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青春、何するものぞ  作者: たみん
4/5

方角はどっちだ

親父の運転する車で病院へ直行することになった。当然と言えば当然と言える。

「お前、友達できてたんだな」

「まあ、一応ね」

「そうか」

親父との会話はいつもこうだ。どうやってもうまく続かない。俺が会話を嫌がっている訳では無い。今、話題をふってみろと言われればすぐにでもいける。例えば…

「最近、捜査が立て込んでるみたいだね」

「あぁ。ちょっと大がかりな捜査でな」

「そっか」

この通り、一往復半で会話は終了だ。最後の言葉は「そうか」が九割近く占めているから、厳密には一往復なのかもしれない。こんなにも弾まないとは、まるで空気の抜けたボールのようじゃないか。…我ながらいい例えだ、ものすごくどうでもいいけど。

夜間外来専用の駐車場には、車がほとんどなかった。親父いわく、混んでいることもあるらしい。そろそろ発熱も限界だ。なんだかんだ結構辛い。

親父が受付を済ませてくれた。待合の椅子で並んで座る。親父との間に不自然な空間ができてしまった。かといって今さら座り直すのもなんだか変に思える。まあ、良しとしよう。

混んでいても、いなくても待つのが病院なのだろう。そんなことわかっている。とはいえ暇だ。

ふと転校してからのことが浮かんだ。なんだか全部が全部思っていることと違う方向へ物事が動いている気がする。何とか距離を置こうとしているのに、結局距離は縮んでしまった。置きたいのか縮めたいのか、本心はどちらなんだろう。正直自分でもわからない。今思えば「安田さん」と呼んでいたのが話の流れと共にいつからか「莉帆さん」と呼んでいたわけで、そう考えるなら縮めたいという方が本心なんだろうか。親父も莉帆さんは友達だと思っているし、俺だって莉帆さんのことを友達だと思っている。…多分。どちらが本心か、まだ答えは出ない。考えている内に、転校か卒業を迎えていそうだ。それはそれでなんだか気に食わないな。

「稲葉さーん。稲葉 渡さーん。診察室三番へどうぞ」

診察室の前。後ろを振り返ってみた。ガランとしていた待合は、いよいよ誰もいない。なんて穏やかな夜なんだろう。



昨日、ただの風邪だと診断された俺は風邪薬が出ただけで特に何事もなく帰された。疲れてしまったおかげで今日も熱は下がらず、こんなことなら病院なんていかなければよかった、とも思う。親父が仕事を休む訳もなく、今日はじめての食事はなんだかんだで夕飯だ。昨日、病院の帰りに買った、アルミの容器に具から何から至れり尽くせりのうどんを温めて食べるしかない。とても料理する気にはなれないし、仕方がない。食欲も大してないから、お粥とかが食べたかった。とはいっても親父がいたところでそんなものは作れない。

ふいに電話が鳴った。なんというか、ものすごく面倒だ。かといって出ない訳にもいかない。親父が急用で掛けて来ているなんてこともない訳じゃない。

「はい、もしもし稲葉ですが」

「南ノ原高校の田村です。渡くんかな?」

「そうです。こんばんは」

「体調はどうですか?少しは良くなった?」

心配して、わざわざ電話してくれたらしい。それにひきかえ親父は電話さえしてこない。全く、これじゃ「仕事と私とどっちが大事なの!」状態じゃないか。

「はい、相変わらず熱はありますが随分楽になってきました」

「良かったです。渡くん、お父さんと代わってもらえるかな?」

「父はまだ帰ってません。どうしても休めないみたいです」

仕事と私とどっちが大事なの!状態なんです。と言いたい気持ちをぐっと堪えて電話を終えた。また今度でいいとのことだったけど親父に何の用だろう。まあ、何でもいいか。さっさとあの至れり尽くせりうどんを温めないと、このまま何も食べずに寝てしまいそうだ。

キッチンの冷蔵庫は二人で使うには若干大きすぎる。大は小を兼ねるなんて言うけど冷蔵庫の場合はそんなこともないらしい。アルミの容器を火にかける。

「おいしくなれよ…」

話しかけたところで、当然返事はない。そりゃそうだ。でもくだらないことで労力を消費するほかに、何もすることがない。病気のときに話し相手がいないと、どうしても具合ばかりに気が向いてしまう。そのせいで余計に体調が悪いように感じる。

「うどんできた」

独り言がキッチンに悲しく消えた。アルミの容器をとりあえず皿に載せようと触れた右手に、痛みが走る。熱々のアルミを素手で触ってしまった。注意力散漫って、案外恐ろしい。水で冷やす方が良かったはずだ。確か、そんなことを誰かが言っていた気がする。

湯気が収まりつつあるうどんをテーブルに置いて、火傷した右手を確認してみた。水で冷やしてはみたものの、まだ赤く腫れている。これがまた、結構痛い。一応保冷剤も持ってきてみた。右手に握っておこう。うどんは食べにくかった。不馴れな左手のせいだ。

食べ終えたアルミの容器を捨て、部屋に戻る。布団に直行した。

ふと莉帆さんのことを思い出した。あ、これって恋愛ソングにありがちな、まぶたを閉じると君が出てきちゃうあれなんだろうか。いや、それとは別物だろう。単に楽しかったことがよぎっただけだ。

にしても、俺はこれからどうするのが良いのだろうか。確実に距離は縮んでいるわけだし、これ以上必死に距離を作ろうとする意味はあるんだろうか。とはいえ、転校の連続で自分を見失っている俺が、素になろうとしたところでどれが本物なのかわからない。そんな奴が突然、自然に振る舞おうとしたって妙に空回りするのがオチなんじゃなかろうか。そうなったら今度は普通に距離を置かれるぞ!?

そうか!距離置こうとしたのに縮んだってことは、距離を縮ませようとすれば置かれるってことに…ん、本当かそれ?違うだろ。

ええい、もう縮めるとか置くとかを考えるのは止めよう。ますます具合がおかしくなりそうだ。とりあえず壁を取っ払うことに決めた今の俺は、どの方角にも進んで行ける。思い描く青春とやらを謳歌してみよう。なんだか凄まじいまでの清々しさだったが、知らぬ間に俺は寝てしまっていた。

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