思ってしてみたのだから。

 午前中は予定があったから、午後からデートで、夕飯を彼女が作ってくれるという。楽しみ過ぎていても立ってもいられなくなり、予定よりも早く着いてしまったけれど、母さんの家で時間を潰せば良いかなんて考えていた。


「愁!久し振り!」

 母さんの賃貸アパートの前でバッタリとマリンちゃんに出会った。どうやらこれから出勤らしい。いつもより早いのではないだろうか?と思ったら、この後予定があるとの事。彼女は、日中にしか出来ない用事もあるのだと笑う。

 マリンちゃんはいつものハグで挨拶してくれた。買い物に付き合ったりしてたので、それ程久し振りでも無いんだけど、恒例行事だから俺もハグで返す。

 ゲホゲホと咳き込むマリンちゃん。そんなに強くハグした訳でもないのに…。

「大丈夫?風邪?」

「ゴメン。ちょっと喉の調子が悪いだけ。大した事ないよ。」

「そう?」

 そう言えば、マリンちゃん声がかすれ気味だ。大丈夫だろうか…。

「ちゃんと、面倒臭がらずに病院に行きなよ?」

「ハイハイ。」

 煙たそうに僕の忠告を聞き流す彼女。

 実は倉田さんから、留守中マリンをよろしくって言われているんだ。定期的に店に顔を出しているのもその為だった。本当に愛されてるよね。それなのに当人はコレだからなぁ…。


「それより、向こうに私たちを見て、引き返した女の子がいるけどいいの?」

「え?」

 俺は彼女の指差した方向を見ると、見慣れた癖毛の後ろ姿が足早に去って行くのが見えた。スーパー帰りなのか、エコバックからネギが覗いていて、それがゆらゆらと揺れている。サーっと血の気が引いていった。

 コレは…非常にまずいトコを見られた!好きな女の子に、別の女性(正式には違うけど、女にしか見えない)と抱き合ってる様を目撃されてしまうという、最悪の状況だ。

 俺は慌てて追いかける。

「待って!!」

 その声に反応して、スピードを上げて走り出す彼女を、俺は必死になって追いかけた。荷物のせいか、それ程スピードは早くないから、何とか追いつけそう、そう思った時だった。


 俺の横を凄いスピードで抜いて行く人影が…って、マリンちゃん!?フォームが本格的なんだけど!?

「つ〜かまえた!」

 と莉子の肩を両手で掴んで、笑っている様子が目に入る。莉子も目を見開いているし、この状況について行けてないのは明らかだ。

 …何だ?このカオスな状況は!?追い付いた俺は息が切れているのに、マリンちゃんは平然とした顔をしている。

「こんな距離で息切れ?情けないわねぇ〜。」

 俺を呆れた顔で見るマリンちゃん。

「ピンヒールで道路を全力疾走出来る人間自体、稀だからね!」

 ここは反論させてもらわねば!

「あら、そう?」

「そうだよ!」

 決して俺がヘナチョコな訳ではない!いや、ちょっと鍛え直そうとは思ったけど…。

「こう見えても、全国高校総体出場者だから!」

 マリンちゃんは、豊満な胸を張って見せた。

「あぁ〜なるほど。」

 莉子は尊敬の眼差しで頷いていて、マリンちゃんのペースに巻き込まれてしまっている。いや、今君は逃げてたんじゃ…。

「大事な事忘れてない!?」

 マリンちゃんが苦笑いで指摘する。そうだった!

「莉子!誤解!誤解だからね?」

「…誤解?」

「そう!誤解よ?私恋人もいるし、私と愁がどうこうなる訳ないからね?なんて言ったら良いかしら?」

「姉!姉みたいなものだから!彼女は。」

「そうそう、弟みたいなものなのよ!」

 ジッと俺たちを見る莉子。

「…さっきのやり取りで、何となく二人の関係性が分かった気がします。」

 莉子は話す。モデル体型の美女との目撃情報があったけど、まさかと思っていたのに目の前で目撃してしまって驚いて、思わず引き返してしまったのだとか。そう言えば、前にもそんな話題があったな…。あの時は、妬いてくれた事が嬉しくて、詳しく説明はしなかった事を思い出し、こんな事なら、ちゃんと説明しておくんだったと後悔している。もし彼女が傷付いたのだとしたら、その原因が明かに自分で…ねぇ、俺はどうすれば良い?莉子の手をぎゅっと握る。


