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うわ、落ちる

気の向くまま、不定期更新です。すみません!

 突然だが、俺にはハマりにハマッているロボゲーが存在する。

 その名も【Trance Sense Combat】。通称、トラセコ。ヴァーチャルリアリティタイプのメカアクションゲームだ。

 全部で三作が世に出ており、シリーズ1作目である"無印版"は、単純なマルチバトルオンリーの簡素な作品だった。

 ゲームの内容はギルティアと呼ばれる人型機動兵器を操り、1対1から4対4のPvPを楽しむ、それだけ。

 ストーリーもなければ、メカにしても幾つか用意された固定の機体の中から好きなものを選ぶだけで、自分のメカをカスタマイズしてオリジナリティを出す等のやり込み要素もない。

 普通に考えれば、適度に遊ばれて、そのまま時の流れに沿って忘れられていく……そんな微妙な評価で終わるであろう程度のクオリティしかなく、web上で話題に上る要素も皆無だった。

 しかし、これの正当な後継作である【Trance Sense Combat2:Revolution】は、とある(くち)コミがゲーム情報板に投稿されたことによって、爆発的に売れた。コアなロボゲーファンのみならず、ライト勢もこぞって買い求め、ゲームショップでは在庫切れが続出。生産が追いつかないほどだった。


 では何故、これほどに微妙な印象を受けるゲームの続編が製作されるに至ったのか。

 その理由は、処女作である無印版をプレイしたユーザーからの、異常ともいえるほどの熱すぎる支援があったからに他ならない。

 ゲーム中において、プレイヤーのサポート役を担う"人間と同等以上"の知性を宿したノンプレイヤーキャラクター、その存在に依存したユーザー達が狂気的なまでに続編を渇望したのである。

 それまで、どの分野でも成し得なかった完全な自律思考を有したAIが、よりにもよってゲームという枠組みで誕生してしまった結果、それに魅せられたプレイヤー達がこぞって署名運動まで起こしたのだ。


 問題のNPC、通称"デバイサー"は、プレイヤーと共に戦い、成長し、喜びと悲しみを分かち合う最高のパートナーとして、戦えば戦うほどに他の誰にも真似できない優れたサポートをこなすようになっていくという代物であり、無印版にて、機体に直接組み込まれた一個のCPUとして誕生した。

 そして、VR式メカアクションゲームのブームに火を付けたどころか、爆薬をもって大炎上させた(無論、良い意味で)後継作"革命版"にて、生身の人間の姿に生まれ変わって再誕という流れである。


 現実世界の人間と変わらない。本物の人間と接しているとしか思えない。そんなノンプレイヤーキャラクターの誕生によって、【Trance Sense Combat】は一躍世界の注目を浴びた。


 そして、俺がこのゲームの無印版と出会ったのは、小学二年生の頃の夏休み。ふと立ち寄ったゲームショップで、新作コーナーの隅に置かれていたのを発見し、パッケージにプリントされていた人型メカの格好良さに惹かれて購入したのが切っ掛けだった。

 そこから先は、言うまでもないだろう。夏休みのビッグイベントである家族旅行すら、子供ながらに鬱陶しいと思うほどにこのゲームに熱中した。もしここで旅行には行かないなんてほざこうものなら、親に取り上げられていた可能性もあるほどに。とはいっても、いざ旅行に行けば、ゲームの事など忘れて、大いに遊びまくったのだが。

 それは兎も角、購入の3日後には、定価6800円のゲームがプレミア価格となって100倍の値段でネット上で取引されるようになった挙句に生産中止となったことや、自律AIシステムの公表で世界中が震撼していたことなど知る由も無く、俺はこのゲームに入り浸る……そんな日々を過ごし、あっという間に10年の歳月が経過した。


 俺も高校を卒業するまでに成長し、今は大学入学を直前に控えて、僅かばかりの休日を謳歌している。

 友人達との卒業旅行も堪能し、大学生活へ向けた一人暮らしの準備も終えた今、やることと言えば当然、トラセコだ。最早、俺の一番落ち着く場所といえば、自室ではなくトラセコの仮想空間内にあるマイルームであるといっても過言ではない。


