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僕達の日常  作者: さきち
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ついてない日

今日は寝過ごしてしまった。昨夜は本に夢中になって寝るのが遅かったせいだろう。夢中になると止まらない。悪い癖だ。

とは言ってもいつも早く行っているので、問題はない。いつもより遅い電車で行けば良いだけだ。ただ混むんだよねぇ。どうも満員電車は苦手だ。

早めに出て少しでも人の少ない電車に乗ろう。私はいつもより手抜きのお弁当を作る。


さっさと身支度を整えて家を出た。この時間ならまだ少しはマシだろう。

来た電車に飛び乗る。確かに混んでいるが、身動きが取れないほどではない。


ふと、太ももに違和感を感じる。誰かの鞄が当たっているのだろうか。少し身体をずらす。今度はお尻に違和感を感じた。コートの上からだからよく分からないが、痴漢だろうか?微妙だな。気のせいかな?

そんな事を考えていたら、今度はハッキリとお尻を触られているのが分かった。ぞわりと肌が粟立つ。わざわざコートの隙間から手を突っ込んできた。あぁ、本当についてない。

次の駅まで我慢して車両を乗り換えよう。早く着かないだろうか。


突然、気持ち悪さから解放された。始めは終わったのかと思っていたけどそうではないらしい。私の横にいた40代くらいの女性がこっちを見ている。彼女は私を触っていた男の手を捻り上げていた。

「あ。」

彼女は唇だけを動かして次で降りてと言ってきた。私は頷く。声を出さなかったのは、私が注目されない様にだろうか?


出来ればこのまま逃げ出したい。この後のことを思うと面倒だ。でもこの女性に見られてしまった。

女性は男の手を捻り上げたまま、連れて行く。慣れてるのかと思うくらい手際が良い。

「逃げられませんよ。」

彼女は男に言う。私の方を見てついて来ているのを確認しながら、あなたもねと言った。

ドキリとした。そんなに逃げたそうにしていたかな。 このまま距離を空けて逃げようかとはちらりと考えてはいたが、釘を刺されてしまった。


このまま会社に行けそうもないな。私は溜息をついて、莉子にメッセージをした。



昼休憩中には会社に間に合いたくて、警察署から出て急いで出社した。同僚に挨拶して席に着いた。お弁当を食べる時間はありそうだ。

「大変だったわね。」

莉子が横で気遣ってくれる。

「うん。たまたま非番の警察官の人が捕まえてくれたから。逃げようにも逃げられなかった。」

「それはそれは。」

莉子は天井を見上げた。

「ついてないでしょ?」

私は苦笑いで返す。

「大丈夫なの?」

「うん。対応してくれたのは、女性の警察官だったから。」

「そっか。今日家まで送ろうか?」

「大丈夫。」

「そう?」

莉子は心配気に顔を覗き込んでくる。

きっと莉子は、私が大学時代に路上で痴漢に会って、しばらく暗い道を一人では歩けなくなった時のことを考えているのだと思う。まだ明るいうちに帰るため、サークル活動にも参加出来なくなってしまった。大丈夫。もうあの頃の自分じゃない。


その時ピロンとスマホが鳴った。黒川さんからいつものお昼ご飯の写真と一緒にラーメンのお誘いのメッセージが来た。自然に頬が緩む。

「ラーメン食べに行く。」

今日初めて笑ったかも。

「そっか。」

莉子も笑顔で言ってくれた。


今日は早く仕事を終わらせよう。彼に会いたくてたまらなかった。


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