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僕達の日常  作者: さきち
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風邪(番外編)

 朝起きたら、頭がぼうっとしていた。三度目のアラームでやっと体を起こす。いつものアラームの時間に起きられないなんて、どれぐらい振りだろう。寒気と頭痛がして、喉が痛い。これはもう間違いなく風邪だろう。食欲がないから、牛乳で薬を飲んで出社した。


「あれ?今日はマスクなんですか?」

「ちょっと風邪気味で。」

「ちょっとですか?何だか、顔赤くありません?」

 青木の言葉に、黒川が反応する。ツカツカと近づいて来たと思ったら、失礼しますと平気で人のおでこに手を当てた。遠慮のかけらも無い。

「熱、ありますよ?」

 黒川は心配そうな顔をして、俺をじっと見つめた。

「大丈夫。」

「……。」

 黒川は無言で更に俺を見つめた。青木もジッと見ている。

「マスクで俺の顔を隠すのは、人類の損失だと言いたいのは分かった!」

 心配されるのが嫌で、そう言ってみたけれど、二人はため息をついた。

「ハイハイ、もう、それで良いです。分かりましたから!強がってないで、とっとと、帰って休んでください!」

 そんな二人とのやり取りを、丁度通りがかった上司に聞かれてしまった。体調が悪いなら、帰って休みなさいと言われてしまう。さすがにそう言われてしまってまで、居座る事は出来ない。…仕方ないので、デスクに置いた鞄を手に取った。後の事は二人に任せるとしよう。


 あーあ、せっかく来たのに…。昨日の事を思い返して、何が駄目だったのか考える。

 あの後、引き返して雑貨屋で取り置きしてもらっていた人形を受け取りに行った。あ、ちゃんと母さんから傘借りてたんだけど。それから戻って、紙袋を彼女の家のドアノブにかける。家に帰って濡れた服のままで、エアコンの効いた部屋に居たのがダメだったのかなぁ。それとも、風呂上がりに髪の毛を乾かさないまま、スマホで情報収集していたのがダメだったのかも…。そっちだな…。


 溜息をつきながら、ロビーを通り抜けようとした時、近づいて来る人影が…。赤城さんだった。ああ、今日も綺麗だ。

「マスク…。もしかして風邪ですか?」

「ちょっと。大した事無いんだけど、上司から帰る様に言われてさ。」

「私のせいですね…。」

 肩が濡れてたのを知っていたのに…と申し訳なさそうな顔をする。早く店に行きたくて、タオルを断ったのは俺だから、気にしないで欲しかった。

「違う!本当に違うから!これは…風呂上りに次のデートをどこにしようか考えてたら、髪の毛乾かすタイミングを逃したからで…。」

 熱中すると周りが見えなくなるのは、悪い癖だと自覚している。

「…やっぱり、私のせいじゃないですか。」

 更に眉毛が下がり、彼女は俯く。

「違う!俺が浮かれてたからで、君は1ミリも悪くない!悪くないから!」

 そんな顔しないでよ。お願いだから、顔を上げて?笑って?

「…私は、どこでも良いですよ?あなたと一緒にいたいだけだから…。」

 ポツリと彼女は呟いた。

「えっと、それって…。」


「あー!まだ居た!」

 聞き覚えのある声が、ロビーに響き渡った。目敏く俺を見つけた青木が、指を差す。

「早く帰って寝てくださいって言ったでしょ?」

 外回りに行くのか、青木と黒川がロビーにやって来たのだった。問答無用とばかりに、二人に背中を押されて外に締め出されてしまう。赤城さんと良いところだったのに!続きが聞きたい!引き返させて!?

「こら!先輩に対して何だよ!この仕打ちは?」

「先輩も後輩もありません!か・え・って・ね・て・く・だ・さ・い!」

 黒川に仁王立ちされると、威圧感がある。

「……はい。」

 …分かったから、睨むなよ。スッと少し目を細めて、真顔で言われると結構怖いんだけど!?

「駅まで連行しますからね!」

 青木が俺の腕を掴んで引っ張る。

「行く!行くから!腕を離せって。」

 道を歩く人達が、何事だろうかと見てるから!

「逃げないでしょうね?」

「逃げるか!」

 俺をなんだと思ってるんだ!痴漢で捕まった人みたいな扱いをするんじゃない!

「…さすがに今戻っても、もう居ないだろうな…。」

 彼女の心配した顔が、頭から離れない。

「何か言いました?」

「何でもないよ。」

 トボトボと駅に向かい、電車に乗り込む。帰る道すがらも、彼女のことばかり考えてしまっている。

 さっきのって、俺の聞き違いじゃないよね?


 帰宅したら、吉田さんがどうしたんですか?と心配そうに俺を見た。風邪だから寝ると言うと、氷枕を用意しますと言う。そこまでの熱じゃないからと断り、起きたらお粥が食べたいと言うと承知しましたと、笑う。吉田さんの笑顔を見ると安心するのは、家族同然の長い付き合いだからだろうか。

 部屋着に着替えてベッドに倒れ込む。布団を被ると眠気が襲って来た。

ピロリンとメッセージが届き、確認すると赤城さんからだった。一気に眠気が吹っ飛ぶ。

『デートの内容は私が考えますから、ゆっくり休んでください!元気になったら、一緒に行きましょう!』

 だって!え!本当に!?彼女から誘ってくれるなんて、夢みたいだ!ああ!早く治さないと!


 熱が上がって来た気がするのは、風邪じゃなくて彼女の事を考えたからに違いない。そう思いながら、俺はいつの間にか、眠りに落ちたのだった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

突然の不幸があり、葬儀などでバタついておりました。その為、またまた筆が進まずごめんなさい。

なので、次回はお休みします!

ではまた☆きっと今は、自分を見つめ返す良い時期なのかも知れません。あなたが楽しんでくれています様に♪

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