 病気だといわれても否定できないところが、唯一のネックか。


 まぁそれはさておき、そんなトラセコも現在では三作目【Trance Sense Combat3:Evolution】がリリースされている。


 既に発売から1年が経過しているが、その人気は衰えるどころか増え続ける一方。

 ゲームシステムも無印版から比べれば雲泥の差。三作目ではエディタ機能を使って、ありとあらゆる機体パーツを自作できるまでに自由度が進歩している。

 今も尚、対人戦を望めば、ものの数秒でマッチングし、熱いバトルを繰り広げることができるくらいだ。


 そう、例えばこんな風に。


 赤く明滅する、多目的3Dディスプレイ。耳障りな警告音。

 そんなにビービー自己主張しなくても、ちゃんと把握してるっていうに。どうしてこう、ダメージアラートっていうのは、いちいち人の神経を逆撫でするような仕様なのか。こんなん逆に焦るだけだってーの。


「ちっ……」


 恐らくはエレメンタルの伝導率が高いミスリルとオリハルコンの合金製なのだろう、薄らと黄緑色の光を帯びる長剣を構えた敵機を睨みながら、舌打ちを一つ。


 今、俺が対峙している相手の機体名はエリュシオン。メインカラーの白とサブカラーの金色が実にマッチしている。結構目立つカラーリングながら、細部までの拘りが窺えた。こういうの、嫌いじゃないよ。

 全世界累計約1億8000万人いるトラセコプレイヤーのうち、公式ランキング登録している1億7600万人余りのプレイヤーランキングにおいて、トップランカーには一歩及ばないものの、それでも2位の栄誉をその手中に収めている御仁だ。


 ちなみに、俺のランキングは9位。ギリギリの一桁台。まぁ上げようと思えば上げられるけど、とあるレトロなロボゲーの中で因縁の数字である9は個人的に大変気に入っているので、このランクに甘んじている。というか、死守している。


 いや、そんなことはどうでもいい。問題は俺の愛機だ。機体の脇腹を抉るように傷付けられ、金属のバリが出来てしまっている。見た目がなんとも痛々しい。

 ただの丈夫で軽い長剣が、ちょいと不思議パワーを流してやるだけで、鋼をバターのようにやすやすと切り裂く魔剣に早変わりとは……まっことファンタジーとは恐ろしや。

 一応、純然たるロボゲーなんだけどねこれ。何故にファンタジーなんて言葉が出てくるのかは、追々分かってくると思う。


「胴体部の戦術装甲、及び内部機構保護膜、僅かに損傷。主機出力6%ダウン。パラメータ修正……完了。戦闘行動に支障なし」


 複座式である自機の後席に座るパートナーが、無機質ともいえる抑揚のない、しかしながら、淑やかな声音で機体の状況を報告してくる。

 胴体部分のみとはいえ、最高位金属であるアダマンタイト合金製の外装を装着していたからこそ、この程度のダメージで済んだのだろう。機関部への直撃は避けていたとはいえ、もしも胴体がミスリルやら黒鋼製であったら、もうちょい焦っていたかもしれない。

 まぁ一応、こっちもエリュシオンの左腕を頂戴済みなんだけど。サブマシンガンを肩と腕を繋ぐ間接に捻じ込んで接射してやったので、機体の自己修復機能だけじゃ最早どうしようもあるまい。ぷらんぷらんと力無く垂れ下がったまま動かないのがいい証拠だ。


