ツナギ屋の話
どーも、初めまして。
俺、「ツナギ屋」っていいます。
いやいや別に怪しいもんじゃないって。
俺としても困るんだよねー。
仕事中にさ、関係のない人が現れるのは。
何言っているって? あんた学生?
あぁ、やっぱり。未成年だよね。
多いよねー。未成年の異世界トリップ。
ある日、突然異世界に来ちゃったっていうやつ。未成年のほうが順応性があるからなんだと思うけど、たまには成人でもいいじゃん。
っていう話をしたら上司に怒られてさー。不満じゃねぇって。ただ思っていることを言っただけっていうのに、頭の固い上司を持つと大変だよねー。
お子様には早かったかな?
冗談。そう怒るなよ。俺の仕事はね、あちらとこちらを繋ぐ仕事。あんたらが言う異世界に繋ぐ仕事。だから「ツナギ屋」。
は? いいから、友達を返せって?
いやいや、あんたのお友達は異世界に行ったんだって。俺の仕事はそれでおしまい。
つーか、見たでしょ?
お友達がプールに落ちた途端、光って消えていったの。びっくりした? 俺の仕事を褒めてくれたっていいんだよー。発光させるのって意外と簡単なようで難しいんだよなぁ。
今頃、あちらで頑張っているんじゃない。
まぁ、異世界に行った人が戻ってくるかはその人次第だし、あちらの世界の住み心地がよければそのまま暮らすだろうしね。
あんただって、そっちのほうが都合いいんでしょ?
いやいや、なに、否定してんの。
大切な友人とやらを真夜中のプールに突き落としたのはそっちじゃん。冷たかったよね。怖かったよね。信じている子が、仲の良いと思った子が、後ろから突き落としてくるなんて予想しないよね。
よかったじゃん。本当にいなくなって。
あんたがその子をどう思っていたかなんて興味ないけれど、心の底で消えて欲しいって願っていたんじゃないの。
だから、本当に消えた。
この世界から消えた。
泣くほど嬉しいの?
それとも、今頃になって後悔してるの?
俺としては、あんたがプールに突き落とすという「きっかけ」を作ってくれたから繋ぐことができたんだけどね。助かったよ。
ありがとう。
これであんたは自由だ。あの子が異世界というとんでもなく遠い世界に行ったおかげで、縛られなくなった。好きでもない話を合わせなくていい。黙ってついていく必要もない。他人と仲良くしているのに嫉妬して、嫌われることに怯えなくていいんだ。
今日のことは誰も知らない。俺とあんただけの秘密っていいたいところだけど、俺の存在自体企業秘密なので朝になったら忘れちゃいます。ざんねんでしたー。
別れって怖いよね。それこそ異世界トリップのように、ある日突然やってくる。本当に言いたかったことすら言えずに終わる。
じゃあ、俺はここで。残業はしない大人なので、ちゃっちゃっと帰りまーす。
次はお友達作りがんばってね。
突然の別れに、出会う前に。