ミッション
母から電話がかかって来た。いつもの関西弁で、相変わらず一方的な要件を告げてくる。
「みかん、送ったから。」
「ありがとう。買うからいいのに。」
確かに好きだけど、わざわざ送ってこなくても…。
「ちゃうねん。お歳暮で一箱もろてな、でも買ったばっかりでもう一箱あんねん。さすがにお父さんと二人で食べきれへんから、一箱そっちに送ったし。」
「え、一箱!?一人暮らしなのに?」
「司ちゃんにも、あげたらええやん。」
「えっと、聞いてみるけど。」
好きじゃない物、貰っても困るだろうし…。
「司ちゃん、みかん好きやって言ってたで?」
え…。
「…何で、お母さんがそんなこと知ってるの?」
「何で、アンタが知らんねん?」
「……。」
何故だか、もの凄く悔しい…!ちょっと、仲良くし過ぎじゃないだろうか?
「あ、年末、いつ帰って来るん?」
また、唐突にそんなことを尋ねてくる母。
「まだ決めてないけど。」
大掃除の手伝いの催促だろう。毎年の事なので、こっちもそのつもりではいるけれど。
「年始は?司ちゃん連れて来るやんね?」
当たり前の様に言われて、母がそのつもりなのに驚く。
「え、まだ何も決めてないけど。」
「何モタモタしてんの!元日は無理でも、二日やったらイケるやろ?連れて来てや。」
「いや…予定、まだ何も…。」
決めてないし、話すらしていない。
「だから、モタモタせんと、誘えって言ってるんやろ?」
「でも、彼にも予定があるかも…。」
ハァと、母は大袈裟なため息を吐いた。
「結衣、これは頼んでんのちゃうで!?ミッションや!」
言い含める様に勿体ぶった言い方で、母は告げてくる。
「ミッション!?」
「実はなぁ、もう、おせち頼んでん。」
もうすでに、予約したらしい。いつも自分で作るのに、今年は予約したのか…なんだか、変な感じ…。
「家族で食べればいいだけの話じゃ…。」
「ちゃうわ!グレードの問題や。」
「グレード!?」
「司ちゃんが来ると思ってな、ちょっとグレードを上げたんや。だ、か、ら、ミッションやって言ってるやろ?」
「何、勝手に決めて…。」
「…優は、彼女連れて来るって。それが二日なんよ。」
よく話を聞いてみると、元日は母の作ったおせちを食べて、二日は予約したおせちを食べるらしい。お客様用か、ああ、なるほどね。
「へぇ。」
じゃあ、奮発したおせちは無駄にならないじゃないか。
「何が、へぇや!わざわざ関西から彼女を連れて来るのが、どういう事か分かってる?」
「え…っと、あ!?嘘!?」
え、結婚!?結婚なの!?優が?
「まぁ、まだ確定ちゃうけど。それだけ、本気なんやろ。」
「…そっか。」
そんなお年頃なんだなぁ…。ずっと弟は弟なので、イマイチピンと来ない。あれ?二日に帰って来るという事は…、また今年も大掃除を手伝わないつもりか!?もしや、確信犯か!?母によると、元日は、彼女の家に行くらしい。仕方ない、仕方ないけれど…。去年の様に、豚まんを買って来ないと許さないと、メッセージを送ってやろうかなんて、考える。
「うん?私には関係無いよね?」
優が彼女を連れてくる事と、私が司さんを連れて行く事は、何の関係もない様に思える。
「アホやなぁ。何の進展もなさそうな二人に、切っ掛けを与えてやろうという、親心が分からへんの!?」
はぁ!?親心!?
「余計なお世話!!」
私はピッと電話を切った。そして、スマホをベッドに放り投げる。まったく、何考えてるんだ!
『二日やから!誘いなさい!』と母からメッセージが来た。無視していたら、ピロン、ピロンと何通も届く。言うた?とか、まだか?とか…。根負けして、『了解』とだけ送ったら、嵐の様なメッセージ攻撃は無くなった。ため息を吐いて、司さんに二日の予定を聞いてみるべく、メッセージを送った。
『二日なら大丈夫だよ。ご両親や、弟君に会えるのが楽しみだ。』と言ってくれて、ホッとする。更に『毎年元日は実家に行くんだけど、来年は結衣も一緒に行こう。』と逆に誘われてしまった。何だか、催促したみたい?
お母さんに『大丈夫みたい。』と送ったら、関西おかんキャラが親指を立てて微笑んでいるスタンプが届いた。
ミッションはクリアしたけれど…。
…母に企てられているとも知らずに、呑気だなぁ。私は司さんからのメッセージが映し出されたスマホの画面を見詰めながら、そんな事を思う。
まぁ、なる様になるか。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
寒い日が続きますね。年末の掃除がはかどらず、自身の意志の弱さに辟易します。
何もかも寒いのが悪いのだ!と言っても小人が掃除してくれる訳でもないので、ぼちぼち頑張りますね。
ではまた☆あなたが楽しんでくれています様に♪