「やれやれ、自慢のぼでぇに傷なんざ付けてくれやがって。修理代は運営持ちだからいいけどさ」


 座席位置の関係上、自分の頭より幾分か高い場所から注がれた相棒の言葉を脳内に収めつつ、愚痴ともとれる独り言を呟いてみる。


「肯定。たとえ今日の試合で機体が全損したところで、修理代を気にする必要は全くありません。マスターは思う存分に戦ってください」


 別に返事を期待していたわけでもないが、律儀に言葉を返してくれるパートナー。

 言葉の一つ一つに確かな気遣いが感じられる。これだから俺は君が大好きだ。愛していると言ってもいいね。


「私が、全力で貴方をサポートします」

「さんきゅ、レーヴェ」


 最高のパートナーの一言に、溢れる自信が笑みとなって零れる。

 そんな俺の感謝の意に応えるように、レーヴェは、人によっては氷の彫像のようだと揶揄するであろう無表情を崩し、柔らかく微笑んだ。


「さて、そろそろ決めるとしようか」

「ご随意に。マスター」


 弾を撃ち切り、弾倉が空になったブルパップ式のサブマシンガンを放り捨てる。

 それと全く同時、いや、一瞬だけ早く、背部のウェポンマウントが起き上がり、装着された剣の柄が機体の右側頭部に迫った。

 俺の思考を読み、ネウさんが行動を先取りした結果である。これぞまさしく以心伝心、阿吽の呼吸といえるだろう。ツーカーの仲ともいう。


 俺は、機体の全長と比べると、大太刀もいえる長大さを誇る日本刀型のブレードを一息に抜き放った。


「ブレードユニットの接続を確認」


 レーヴェがそう宣言すると、自機の掌に持った真っ黒な刀から耳鳴りのような音が発せられる。しかし、それも気のせいだったのかと錯覚するほどに一瞬で治まった。


 満を持してウェポンマウントから解放されたこの大太刀、銘を『八ツ崎君』という。自分で作ったわけではないので、何故に君付けなのかは知らない。

 余計な装飾もなければ、刃がデザイン的に意味不明な形してもいない。柄や鍔、はばき等は内部に装置を組み込む関係上、どうしても機械染みて無骨になってしまうが、それでも外見上は日本刀らしい繊細で実直な美しさを保った非常に良い武器だ。

 所謂、バイブレーションソードと呼ばれる刀剣で、高周波振動によって物体を切断する代物だ。本試合で正式に初公開となる貴重な逸品である。

 この刀も外部装甲と同じくアダマンタイト合金製だが、こちらは配合された金属が異なるのはどうでもいい話。


 ちなみに、この八ツ崎君は、今現在この機体に搭載されている『フェイタルドライヴ』という主機と抱き合わせで貰ったものであり、俺が製作した"とあるシステム"とトレードされたものだ。とはいっても、現状はあくまで試作品の物々交換というだけで、お互いに中身である設計図まで開示したわけじゃない。

 今はまだ、お互いに試作品を評価している段階だ。今頃は、俺が渡した試作パーツも俺の与り知らぬところで運用テストされていることだろう。


 余談だが、八ツ崎君とフェイタルドライヴを製作したクラン【でぶニカル木偶ノロジー】は、このゲーム界隈で最も有名な技術者プレイヤー達が寄り集まったマッド集団であり、同じくこのゲームで対ギルティア戦において最強と謳われるクラン【ONE FOR ALL】と互いに協定を結んでいる。

 協定の内容は単純。要は、技術者クランが試作パーツを提供し、対ギルティア戦クランが試作パーツを運用、評価するといった具合。


 かくいう俺はそのどちらとも交友があったりして、結構色んなところで情報交換やら新作パーツを融通してもらっていたりするのだ。


 閑話休題。


「凄いな、この八ツ崎君」

「確かにスペック上は素晴らしい性能ですが、アストラルの消費量が尋常じゃないです。フェイタルドライブへのエーテルの供給が間に合いません。通常出力域を維持したままでは、あと5分で機体が強制停止(エンスト)します」

「わかった。エーテルの供給量を通常から高に変更。加減はネウさんに任せる」

「ヤー。エーテルの供給を高出力域に変更します」


 少しだけ困った顔で「要改善ですね」と付け加えるネウさんに同意しつつ、俺はフットペダルを踏み締めた。

 ぐんっと背中がシートに押し付けられ、機体背部の排気孔から勢いよく吹き出るアストラルの粒子が、薄緑色の軌跡を残す。


「レーヴェ、よろしく」

「ヤー、マスター。マインドニューラルリンクシステム、起動します」


 わざわざ言葉にしなくとも、プレイヤーが望むことを察し、タイムロスなしで実行してくれるのがデバイサーだ。


「意識領域、同調開始」


 そんな台詞の後に、レーヴェの金色の瞳が、万華鏡の如く輝く美しい虹色に変化する。

 一瞬だけ気が遠くなり、VR故にもともと曖昧だった五感が、さらに消失していく。

 そのままふわっと意識が浮いたような心地の後に、全身の隅々まで新たな神経が張り巡らされていく感覚に襲われた。

 視覚が、聴覚が、肉体のあらゆる感覚が機体と融合していき、最終的には、レーヴェを通して自分自身が愛機『ナイトレーヴェン』そのものになったような、文字通りの三位一体となっていく高揚感に心が躍動する。


