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僕達の日常  作者: さきち
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噂(番外編)

 その噂を聞いたのは、偶然だった。


 用事があって違う階に向かうエレベーターの中で、ぼーっと表示された数字を見詰めていたら…。

 この前緑川さんが…、ふと同じエレベーターに乗り込んだ、女子社員達の話し声が聞こえた。その名前が私の心に引っ掛かったのだ。この時間に鞄を持っているので、どうやら営業の女の子らしい。背の高いモデル風の女の人と歩いてたのを見た!と興奮した様子で話している。新しい彼女じゃないかと噂話をしている様だ。

 …うん?私は首を傾げる。どう考えても私ではない。平均ぐらいの身長しかないし、それが私の事だったなら名前が出てくるだろう。付き合い始めたばかりだと言うのに、二股とか、浮気とか!?…まさか、ね?

 彼女達は営業の階で降りて行く。私はその背中を何とも言えない気分で見送った。


 ただの噂だと自分に言い聞かせてはみたものの、気になって仕方ない。人間は中途半端な状態のものの方が、終了した事柄より気になるらしいと本で読んだ事があるけれど、まさに今私の状態はそれだろう。

 聞いてみたいけど、メールだと顔が見えず不安だ。会って問い質すにも勇気が出ないし。それに明日会うし…。悶々とした気分のまま私はスマホを手に取った。



「…って話を聞いたんだけど、どう思う?」

 誰かに聞いて欲しくて、結衣を飲みに誘った。今は居酒屋の個室で二人で飲んでいるところだ。

「ただの知り合いの可能性もあるでしょ?」

「仲良さそうに、腕組んで歩いてたって…。」

 ただの知り合いでも、腕を組んで歩くなんてよっぽど仲良くないとしないと思う。美女だと連発もしていたから、ボディブローを食らった様な気分だった。不安にもなるというもの。

「…マジで!?あ、いや、でも見間違いの可能性もあるじゃない?」

「…そうだよねぇ。」

 遠目だったら、その可能性もあるんだよね。

「どうなの?女癖悪いとか、そんな噂がある人なの?」

「ないと思う。」

 悪い噂は聞いた事がない。だけど裏の顔というのは、多少なりとも誰もが持っているとも思う。そんな事、気にしだしたらキリがない。24時間一緒に居られるわけでもないんだし…。

「じゃあ大丈夫じゃない?」

「そうだよね?」

「そうだよ!」

 結衣にそう言ってもらえると、不安が少し薄れていく。愚痴を吐き出した事で、すこしスッキリしたのでビールを味わえる気分になった。ついでにおつまみも食べて、更にストレス発散だ。

「そうそう、話変わるんだけど、一次と、二次面接通ったよ。」

 結衣が途中経過を教えてくれた。三次面接で上の人が面接してくれて、最終判断されるらしい。これは、一緒に働ける日も夢ではない。

「おお!おめでとう!」

「まだ早いよ。」

 でも感触は悪くないらしく、結衣も笑顔だ。

 景気づけだとビールを注いで二人で乾杯した。そしていつも通り会話が弾む。


「明日デートなんだけど、どんな顔して会えばいい?」

 あ、まだ気にしてんだな私。ポロリと出た本音に、結衣は苦笑いだ。

「そんなに気になるなら、聞いてみれば?案外その時の反応で、判断出来るかも?」

 身構えない様に、不意打ちがコツだと教えてくれる。結衣!?…その手、どこで使ったんだろう?

「そっか、そうだよね。」

 やっぱり聞いてみた方が、スッキリするだろう。

「大丈夫だと思うよ?話聞いた感じだと、怪しい感じしないし、大家さんの息子さんなんでしょ?最悪、母親に言付ける!」

 そう言って結衣は笑った。告げ口みたいな?

「そこまでは考えて無かったけど、そういう最終手段があるんだね。そっか、普通に会ってみて様子見てみる。ついでに聞いてみる。」

「莉子って心配性だよね。それとも結構本気なのかな?」

「遊びの恋愛なんて時間の無駄、した事ないよ。」

 時間は有限なのだ。

「ふふ、知ってるよ。長い付き合いだからね。明日デートなんだから早く寝て、お肌を整えてあげたら?」

 ツンツンと私のほっぺを触って、にっこり笑う結衣。

「うん。そうする。」


 モデル風と聞いて、同じアパートの住人の女性をイメージしてしまった。同性でも思わず見惚れてしまう様な美女。完璧な美貌というのは存在するんだなと、思ってしまう様な圧倒的な存在感を持っているその人。エレベーターや廊下などですれ違ったら、挨拶する程度だけれど。最近は美穂さんの家を出るときに、ばったり顔を合わせたっけ。

 もし仮に、彼女の様な人だったなら、私は太刀打ち出来るのだろうか…。ああ、いけない。ネガティヴになってる。


 彼と歩いていたのが、どこの誰かは分からないけど、それが見間違いだったとしても、モデル風の美女に女として負けたくはない。今日はパックも追加しよう!そう心に決めたのだった。

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