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僕達の日常  作者: さきち
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莉子と愁(番外編)

「また?」

 私はお帰りと出迎えた後で、思わず呆れた顔をして言ってしまった。愁が、また紙袋を手に持っていたからだ。中身の想像がつくだけに、苦笑いしてしまう。

「いや、だって、可愛かったから…。」

 彼は言い訳する子供の様に、私の表情を伺いながら紙袋を差し出した。今月だけでも何回目だろうか…。

「…翼の身体は一つしかないんだよ?」

「知ってるよ。あんな可愛い子が何人もいるわけないだろ?」

 いやいや、そう言う話ではない。

 愁が手を洗って真っ直ぐに向かったのは、三ヶ月になったばかりの娘、翼のベビーベッドだ。翼はぐっすり眠っているところだったので、彼は彼女の頭を撫でて目を細めている。

「それより見て見て!翼は色白だからピンクが似合うと思って、買ってみたんだ!」

 紙袋の中身は、ヒラヒラしたレースがたくさん付いたワンピースだった。

「可愛いだろ?」

 ピンク色の服だけで、何枚あっただろうか…。私は彼が買ってきた服達を思い出す。

「可愛いけど…。80サイズの服ばかり、こんなにあってどうするの?」

 この前、収納に困り、翼用のチェストを買い足したところだ。1歳頃に着られるサイズだから、まだまだ先なんだけど…。

「分かってるんだけど、可愛い服が一杯だから…つい。今はロンパースばかりだけれど、折角女の子が産まれたんだし、ワンピースとか、ヒラヒラしたスカートとかも着せてみたいんだよ。」

「その気持ちは凄く良く分かるけど…。」

「あ、今度は、90サイズの服にする!」

 それなら良いよね?と笑顔で愁は言った。買うのをやめる気はさらさら無いのは、彼の言動からして明らかだ。

「…買うなとは言わないから、回数を減らしてね。」

「はぁい。」

 愁は肩をすくめて見せた。

「…私だって、選びたいんだよ?」

 少し拗ねて言ってみる。そうすると愁はすまなさそうな顔をした。

「ゴメン。今度は一緒に見に行こう!」

「うん!」

 結婚前の心配が嘘の様に、愁は子煩悩パパになっている。仕事も忙しいだろうけど、父親教室にも積極的に参加していた。夜泣きやオムツ替えも嫌がらないし、用事がない時は真っ直ぐに家に帰ってくる程、娘にメロメロだ。


 愁は外で食べて来ると言う事だったので、私は先に夕食を済ませていた。

「お茶飲む?」

「貰う。ありがと。」

 私はキッチンでお茶を入れた。愁は意外と緑茶が好きらしい。お父さんの影響だと笑って言っていたけれど。

「勉強、してたんだ?」

 彼は私がテーブルに広げていた資料や、本を手に取った。

「翼が眠ってくれる時間が長くなってきたから、少しずつだけど。」

 お盆に急須と湯飲みを乗せて、私はそれらをテーブルまで運ぶ。

「無理しなくて良いんだよ?慣れない子育て中なんだから。」

 少し心配そうに彼は私の顔を見る。

「無理はしてないよ?美穂さんも手伝いに来てくれるし、私は恵まれてると思ってる。だけどね、何も分からないままなのは嫌なんだよ。」

 微力でも彼の力になりたいから。どんな事で悩んでいるのかだけでも、知りたいんだ。

 会社を辞めてから、空いた時間を浪費するのは勿体ないと思って、妊娠中から少しずつ勉強をしている。子育ては一番の重要事項だけれど、それ以外にも会社の事、経営の事、マナーなどもやっておいて損は無いと思って教室に通ったり、本などを読んだりしている。以前はさほど興味がなかった、ビジネス書なども読む様になった。

 翼が生まれてからは、そんな余裕などなかったけれど、最近少し余裕が出てきたんだ。だから少しずつだけど、再開し始めている。


「明日は、俺休みだし、美容院行ってくれば?翼が生まれてから行けてないでしょ?それに夜は、俺が翼をお風呂に入れるから。」

 湯飲みを手に持ったまま、愁は私の髪を触った。髪の根元の方が黒くなってきていて、カラーリングをしたいと思っていたので嬉しい。

「うん、助かる。」

 一人だと翼をお風呂に入れるのが精一杯で、のんびり浴槽に浸かる事も出来ない。自分の事は後回しになって、髪はビショビショ、顔のケアもゆっくり出来ず…なんて事もある。髪型を気にする余裕すらないのが現実だった。本当にお母さんって大変だなと思う。

 早速ネットで美容院を予約して、嬉しそうな私を愁は抱き締めた。いつもありがとうと言ってくれるので、その言葉で私は救われる。

 仕事を辞めて子育てに追われる毎日は、充実しつつも孤独で、社会に対して何も役に立っていないのではないだろうかと思ってしまう。そんな焦りや不安も吹き飛ぶんだ、愁の言葉で。少なくともあなたの役には立っていると思えるから…。

「俺が一番好きなのは、莉子だからね。」

「一番が翼でも、私は怒らないよ?」

 翼になら一位を譲っても、嫌ではない。

「…じゃあ、同率一位で。」

「正直だな…。」

 思わず二人で笑ってしまった。


 私は今のこんな日常を、考えもしていなかった日々を思い出す。隣で笑う彼との出会いを…。全然タイプじゃなかったのにな…。

 いつもお読み頂き、ありがとうございます。

 番外編まで読んで頂いて、感謝です!莉子と愁の話が始りました。

 私は子育ては社会貢献だと思っています。しなくても責められるよな事ではないから。だけどやったら褒めて欲しいなぁと個人的には思います。当たり前すぎて、誰も褒めてくれませんしね。だけど、大変なことをあえてやっているのだから、やっぱり社会貢献だと思うのです。

 次回は二人の出会いの話です。ではまた☆あなたが楽しんでくれています様に♪

 

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