合コン(番外編)
神頼み計画は上手くいき、結衣と日帰りプチ旅行気分で楽しめて満足している。いい縁があります様にと祈って、結衣と一緒に神社の写真をスマホの待ち受けにした。それぐらいはは期待しているんだ。
ある日、どうしてもと誘われて断れず、飲み会に出席する事になった。加藤先輩が主催してくれた飲み会と言う名の合コンは、同じ会社の別の部署の独身男性三人らしい。確か営業だったはず。花形の部署なので、イケメンが多いと先輩は目を輝かせる。コレも縁だから!と押し切られた格好だけれど、出会いが欲しいのは私も一緒だったので、もう一人の同僚と一緒に乗っかってしまった。
飲み会は和やかな雰囲気で進んだ。私が最年少だったので、気を使うかと思っていたら、意外とそんな事はなく、男性陣が気を使ってくれる。さすが、営業は気が利くと感心してしまった。しかも先輩が言っていた様に、イケメン揃いだ。誰か一人が取り残された感じもなく、みんなに話を振ってくれるので、楽は楽なんだけど…。
みんな魅力的だけれど、完璧すぎて気後れしてしまう。悪くはないんだけど…何か物足りない。
何でだろう?なんで物足りない感じがするんだろう…?そんな事を考えながら、お手洗いに立った。もうそろそろ、場所を移そうかと話が出ていたけれど…。
「帰ろうかな…。」
手を洗い、鏡を見詰めて溜息をついた。食事をしたから口紅が落ちている。塗り直す気力もなく、色の無いリップを保湿の為に塗って終了。我ながら、気を抜き過ぎだな…。ふっと苦笑いが漏れる。
お手洗いから出ると、通路に緑川さんがいて目が合う。営業部で一番のイケメンだと、女子社員の話題によくのぼるので、私でも顔を知っている。かといって、挨拶程度しかした事は無いのだけれど…。
彼は私に近づいて、話し掛けてきた。
「俺の為に化粧直ししてくれてたの?」
「…何でそうなるんです?」
思わず、訝しげな顔になってしまった。
「そうだったら良いのになって思っただけ。唇赤くて美味しそうだから。」
…なんだコイツ。自意識過剰もいいとこだろう。こう言う発言は、自分がモテるのを知ってる奴の言動だ。私は、そんな男は好きじゃない。
「残念でした。元々血色が良いんです。色の付いてないリップしかしてません。」
殊更素っ気なく言ってみる。そしてスマホのメッセージを先輩宛に打つ。先に帰りますと。
「私帰るんで…、失礼します。」
ペコリと頭を下げる。早く、この場所から離れたかった。
「…ふぅん。もう帰るの?みんなで、カラオケ行こうって言ってるよ?」
「帰ります。」
「じゃあ、一緒に帰らない?」
何で一緒に帰らないといけないんだ…。
「帰りません。」
もう、失礼がない様になんて、取り繕うのはやめて、冷えた声で告げた。
「俺、君みたいな人タイプなんだけど…。」
だけど彼は、食い下がる。
「私はあなたみたいな人は、タイプじゃないんで。」
なんせ、ダメ男好きだから。
「一目惚れなんだけどなぁ。」
どこまで本気か分からないし、そんな言葉を鵜呑みになんてしない。
「…私は、一目惚れはした事無いんで。」
もう、面倒臭くなってきた。
「…連絡先だけでも。」
しつこい!こんなキャラだっけ?この人。もっと、さらっと諦めそうなのに…。
「教えません。」
「頑なだね。」
彼は苦笑いだ。
「あなたになら、寄ってくる人は一杯いるでしょう?」
私じゃなくても、いい筈だ。
「そうだねぇ。…でも、俺が気になるのは君なんだよ。」
ふっと彼が真剣な眼差しになったので、私は思わず目を逸らした。
「…残念でしたね。縁がなかったんですよ。」
「縁があったら、連絡先だけでも教えてくれる?」
真っ直ぐな彼の視線から目を逸らしたまま、私は答えた。
「縁があったら良いですよ。では、失礼します。」
何とか顔を上げて、笑顔を貼り付けて頭を下げた。
「…無ければ、作ればいいだけだ。」
くるりと踵を返した私の背中に、そんな言葉が投げかけられる。思わず振り返りそうになったのを我慢して、私は彼の言葉を無視してその場を去った。
気にするな。会社が同じとはいえ、それ程頻繁に会う事もないだろう。用事がなければ、営業の人間が事務部に来る事などないのだから。
完璧な男なんて面白くない。イケメンで仕事も出来る好青年なんて、私じゃなくても良いじゃないかと思う。…私は、必要とされたいんだ。私じゃなければ駄目だという人じゃないと、きっと合わない。多分、私は欲張りなのだと思う。捨てられた子犬の様な目で見詰められないと、心が動かない。必死になってくれないと、不安に感じてしまうから…。
あ、だからダメ男にハマっちゃうのかな?
最後に私を見詰めた彼の真剣な眼差しに、少し心が揺らいでしまったのは、気のせいだと自分に言い聞かせた。