「…なんか、普段着に買い物帰りのこの状況が、自分を惨めにしてるって言うか…。あなたと比べてしまう自分が情けないって言うか…。そんな事をしても、意味なんてないって分かっているのに…。」

 マリンちゃんは雑誌から抜け出てきた様な隙のない夏ファッションで、耳に揺れる大振りのイヤリングが目を引いていた。

 莉子は掃除とかをしていたから、動きやすさ重視の格好だったと話す。後で着替えようと思っていたのだとか。でも俺は、そんな彼女も、むしろ無防備で可愛いと思ってしまうんだけど。

「あら、私なんか、家じゃ部屋着も着ないわよ?ガウンのみ。」

 あー、なんか想像ついちゃうなぁ…。

「まぁ、ともかく。ダメよ、背中を丸めちゃ。あなたはあなた。私は私。」

「だけど…。」

「もし仮に、愁が浮気をしたとしても…。」

 俺はギョッとしてしまう。

「いや、その仮定やめてくれない!?する気ないから!」

 マリンちゃんは俺の魂の叫びをさらりと聞き流し、続きを話す。

「その程度の見る目のない男なんて、捨てちゃえば良いのよ。あなたは少しも背中を丸める必要なんてないんだから!あなただったら、引き手数多だと思うわよ?」

「…なんか、凄いですね…。強いって言うか…。」

「そう思ってないと、やってらんないだけよ。」

 マリンちゃんが浮かべた笑顔には、過去のだろうか?苦さがほんのり滲んでいた。


「たまには、他の男の影をチラつかせて、愁を困らせてやったら良い。試すのは女の性だしね!」

 悪戯っぽくウインクすると、莉子はふっと笑った。

「莉子に変な事吹き込まないでよ!そんな事より、用事は大丈夫なの!?」

「あら、急がなきゃ!じゃあね!」

 莉子に自分のお店のカードを手渡し、良ければ来て♪と言葉を残し、マリンちゃんは去っていった。ニューハーフバー?って…、え、そうだったの!?と莉子は目を丸くしている。 

 嵐が去った後の気分で、俺はため息をつく。ふと、莉子の手にあるエコバックが目に留まった。

「その買い物って唐揚げの材料?持つ。」

 ありがとうと彼女はエコバックを手渡してくれて、ホッとする。…怒っては、いないみたい。折角、念願だった莉子の部屋に行けなくなったら、ショックすぎる!

 手渡されたそれは、ずっしりと重かった。その重みが、我が儘を言った自分に対しての莉子の気持ちの様に感じて…。申し訳ない様な、でも嬉しい様なそんな気分にさせた。朝から掃除とか、準備をしてくれていたのだろうか、俺のために…。


 二人で手を繋いで歩き出す。

「あの、さ…、お願いがあるんだけど…。」

「何?」

「最後の、マリンちゃんの助言は聞かないで?」

 多分泣いちゃうから。男心は意外とデリケートなのだ。

「…ふ、ふくくくく。」

 堪えきれず莉子はお腹を抱えて笑い出す。

「どうしよっかなぁ…。」

 え〜!ちょっとぉ!

「泣くかも…。」

 ジト目で莉子を見つめても、彼女は笑っているばかりで…。

「それはそれで、見てみたい…。」

 ポツリと彼女は呟く。

 次は俺が目を見開く番だった。もしかして、これは彼女を傷付けた罰だろうか…?


 恋は惚れた方が負けだなんて、よく言うけれど。…俺は、莉子には勝てない事を改めて悟ったのだった。

 いつもお読みいただき、ありがとうございます。

 仕事復帰すると、鈍っていた筋肉が悲鳴をあげました。休業中も子供と運動はしていたのですが、使う筋肉が違うのですね。朝のラジオ体操は仕事復帰しても継続中。自分と子供と同じ名前のお姉さんに親近感を抱いてしまったので、一緒に毎朝体操しています。

 話は変わるのですが、恐竜のフンの化石を検索していたら、今したんじゃないかという形の物に出合いました。残っているのが単純に凄いですね!機会があれば、博物館に行って見たくなりました。興味がある方は検索してみてください!(脱線しまくりでごめんなさい。)

 ではまた☆あなたが楽しんでくれています様に♪

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