「意識領域の同調、完了。いけます」

「了解!」


 ちらっと視界に映る、闘技場内の巨大モニター。そこに映し出されたナイトレーヴェンの双眸が、通常時の緑から赤色に染まっているのを確認し、思わずほくそ笑んだ。相変わらず格好良すぎるぜ、俺の愛機。メインカラーである黒とサブカラーである銀が今日も良く映える。え? 自画自賛はうざい? 笑ってスルーして。


 マインドニューラルリンクシステムとは、一般的に『リンク』と略される。所謂、ロボットものでは王道ともいえる、覚醒システムだ。つまるところ、奥の手ともいう。

 他にもリミッター解除やら、デバイサーの出力限界を超えたエーテル供給による一時的な機体性能強化等もあるが、どれも使用後のデメリットが深刻なので、ここぞという時にしか使われない。

 そりゃ、こんな大技をお気軽にホイホイ使われちゃ、ゲームにならんからね。仕方ないね。


 ここで、相手も片腕を失った分のバランス調整を終えたらしく、メインブースターと足裏の『ランドスケーター』の出力を全開にして、一気に距離を詰めてくる。


 長剣を振り被るエリュシオンと擦れ違うように、試し斬りを実行。相手の長剣のみに狙いを絞り、沿わせるように刃筋を立てる。

 次の瞬間、俺は一切力を加えていないにも関わらず、エレメンタルの粒子を纏った長剣が豆腐のようにすっぱりと切れてしまった。

 赤熱した細かな金属片が宙を舞い散り、赤い軌跡を描く。


 驚愕したような挙動を残し、エリュシオンは即座に後退しつつ長剣を廃棄する。流れるような動作でウェポンマウントを展開し、備え付けられていたアサルトライフルに持ち替えた。

 次の瞬間、雷鳴のような轟音を響かせて、無数の弾丸がこちらに飛来してくる。ランドスケーターは地面を滑るように移動する為、射線が縦軸にブレることがない。その特徴を利用した的確な射撃だった。


「なるほど、ストックを脇で固定しているのか。流石だな」

「エリュシオンの腕部は万能型です。片腕を潰したとはいえ、銃器の適性は決して低くありません。プレイヤーの技量も相俟って、フルオートといえど、その命中精度は脅威となるでしょう」

「んだね」


 正確に胴体や足関節を狙ってくるのは、レーヴェの言う通り、偏にプレイヤーの技量に違いない。さすがに1億人超もいるプレイヤーの中で、頂点の一角に立つだけはある。ランカーの中でも一線を画した技量を持っているようだ。


 俺は迫り来る弾丸の雨を、ランドスケーターを参考に独自改良した新システム『ランドスライダー』の機動をもって回避した。

 直線的なダッシュ移動から、機体の軸は動かさずに左右へのスライド移動、時にはひたすら直進しながらも、その場で機体をスピンさせて銃弾を回避する。

 従来の走行システムでは到底再現できない縦横無尽の機動に、エリュシオンが放つアサルトライフルの弾丸は掠りもしない。

 モニターも向こうでは、尚も銃撃を続けるエリュシオンが気圧されたかのように後退している。


「これはヤバイ、実にいい気分だ」

「今までランドスライダーの性能を隠していた甲斐がありましたね。相手側は明らかに動揺しているようです」

「実戦投入は初めてだから、少し緊張してたんだけどね。圧倒的じゃないか、我がランドスライダーは!」

「ヤー。リンクとランドスライダーを併用した戦闘機動は、エリュシオンの反応速度を凌駕しています」


 レーヴェの言う通り、エリュシオンは完全に及び腰になっている。このまま押し切れそうだ。

 無数の弾丸を掻い潜り、一息に間合いを詰めると、八ツ崎君を横薙ぎに振るう。高周波振動を纏った刃はアサルトライフルを真っ二つに両断するが、エリュシオンを裂くには至らない。咄嗟にバックステップで避けられてしまった。流石だ。

