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僕達の日常  作者: さきち
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指切り

仕事を終えて、同僚に挨拶をする。外に出ると冷たい風が頬を刺す。マフラーで首を覆っていても、寒い。地面から寒さが這い上がってくる様に、足先から冷えていく。


歩いていると、前方に他の人より頭一つ分飛び抜けている後ろ姿が見えた。あ、彼だ。いつのまにか目で追ってしまう癖がついてしまった。

隣に青木さんがいるので、声をかけるのは諦める。背中を見つめながら、歩いていると何だかイライラして来た。


青木さん、近付き過ぎじゃないだろうか?時々笑顔の青木さんの横顔が見えて、さらにイライラする。もっと離れろ!心の中で青木さんを罵りながら、そういえば生理前だと気付く。だからイライラしているのか。気分も落ち込んでいるから、それが原因だな。生理中や前は気持ちの振り幅が大きい。悲しい事は余計に悲しく、感動する事は余計に感動するといった具合に。


納得したからといってイライラや気分の落ち込みが治るわけでも無い。


きっと彼は知らないだろう、メッセージが来る度に一喜一憂している私を。私は彼の背中に問いかける。


どうして思い出してくれないのか。何故気付いてくれないのか。こっちを見て欲しい。お願い、私を見て。

それがわがままなのは分かってる。本当は臆病な自分が悪いのだ。それなのに、そう思う事をやめられない。そんな自分が不甲斐なくて、更に気分が落ち込んでいく。


何だか悲しくなってきて目が潤み始めた。あ、泣きそう。ちょうど駅に着いたので、トイレに駆け込む。

鏡の前に立って顔を見ると、淋しそうな目をした自分がいる。自分は淋しいのか。そうかもしれない。きっと愛情に飢えているのだ。


さっきの電車は行ってしまっているだろう。次まで待たなくてはいけない。トボトボと階段を下る。降りた先に彼が見えて驚いた。今は会いたくなかったなぁ。視線を逸らして彼から遠ざかる様にホームを歩く。なのにそういう時に限ってうまくいかない。彼が気付いて近づいて来た。

「帰り?」

「…はい。」

私は目を逸らす。

「なんかあったの?目が赤い。」

何で気付くんだ。普段は鈍いのに。

「…何もありません。寒いからじゃないですか?」

「そう?」

「そうです。」

私と言う女は素直ではない。もっと素直で可愛い女なら、元彼に浮気なんてされないだろう。彼はじっと私を見て首を傾げる。

「本当に?」

しばらく沈黙が続く。私は居心地の悪さを感じて、線路に視線を向ける。電車はまだ来ない。


根負けした様に溜息を吐く。

「…ただちょっとだけ淋しかっただけです。」

私は消え入りそうな声で言う。

少し間があって、彼が呟く。

「淋しいか。君を癒したい相手ならいくらでもいそうだけど。」

彼の言葉に少し胸が痛む。

「…誰でも良いって訳ではありませんから。」

「そりゃそうだ。」

そう言って彼は顎を撫でる。

「君を癒せるかどうかは分からないけど、近いうちにラーメン食べに行く?ラーメン友達にはそんな事しか出来ないけど。」

「そうして貰えると癒されると思います。」

「…ラーメンで癒えるのか。」

あなたで癒えるんです。口にはしないけど。

「約束してください。」

私は小指を差し出した。

「指切りなんていつ振りだろう?」

彼は呟きながら小指を差し出してくれた。

私達は小指を絡めて指切りをした。


電車の中で別れた私達は、それぞれ帰路につく。

帰り道を歩きながら、指切りしちゃったと呟いた。生理前は気持ちの振り幅が大きい。いつのまにか私は鼻歌を歌っていた。

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