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僕達の日常  作者: さきち
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ポンコツ(番外編)

 連絡先を交換して、分かりやすく機嫌の良い緑川さんは、私を見詰めてフッと笑う。

「本当は…、結構へこんでたんだよね…。」

「へこんでた?」

「あの後、後悔って言うか…ちょっと格好つけ過ぎたなぁって。空回りしちゃって恥ずかしくてさ。頑張り過ぎるのも、良くないなって。」

「…頑張ってたんですか?」

 そんな感じには、見えなかったけれど…。

「そうだよ。君と知り合うチャンスを狙ってたんだけど、焦り過ぎたなぁって。加藤さんにも馬鹿にされたし…。」

 カラオケで酔っ払った加藤さんに、遠慮は無かったらしい。馬鹿だなぁと何度も言われると、さすがにへこむと彼は苦笑いだ。

「一目惚れって言ったのも、嘘。前からずっと気になってたんだ。挨拶した事もあるんだけど、気付いてた?」

 彼は上目遣いで私を見る。こちらの様子を伺う様な態度は、子供の様だ。やっぱり少し可愛いと思ってしまう。

「…緑川さんは、女子社員の間では有名なので。」

 もちろん、顔と名前は知っていた。

「君も、男子社員の間では有名だよ。」

「どうやって次の手を打ったら良いか悩んでたら、そっちから来てくれたからビックリしたよ。やっぱり、縁があったんだね。」

 満面の笑みの彼の言葉に、そうですねと頷く事しか出来ない。


 ただいま〜と、玄関から声がする。美穂さんだ。

「愁?お客様?」

 そう言ってリビングにやって来た美穂さんは、私と卓に置いてあるケーキを見て納得した顔をした。

「お邪魔してます。」

 私は軽く会釈をする。

「愁ったら、ケーキが待ち切れないからって、先に食べちゃうなんて!」

 苦笑いしながら、緑川さんの頭を小突く。彼は恥ずかしそうな顔をして、美味しそうだったからついと言った。親子のやり取りは自然で、ほのぼのとした空気が漂っている様だ。

「この子落ち込んだら、いつもここに来るのよ。小学生の頃からずっとそう。今回は何?仕事で失敗でもした?」

「ここ何年も、仕事で大きな失敗は無いよ?」

 出来る男で有名だから、失敗で落ち込むことなんてないと思っていたのに、美穂さんにはそんな様子を見せているのだろう。

「じゃあ、恋愛かぁ。」

 私にはどうにも出来ないわ、と美穂さんは自分のお茶を淹れている。そっちの話には口出すつもりは無いらしい。

「…さっきまでは、落ち込んでたんだけどさぁ。」

 それって私のせいだったり?身に覚えはありますとも。

「今は違うの?」

「そう、美女の手作りケーキ食べたら、吹っ飛んだ感じ。」

 緑川さんは美穂さんに話し掛けながらも、私の方をチラリと見て笑う。

「あら、莉子ちゃん。ありがとう!」

 そう言えば、同じ会社だったっけ?と言いながら、テーブルにやって来て座る。

「この子、仕事以外はポンコツだから。」

「母さん!?酷いよ?」

 緑川さんはギョッとした顔をした。

「掃除も料理も出来ないし…。」

「他は出来るから!」

 必死な様子の彼が可愛いと言ったら、怒られるだろうか。思わず笑いそうになってしまう。

「色々こなせるんだけど、どれも中途半端なの。」

 あら、このケーキ絶品ねと頬を緩ませて美穂さんは笑った。

「中途半端じゃない…。」

 拗ねた様な声音で彼は言う。美穂さんの前だと、随分表情が豊かなんだな…。

「って言うより、ずば抜けてないって言った方が良いかしら?」

「他の奴が凄いだけ。」

「…大抵の事が出来るだけで充分じゃないですか?」

 貶されてばっかりの彼が、少し可哀想になって思わず口を挟んでしまった。

「そうかしら?」

「そうですよ。」

「こんなんで良ければ、同じ会社同士仲良くしてやって。」

「…はい。」

「こんなんって…。」

 むすっとした顔のまま彼は二個目のケーキに手を付けた。まだ食べるのね…。

 それから三人でお茶会になって、一時間ほど話し込んでしまった。お暇すると告げると、彼は残念そうな顔を隠さない。何か…素直な反応で、申し訳ない気分になる。帰り際には、また来てねと笑って送り出してくれたけれど。


 家に帰ると彼から早速メッセージが届いて、デートのお誘いが来た。仕事帰りにビールが美味しいバーに行こうとの内容だ。ビール好きなのが、バレてる!?偶然?美穂さんが言ったのかな?

 仲良くしてくれるんだよね?と最後の文面に書かれていて、言った事を守らなきゃいけない様な気がしてくる。

 それに前ほど嫌な感じはしない。なんせ、ちょっと可愛いかもなんて思ってしまったのだから。

「…縁、か。」

 断ち切ったと思っていたのに、繋がっていた。スマホの画面に映し出された、彼の名前をぼんやり見詰める。

 乗っかってみるのも悪くはないのかな?本当に縁があるのなら…。

 いつもお読みいただき、ありがとうございます。

 申し訳ないのですが、またもや体調を崩しまして…。筆が進まなかったので来週はお休みさせていただきます。この時期は本当に弱ってしまいますね。

 お詫びでは無いのですが、短編を書きました。『ゲーム』と言う話です。お時間がありましたら、是非☆

 ではまた☆あなたの貴重な時間を使って頂いて、ありがとうございます!あなたが楽しんでくれています様に♪

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