 ならばと、俺が刀を切り返すよりも速く、エリュシオンが無手のまま、動かない左腕を盾にして、こちらに突っ込んでくる。


「むっ!」


 八ツ崎君は大太刀といっていい長大さ故にリーチは抜群だが、懐に潜り込まれると弱い。相手の左腕を完全に断ち切ったものの、再度八ツ崎君を振るうには距離を詰められ過ぎてしまった。

 このまま体当たりでもかましてくるのかと身構えるが、そこで相手の挙動の不審さに気が付く。どうにも体当たりや拳打を狙っているにしては、体勢がおかしい。


 嫌な予感を覚えた刹那――「いけないっマスター!」――エリュシオンが何も持っていない右腕を頭上から振り被ったと思いきや、その手に突如として短剣が出現する。まるでマジックだ。


「なにぃいい!?」

「マナの放出を確認。エリュシオンに乗るプレイヤーの"スキル"と思われます」


 懐に入られた時点で、八ツ崎君で防御することは適わない。考えるより先に両手を塞いでいた八ツ崎君を手放し、咄嗟にとっておきの隠し玉である非常武装を解放する。

 強烈な放電現象を起こす両手を掲げ、白羽取りの要領でなんとかエリュシオンの剣を受け止めた。

 網膜を焼き潰す白光と共に、ばじゅんと形容し難い音をたてて蒸発する短剣をエリュシオンが慌てて手放すが、もう遅い。感電した右腕が力を失い、地面へ向けてだらりと垂れ下がる。

 あちらさんの優秀なデバイサーが素早く遮断したのだろう、電流が胴体部までは流れなかったらしいのが残念だ。上手くいけば、今ので機能停止に追い込めたのに。


 そして、この状況下で尚、やられたままでは終わらないところが、エリュシオンに乗るプレイヤ-がランカーたる所以だろう。一歩後ろに下がったと思ったら、そこから即座に回し蹴りを放ってくるとは、素直に賞賛に値する。

 機体の塗装センスといい、緻密さと大胆さを兼ね備えた戦闘スタイルといい、本当に良いプレイヤーだ。是非ともフレになりたい。

 それはさておき、放たれた蹴りを背部メインブースター、肩部サイドスラスター、脚部バーニアの全てを使用し、爆発的な加速をもって回避しつつ、ランドスライダーの制御をもって背後に回り込んだ。


 ふふふっ! ランドスライダーと合わせて、肩部パーツにスラスターを仕込んでいるのは、世界広しといえど俺くらいだろうさ。


「わははは! 背中がガラ空きとはこのことだぜぇ!」

「ジャックポット、ですね」


 腰部ウェポンシースから片刃の直剣を抜き放ち、その勢いのまま斬撃に繋げる。

 エリュシオンに回避する術はない。


「勝った! 第二部完ッ!!」


――必殺の斬撃が、相手の機体を右斜め下から真っ二つにする……と、思ったのだが。


 突如として、身体の芯を突き抜けるような、妙な衝撃を感じた気がした。

 その直後、唐突に視界がモノクロームになり、愛機がピクリとも動かなくなる。

 いや、愛機だけじゃない。

 向こうのエリュシオンも、こちらへ強引に振り向こうとする不安定な姿勢のまま硬直している。明らかに、静止できる体勢ではないにも関わらず。


「あ……あれ? なんだ? いったい何が……レーヴェ? 無事?」


 ハードかサーバーの負荷限界によるフリーズだろうか。

 それにしては妙だ。通常ならば、そのまま問答無用でオンライン接続が中断され、現実の空間に引き戻されるのに。こんなことは初めてだ。


「私は大丈夫です、マスター」

「あ、レーヴェは普通に動けるんだ。良かった」

「ヤー。私の場合はマスターのPCにデータを完全に移植していますから、サーバーがダウンしようと、ゲームのサービスが終了しようと、何も問題はありません」

「そりゃそうか」


 あまり褒められたことじゃないけども、デバイサーをゲームから切り離し、自分のPCへ移植後、スタンドアローンで起動させ、ゲーム内の仮想空間のみならず現実世界でも一緒に過ごしているプレイヤーは多い。

