スタジアム(番外編)
美穂さんからもらったヒントは、スポーツ観戦だった。それだけではなく、身体を動かすのも好きらしい。スポーツなら大抵好きだと言われたけれど、そう言われるとどれにしようかと迷ってしまう。あまりグズグズしていると、デート自体が嫌だと取られかねない。さて、どうしようか…そう思っていた時だった。
仕事で部長のデスクに行ったら、チケットが置いてあった。サッカーの試合のチケットの様だ。サッカーの観戦はテレビでしかした事がないので、雑談程度に話しかけてみると、誰かにあげようと持って来たのだとか。
「妻と行く予定だったけど、別の用事が出来てしまったんだよ。興味あるならあげるよ?誰かと一緒に行ったら良い。」
「え、良いんですか?」
「でも今日なんだ。大丈夫?」
「私は大丈夫ですけど…、あ、友人に聞いてみます!」
友人…で合ってるだろうか…でも、彼氏じゃないし…。判子を押してもらって、その場を後にする。それまでキープする事を約束してもらったので、お昼休みに彼にメッセージを送ったら、死ぬ気で仕事を片付ける!と返事が来た。
定時に終われば間に合うはず。死ぬ気でって…無理はして欲しくないんだけど、まぁいっか。
部長からチケットを受け取って、会社近くのカフェで待ち合わせた。仕事は、大丈夫ですか?とメッセージを送ったら、余裕!と返事が来たから大丈夫だろう。
小走りで彼はやって来た。本当に死ぬ気で終わらせたと胸を張る様子が、子供っぽくて可愛い。
それからスタジアムに向かい、観戦を始める。適当に食べ物とビールを買って、雑談を交わしつつ試合を楽しむ。隣や近くの人達と仲良くなって、ゴールが決まるたびにハイタッチをしていた。そんな感じで、楽しい時間は過ぎて行く。応援していたチームが勝利した事も良かったのだろう。彼の機嫌が良いし、来て良かったと思う。
試合が終わり、隣の人達が席を立った。
「またね!莉子ちゃん。俺たちはしょっちゅう来てるから、また会えると良いね!彼氏さんもまたね!」
「またね!」
私も手を振り返す。
「否定しないんだ?」
ポツリと彼が呟いた。
「…その方が良かった?」
ジッと見詰めてみると、彼はいや…と視線を逸らした。
ダメか…。自分からは言えないのは、私が意気地無しだから…。思わず、小さく溜息をつく。私は安心したいのだと思う。付き合おうって、好きだと言ってもらわなきゃ、不安なんだ。
帰ろうと彼は席を立つ。そして私に手を差し出した。
私は差し出された手を掴んで立ち上がる。
ねぇ、どう思ってる?まだ、私に興味持ってくれてるのかなぁ?友達のままで良いとか思われていたらどうしよう…。大丈夫だって、そう思いたいのに、不安な自分が馬鹿みたいだけれど、コレは性格だから仕方ない。
「付き合うって事で良いですか?」
ハッとして彼を見上げると、真剣な表情が目に入った。
「良いですよ。」
そう告げると、繋いだ彼の手の力が抜けるのが伝わって来た。もしかして、緊張していたのだろうか?
「そんな顔しなくても、俺はずっと好きだから。君に彼氏がいた時からずっとね。」
スタジアムの出口に向かって、手を繋いだまま歩く。
「初耳。そこの所、もうちょっと詳しく。」
私が食いついた事に少し驚いた様で…。
「あー、失言?」
彼の耳が赤い。思わず可愛いと笑みが溢れる。
繋いだ手は温かい。ドキドキしてるのに、どこか安心感があって。不思議だなぁ。
「俺も知りたいなぁ、いつから付き合っても良いって思ってたのか。」
彼はニヤリと笑う。あ、反撃されてる。
今度は私が赤くなる番だった。そうだ、気を抜いたらいけないんだった…。でも、こんなやり取りも嫌じゃない。むしろ…。
駅に着くまで、二人の打ち明け話は続いたのだった。
すみません!投稿するの忘れてました!
もしかしたら、もう少し加筆するかもですが、一応投稿しておきます!
ではまた!