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僕達の日常  作者: さきち
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僕達の日常

 一緒に住む許可をもらったので、結衣が僕の家に引っ越しをする日がやって来た。話はとんとん拍子に進み、家賃の関係で一月の末までには引っ越しを完了しなけらばならないので忙しい。家具、家電はフリマアプリで売り払ったり、処分したりしたおかげで、荷物は最小限に抑えられた。引っ越し業者を頼まず、何度か僕の車を往復させるぐらいで事足りる。


 荷物の入った段ボールを運んでいる最中に、激痛が走る。

「…足の小指、角にぶつけた!」

 痛くて目に涙が滲む。蹲って小指を抑える僕に、結衣は大丈夫ですか?と駆け寄って来てくれた。誰のせいにも出来ないのが、こういう時の辛いところだと思う。

「視線が高い分、足元が見えにくいとか?」

 彼女は首を傾げる。何、その仮説?

「…そんな訳ないでしょ?」

 視力は良くないけれど…。え、考えた事無かったけど、そうなの!?背の高さのせいなの!?

「実家で和室の鴨居に、おでこをぶつけた事はあるけど…。」

「私は無いですよ?」

「そりゃ、背が低いから。」

 うん?…話が逸れてる。

「治ったみたい。」

 気付けば痛みが引いていた。僕は足の指を開いたり閉じたりして見せる。

「良かった。」

 彼女はニッコリ笑った。

「これから検証していきましょうか?私と司さん、どっちが足の小指をぶつける頻度が多いか。」

 ふふふと、面白い事を見つけた子供みたいに、瞳を輝かせながら結衣は僕を見詰める。

「結衣の仮説の検証?」

 結衣は自分の荷物から小さなホワイトボードを取り出して、僕達の名前を書き、司の方に一と書き込んだ。…本当にするのね。

 こんな事まで、楽しむ材料にしてしまう君が、単純に凄いと思う。次に足の小指をぶつけても、前より嫌じゃなくなるかも…。いや、だからってぶつけたい訳じゃないよ?


「お昼何にします?」

「僕作るよ。パスタで良い?」

「じゃあ一緒に。」

 僕がパスタを茹でている間に、結衣も野菜を切り、茹で出す。ジッと見ていたら、野菜も食べないととニッコリ笑って言われてしまう。…ですよね。昼だから要らないんじゃないかなんて、考え方は結衣にはないらしい。僕に野菜を食べさせると、プロポーズの時に宣言されてしまったし…。

 君は簡単なデイップソースを作り、温野菜や生野菜と一緒にテーブルに並べると満足そうな顔をした。僕もパスタを皿に持って、テーブルに持って行く。

「美味しい。」

 結衣が笑って言ってくれる。

 カリフラワーをフォークに刺し、一口食べた。ディップソースがよく合う。茹で野菜は大丈夫なんだよね。

「こっちも美味しいよ。」

「苦くない野菜だったら大丈夫なんですよね?でもこのラディッシュも美味しいですよ?」

 綺麗な赤い色を指差し、結衣は笑う。

「生の大根なんて苦いだけなんじゃ…。」

 オシャレな見た目と呼び方に僕は騙されない。コイツはただの大根だ!和名は二十日大根だというのも知っているのだ!

「一口、騙されたと思って。」

 期待を込めた結衣の瞳に怯む。いや、そんな目で見詰められたらさ…。

 …修行と思って、一口かじってみた。カリッと良い音がして、大根特有の辛味と苦味が口に広がったけれど、ディップソースがそれを中和してくれている。

「意外と大丈夫かも…。」

「でしょう?意外と未知の世界が広がっているかもですよ?嫌いな物が多いっていうことは、これから好きになる可能性が沢山あるって事ですから。」

「そっか。そうだね。」

 ピーマンやゴーヤを好きになる可能性もあるんだろうか?今は想像もつかないけれど。将来そうなれたら嬉しいかも…。


「…ねぇ、敬語っていつやめてくれるの?」

 君を見詰めて言ってみる。

「…そのうち。クセになっちゃってて。」

「僕、結衣と弟君の会話が好きだったよ。あんな風になりたい。」

 少しずつで良いから…。もっと近付きたいんだよ。

「…このパスタ、塩加減が良い感じで美味しい。」

 少し照れた様に君はそう言った。思わず笑みが溢れる。

「ハマってた時期があるから。得意料理なんだ。」

「そっか。自分で作るのも良いけど、人に作ってもらった料理って美味しい気がする。」

「また作るよ。」

 そんな会話をしながら、昼食は進む。


 この料理達の様に、君とのこれからを味わい尽くしたい。長い時間をかけて。君もそう思ってくれてると良いな…。



 日常はドラマの様に何か事件が起こるわけじゃない。それでも、ありきたりでも、僕らの日常はそれなりに刺激もあるし、楽しい。

 大好きな人と一緒に笑いあえること。時にはぶつかり合うこともあって、すれ違いもある。だけどそんな事があるからこそ、笑い合える日が何より愛しく思えるんだ。

 理不尽に打ちひしがれる日があろうと、君が隣にいて笑ってくれるなら…。それだけで僕は救われる。同じように、君が辛い時に、僕を一番近くに居させて?



「あ!雨!」

 結衣は窓を見て慌てる。

「「洗濯物!」」

 声が揃ったのが面白くて笑ってしまう。そして急いで二人で洗濯物を取り込んだ。



 僕達のかけがえのない日常は、きっとこれからも続いていくだろう。

 君と一緒の日常が…。


 最後までお付き合い頂いて、ありがとうございます!

 投稿したのはもう少し後ですが、書き始めてから二年ぐらい経ちます。完結できてホッとしました。それもこれも、読んでいただいているあなたの存在があればこそです。本当にありがとうございました!

 私は、喜びも悲しみも人生には必要なスパイスだと思うのです。あなたにとっての日常が、素敵なものであります様に。

 来週はお休みをいただいて、再来週から愁と莉子の話を番外編で書く予定です。一月後半と二月は仕事が忙しいので毎週投稿できるかは未定ですが、出来るだけ頑張ります!

 ではまた☆あなたが楽しんでくれています様に♪

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