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青春、何するものぞ  作者: たみん
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新たな予感

最初の転校は確か、小学四年生のときだった。仲の良い友達から別れを惜しまれたときの寂しさはやるせなく、涙が止まらなかったのを覚えている。その後は小学六年生のときと中学三年の冬に転校した。ずいぶん早いペースだったからか、後の二回はさほど悲しくもなかった。多分慣れてしまったのだろう。そして今、高校生二年生になろうというときに再びの転校を迎える。もはや我が家の恒例行事だ。転勤の多い親父のことはどうしても好きにはなれなかった。仕事のことだから仕方のないことだけど、こっちとしてはもうちょっとちゃんとした青春が送りたい……なんてカッコ悪いから口が裂けても言わないけど。

桜の咲く季節、またしても新たな学校に足を踏み入れる。南ノ原学園高等学校というなんとも爽やかな学校名だ。自転車で通うにはちと遠いのが難点だが。

教室に向かう途中で担任の田村先生に会った。

「はじめまして、稲葉 渡です。お世話になります」

し慣れた挨拶をする。もう何回目なのだろう。

「担任の田村です。よろしくね、稲葉くん」

優しそうな女の先生だ。声も柔らかかった。まだ教師になりたてという感じか。チャイムが鳴った。田村先生の後に続いて教室に入る。四度目の新しい環境だ。かつてはおもしろい自己紹介を考えたりもしたが、それさえもしないあたり、どこか距離を置こうとしてしまっている。

「はじめまして、稲葉 渡といいます。よろしくどうぞ」

これまた何度目の挨拶か。どこか少し悲しかった。

「今日から皆さんと生活を共にする稲葉くんです!あまり質問攻めにはしないように」

田村先生にうながされて一番うしろの席に座る。窓側とは、なんとラッキーな。それとなくざわつく教室は田村先生の一声で静かになった。始業式に出向くようだ。俺も列の後ろに混ざって、校長先生の長い長いお話を拝聴しにむかった。


始業式を終えると自己紹介が始まった。HRだ。間違いなく全員は覚えられないから、周りのひとだけでも覚えておこう。右となりの人の番だ。

「秋山 遥です。よろしくねー!!」

明るい感じの人だ。かわいい雰囲気が醸し出されている。多分モテるんだろう。しかし窓側の後ろであ行がくるとは、どんな並び順なんだか。しばらくして前の人の番。

「倉畑 大輔だ。よろしく」

細マッチョって感じ。見た目からして寡黙そうな雰囲気という感じか。

またまたしばらくして左となりの人。

「保田 莉帆です。よろしくおねがいします」

おしとやかな人だ。頭も良さそうでござる。数学得意かな??……とまあ長年の転校で培ったこの人物予想は果たしてどれほど的中しているのやら。完全な偏見である。

「自己紹介も終わったので、数学と英語の新学期テストを始めますね」

…田村先生?聞いてませんよ。数学!?……死んだ。答案用紙が回ってくる。

「それじゃあ、始め」

…そもそも俺は今日、始業式だけだと思っていたから、出来が悪くてもしょうがない、そう自分に言い訳をしてと……あれ?「シャーペン」なる文明の利器を忘れた。どうしようか、手を挙げる?そうちょうどこの左手のように……あれ?

「どうぞ、使ってください。お困りでは?」

小声で保田さんがシャーペンを貸してくれた。なんという女神だ。ありがたい。せっかくの好意でありがたいのだが、解けぬものは解けぬ。結局英語はそれなりに解けたが数学はほとんど白紙のまま出すことになった。



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