 特に、無印版を経て三作目を購入しているプレイヤーは、そのほとんど全員が自分のデバイサーに依存しているといっても過言ではないだろう。

 かくいう俺も、その一人だ。ただし、その莫大なデータ量を移植する為に、新規で最新且つ最高性能のデスクトップPCを3台購入する羽目になったのは内緒だが……バイト大変だったなぁ。


 世間一般の目からすれば、ゲーム依存症の異常者とそう変わりないんだろうけど、他人にどう評価されようがとことんどうでもいい。

 俺の人生の半分は、レーヴェと共にあった。今更、彼女なしでは生きられない。

 もしも仮に、運営会社がデバイサーのデータ消去に動いたとしたなら、それこそ本当に、冗談でも何でもなく、如何なる手段を用いてでも本社爆破を敢行する覚悟だってある。


 それだけの思い入れと情があるのだ。彼女には。


「まぁレーヴェが動いてるだけでも大分救われるのは間違いない。さて、これはいったい何がどうなってるのやら」

「わかりません。現在の状況に当て嵌まる該当データ……なし。何が原因で、今何が起こっているのか、一切不明です」

「ふぇー……わりかし面倒な事態かも」


 言いつつ、空中をさっと指で撫でて、ホログラフィックのシステムメニューを起こす。

 目の前で固まっているエリュシオンのプレイヤーに対し、こちらの状況を伝える旨をメッセージで送信してみた。


「あ?」


 結果、エラー。メッセージは送信できなかった。


「なら、GMコールっと……はぁ?」


 結果、同じくエラー。GMコールは受理されなかった。


「えぇー? どうすりゃいいのよ、これ。レーヴェ、ちとGMコールしてみてくれない?」

「ヤー。……ダメです、メッセージが受理されません」

「うあちゃー……マジでどうなってんのこれ」


 思わず頭を抱えそうになるが、そんなことよりもまずは外部に連絡だ。知り合いに片っ端からメッセージやメール飛ばして、なんとかGMを派遣してもらおう。それでもダメなら致し方なし、強制ログアウトだ。


 さっと思考を巡らせ、メッセージウィンドウを開く。そして、ホログラムで構成された半透明のキーボ-ドに指を這わせる、まさにそのタイミングで事は起こった。


「お? おぉっ!? なんじゃこりゃああああ!!」


 停電したかのように視界の全てが暗闇に染まり、次いで、身体が重力に引っ張られ、真下に落下していく感覚。


 身体を固定していたはずのシートが消え去るどころか、愛機そのものが闇に浸食されていくように光の粒子となって霧散していく様を、この眼で見届ける。


 いや、機体だけじゃない。俺の身体も現在進行形で崩れていってる。


「うぎゃああああっ!! どうなってんだよこれ!?」


 いや、それよりも!


「レーヴェッ!? どこだ!!」

「マスター!」


 振り返った先には、俺と同じように宙へ放り出され、その身体を徐々に崩壊させていく大切なパートナーの姿があった。

 互いに同じ速度で落下しているらしく、彼女の長い銀髪が荒ぶるように逆立っている。

 本能的に、彼女へ向けて手を伸ばした。


「ぐっ……届けぇっ!!」


 俺が根元から千切れんばかりに腕を伸ばす先で、レーヴェも必死の形相でこちらに手を伸ばしている。


 もう少し! もう少しで届く!


 お互いの姿のみが鮮明に見える闇一色の背景に、徐々に様々な色の光の粒が加わっていく。それは瞬く間に膨大な数へと膨れ上がり、さながら天の川を内側から眺めているかのような錯覚に陥るが、当然ながら周りの景色へ目を向ける余裕などない。

 ひたすら底へ底へと落ちていく、身の毛もよだつ恐怖に苛まれながら、ただひたすらにパートナーの手を求めた。


「レェエヴェエエェェッ!!」

「いや……いやです……っ! マスタアアァァッ!!」


 絶叫。

 消えゆく指と指が微かに触れ合ったところで、視界が白く覆われた。

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