コタツ
十二月に入り、寒さが身に染みる季節になってきた。外は真っ暗で、コートのボタンをしっかりと留めて帰路に着く。
街路樹にはイルミネーションが灯り、クリスマスの飾り付けが街を彩っている。キラキラと輝いている街の中を、隣の結衣も僕も白い息を吐きながら、手を繋いて歩いた。
去年の忘年会の帰りに、一緒にラーメンを食べに行ってから、もうすぐ一年が経とうとしている。こんな風に手を繋いで歩く今を不思議に思いながらも、もう彼女がいない生活を想像ができない。
今日は金曜日の夜。結衣と一緒にご飯を食べに行って、そのまま僕の家に二人で帰ろうとしたら、彼女が実家からみかんが大量に送られてきたので、取りに行って良いですかと言った。みかんは大好きなので、正直嬉しい。
「一人暮らしで消費できる量じゃないんですよ。」
「そんなに?」
「一箱あるんです。母が買ったばかりなのに、お歳暮で貰ったらしくて。会社にも持って行ったんですけど、まだまだあるから。司ちゃんにもあげてって母が言ってたんですけど、好きですか?」
「大好き。」
「…本当に好きだった…。」
小さい声で結衣が呟く。苦々しそうに顔をしかめる彼女を、不思議に思う。どうかした?と聞いたら、何でもないと笑顔を見せた。?…まぁいっか。
「じゃあ、結衣の家に寄ってから、行こうか。」
「お願いします。」
僕達は結衣のアパートに寄り、僕のマンションを目指し歩いて行く。たわいない話もいつもの事。寒いので、二人の吐く息が白い。
マンションの玄関の中に滑り込む様に入った。外は寒いけれど、部屋の中は幾分かマシだから。
「すぐにエアコンつけるね。」
「ありがとうございます。」
ソファーに腰を下ろし、結衣が首を傾げる。
「いつものクッション何処ですか?」
「和室にある…。」
そう、答えてしまってから、しまった!と思ったけれど、もう遅い。結衣は和室の方に行ったしまう。僕は後からついて行った。
案の定、結衣はコタツを見つけてしまう。
「いや、これは…その…。」
「狡い!一人で楽しむなんて。」
彼女は電源を入れコタツに入ると、卓に顎をのせてふにゃっと笑う。
「あー、もう出られません。」
「…ビール持ってくる。」
コタツは人を駄目にすると思う。元々叔父さんの家にコタツは無かったのだが、引っ越しする時に持って来てしまった。あのコタツでゴロゴロする感じがたまらなく好きなのだ。肌触りのいいラグとコタツの暖かさは、最強だ。
ビールとおつまみを持って行くと、彼女が熱心にスマホを見詰めていた。僕は、みかんをコタツの上にセッティングするのも忘れない。うん、定位置だな。
「何見てるの?」
「司さん。ローソファーがあったら、もっと気持ち良さそうじゃないですか?」
そう言って、スマホの画面を見せてきた。うん、確かに良いかも。ゴロ寝するには最高だな。
「クッションカバーも、肌触りの良いやつに変えて…。」
彼女の中で、着々とコタツ環境が改善されていく。いや、人を駄目にするという意味においては、改悪だろうか。
結衣は妥協せずに商品を選んだ後、クッションに頭をのせてゴロゴロしている。僕が座ると、僕の膝の上に腰掛けた。彼女の髪の匂いを嗅ぎながら抱き締める。
「…この椅子が一番、居心地が良いですね。」
「そう?このクッションも抱き心地が良いね。」
「そうでしょ?」
結局、その日は二人で炬燵でゴロゴロしてそのまま寝てしまった。朝起きて喉が痛くなっている事に気付いて、彼女を見ると同じ様に喉が痛いと言っている。
「…寝る時は、ベッドの方が良いですね。」
「…そうだね。腰が痛くなる。」
僕達は風邪薬を飲みながら、二人で笑い合う。
「毛布使えば、コタツでも大丈夫じゃないでしょうか?ラグも厚みがあるやつに変えたら腰も痛くならなさそう…。」
諦めが悪い。どんだけコタツが好きなんだ。いや、僕も好きだけどさ。
「…寝る時はベッドにしよう。」
「…え〜。」
結衣が不満そうな顔をした。
「そんなに、コタツの方が良いの?」
「司さんとコタツだから、良いんじゃないですか。どっちも好きなものだから。」
「…仕方ないな。」
僕はコタツで寝ても風邪をひかない方法を考える事にした。結衣に甘いって?仕方ないよね。
君とのこんな日常が毎日続く事を、簡単に想像する事が出来てしまう。
…だから、結衣。ずっと一緒に居て?
僕は心の中で、そんな事を君に問いかけた。
いつもお読み頂きありがとうございます。
この話もクライマックスになってきました。と言っても日常なので、ゆるくいきます。
さて、お知らせです。短編を書きました。タイトルは『Sugar』。クリスマスイブを軸にした話なので、間に合って良かったです。お時間があれば、読んでいただけると嬉しいです♪
ではまた☆寒い日が続いていますが、あなたがお風邪を召されません様に♪